〈二の剣〉その1
宿を後にした〈三の剣〉。〈テルアデス〉の街で、〈二の剣〉に出逢う。
〈テルアデス〉の街をゆっくり歩く〈三の剣〉。深めに被った藍色の外套と、首元まである薄水色の布で、顔を隠す。行き交う人々とすれ違いながら…進む。〈新年祭〉が、五日後に迫っているため、人通りは、多い。〈新年祭〉は、十三月と新年の一月の間…十日間を指す。しきたりにより、その間は、〈傭兵〉も旅商人も街に留まる。〈傭兵〉は、街に入る為の通行税や宿代…店の買い物に至るまで、高い税を支払っているが、〈新年祭〉の期間中だけは、一般人…町人と同じになる為、身分証を提示する必要が、無い。〈傭兵〉には、様々な形態がある。特定の街と街を行き交う商人。流れの商人や芸人。また…例えば魔獣の卵を取る。山での木の実取り。きのこ取りなど…山での作業者。ー同行して身辺警護をする〈傭兵〉が、七割強程度。雇用関係があるため、街での税は、町人と同じ。街と街を行き交い、特定の雇い主を持たず…一年の大半を荒野で過ごす者が、二割弱程度。身分を偽って〈傭兵〉になっている者一割未満。任務遂行の為、〈剣〉が、化けているのだ。〈剣〉は、基本…セアム島から出る事は、余りない。一月に一度…〈トーパズ神殿〉のあるトパラ島に…奉納試合に出かける時。純血魔獣のいる修練島に鍛錬の為、行く時。〈トーパズ神殿〉に行くのは、二名。〈新年祭〉の時に…四月から翌年の三月までの組み合わせを発表する。修練島には、主に…〈三の剣〉、〈八の剣〉、〈九の剣〉が、三カ月に一度…一週間…行っている。
「ふぅぅ!!。」人混みの多さに辟易する〈三の剣〉。店と店の隙間の路地で、一息つく。老若男女…皆、大荷物を持ち、行き交う。〈新年祭〉の期間中は、店も休みになる為、いい物は、早め早め…に買わなければならない。ただ…品薄状態になる為、〈新年祭〉の一週間目ぐらいなると、値段が、少々…高くなるのは、仕方ない。気を取り直し…人混みの中を進む〈三の剣〉。外套で、身体覆っているが、鎧は、宿に置いている為、細い肢体が、浮き彫りになる。女並みの身長と、細い肢体…〈剣〉とは…〈三の剣〉とは、誰も思わない。しかも…両腕に!太いリング[オーラ制御装置]を付けている為…〈騎士〉や〈感知能力者〉も、早々…判るはずがない。悠々自適に…街をゆっくり歩く〈三の剣〉。だが、直ぐに…厭なオーラを放つ。前方から高いオーラの持ち主が、駆け込んで来る。「〈三〉!!。」近づくなり、抱き寄せるように抱きつく。「元気か?!。相変わらず…細いなぁ!。」青みがかった黒い髪と瞳。身長は、242地。伸びきった…ぼそぼそな髪と立派な顎髭。服もくたくたのしわのある上下の薄緑の服。すりすりと、顎髭で、〈三の剣〉の顔を擦る。「止めて下さい!。〈二の剣〉!。」引き離そうとするも…〈二の剣〉の強靭な二の腕が、邪魔をする。それでも…何とか…強引に引き離す〈三の剣〉。二人の様子に周りの人々が、驚き…遠巻きに見る。「連れないなぁ!。一年ぶりなのに!。」真底…残念そうな顔をする〈二の剣〉。ずれた布から仮面が、見えている〈三の剣〉。遠巻きに見ていた数人の人々が、顔を見合わせ、驚く。「〈紫〉…〈紫銀〉の…」「つ、〈剣〉…様!。」慌てて、土下座をする。途端に!ざわめき…次々と土下座をする。四方八方…見渡す限り、訳も分からず…土下座をしている人々の山。店の店主も店の外に出て…土下座をしている。脚の悪い老婆は、店主の差し出した椅子に座り、深々と、頭を下げている。じろりー〈二の剣〉に強い視線を放つ〈三の剣〉。ぽりぽり頭をかく〈二の剣〉。「ふぅぅーー!!。」息を整えると、「私は、〈二の剣〉。邪魔をして悪かった!。好きにしろ!。」その間に…布を直す〈三の剣〉。人々は、まだ…立ち上がらない。「〈三〉…。小遣いだ!。」二金貨を指し出し、押し当てる。「?!。」「車屋に行くのだろう!。」「……。」無言で、受け取ると、路地に入って行く〈三の剣〉。それを確認すると、「散れ!!。」大声を上げると、人々の間を闊歩して立ち去る〈二の剣〉。
中央に商店街。路地を挟んで、左右に…民家。一区画事に太い道。民家の裏手が、車道。車道の外側は、宿と、歓楽街。その先が、三重から五重の城壁になっている。〈テルアデス〉の街は、三重。〈トーパズ神殿〉の下町としての街と、港町としての街の二つの顔を持つ〈テルアデス〉の街の形は、瓢箪形。中央のくびれた所に、港町の関所がある。下町の関所は、〈コーティアン〉側と、神殿側の左右。朝…八時から夕方の八時。大体…日の出から日の入りまで。小門〖勝手口〗は、いつでも…開いてるが、余程の事が無い限り…通る事は、出来ない。街と街の間には、乗り合い車が、大体…三便…走っている。ほぼ…三日で、行ける距離。三日の間は、宿場町が、点在しており…〈傭兵〉や旅商人が、無料で泊まれる。