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凱旋

 

「目が覚めると、そこには見知らぬ天井があった」


「勇者様!?」


 ふと呟くと、右隣から聖女様の猛烈な叫び声が聞こえた。

 頭に響いて痛い、やめてっ。


 --うぉっ!?


「勇者様ぁっ! よがっだぁ! よがっだぁよぉ! うぇーん!」


 むにゅり、と俺の胸板で蠢く物体が二つ。彼女が動くたびに柔らかい感触を味わある幸せ。

 ……って、そうじゃない!


「イセンタ、苦しいよ……!」


 勢いよく抱きついてきたせいか、俺の首を絞めるような形となってしまっていた。胸の感触を楽しむ以前に絞め殺されそうだ。

 それに、泣く声も大きくて頭痛が鳴り止まない。

 彼女の背中をバシバシと御構い無しに叩くと、状況に気がついたのかようやく離してくれた。


「ふぇっ? す、すみません勇者様っ! 私としたことが聖職者であるのになんとはしたないことを!」


 イセンタはぺこぺこと頭を下げる。


「いや、いいよ……ここは?」


「あっ、その、王都の中央教会です! 勇者様が気絶されたので、レナさんの転移魔法でここまで慌てて飛んできたのです。幸い、命に別状は無かったようで、でも、なかなか目を覚まされないし……うぅ、ぐすっ」


 あ、こりゃまた泣き叫ぶやつか?

 いや待て、こういう場合はアレをすれば大丈夫なはずだ!


「よしよし、すまなかったな、心配をかけてしまって」


「えっ? あ、ふあっ」


 イセンタのきめ細やかな美しい金髪を、右手を使って《・・・・・・》傷つけないように気遣いながら優しく撫でる。彼女が悲しい顔をした時は、こうすると決まって笑顔になるのだ。

 因みにレナに同じことをした方があるが、あっちの場合はなぜかむっつりと気分を害した表情になったため、それきりしていない。

 俺の掌にはイセンタ専用の洗脳の魔法でもかかっているのだろうか?




「…………ん??」




 いや、ちょっと待て、おかしいぞ?

 お、俺は、確か、魔王との決着の時に、右腕ごと持っていかれたはずじゃ……


「…………なん、だと?」


 イセンタの頭から手を離し、確認する。

 が、そこにあったのは、紛れもなく人間腕。肌色で、ところどころ傷ついている、間違いなく俺の右腕と右手だった。


「おい、イセンタ!」


「ふへへぇ〜〜っと、は、はいっ!」


 俺に名前を呼ばれた彼女は、現実に戻ってきたのかピシリと両手を伸ばし直立不動になる。恥ずかしさからか顔を赤らめ、俺の視線を合わせてくれないが、今はそんなことはどうでもいい。


「俺の腕は、どうなっている? これは、俺の腕……なんだよな?」


「あっ、その、それは、ですね……」


「ん? どうしたんだ。何か言いにくいことがあるのか? もしかして、傷口を思い出して気持ち悪くなったか?」


 今度は逆に顔を青ざめさせ、違う意味で視線を落ち着かせない。肉体の断面なんてものはなかなか気持ち悪いからな。聖女とはいえ女の子、やはり慣れるのは難しいのだろう。


「そういう訳ではないのですが……」


「そうか、じゃあなんなんだ。遠慮せず言ってみてくれ」


 寝たきりで話すのも辛くなってきたので、上半身を起こす。さりげなく両手を使ってみたが、やはり右腕に違和感は全くない。思った通りに動かせる。


「その、勇者様の右腕は……」


「右腕は?」






「改造されました」






 ☆






 俺は今、手を振っている。

 屋根はないが一目で高い代物だとわかる豪華や馬車に乗せられてだ。馬がイチ、ニ、サン、シ……12頭も轢いていやがる。しかもどれもがこれまた一目で上等だとわかる血統種らしき馬だ。


 道の左右に人がいるので、そっちを向いたりあっちを向いたり忙しい。


 同じ馬車には、仲間である、


 聖女イセンタ


 賢者レナ


 剣豪ガンツ


 の三人とも乗っており、同じく人々に向けて張り付いた笑顔で手を振っている。わかるぞ、口周りの筋肉が痛いよな。


 旅の序盤は和気藹々とした場面もあったものの、終盤はまさに死闘と呼ぶにふさわしい目にばかりあってきたからな。

 今更全力で笑えったってなかなか難しいよなぁ。

(俺に撫でられている時のイセンタを除く)



 さて、俺たちが何をしているのかというと、凱旋だ。

 魔王討伐記念とやらで、勇者様たちの栄光を讃える催し物が各地で開かれており、この王都では俺たちが転移してきたついでに本人たちを祝おうということで、こうしてパレードが催されているのだ。


 ……いや、祝おうというなら、こんな苦行を押し付けるなよ。こちとりゃ魔王を倒して腕と目が一度無くなったんだぞ?




 因みにその腕と目は、俺が気絶している間、"改造"された上で元どおりにしてもらっていた。手術の為に眠らせる手間が省けてよかった、と、担当医は言っていたらしい。


 何百年も前には、麻酔と呼ばれる薬を用いて患者を眠らせ、その間に普通の刃物を使って人の体を切りさばくのが普通だったらしい。想像しただけで寒気がするぜ。

 が、今の世の中ではそんなことをせずとも魔道具が発達している為、そんな手間のかかることもなく、また痛みもなく手術を行える。


 だが、"呪い"を受けた場合は別だ。

 呪いによって腐ったりした場合、手術をするには魔道具を使えない。魔道具の魔力と呪いの魔力とが反発し、余計に患部が悪化してしまうからだ。

 そもそも呪いとはそもそも魔族が使う魔法を指しているだめ、光の力を使う俺たち人間と、闇の力を使うあいつら魔族とは、魔力が反発しあうものなのだ(なお魔族側は自らの使う魔法を"呪文"と呼んでいた)。


 なので、旧来の刃物を使った手術しか適用できない。この手の手術ができる医者を手配して、前払い金を払って、麻酔や刃物など専用の道具を用意してと、色々と手間がかかるのだ。

 手術自体も魔道具を使うより時間がかかるしな。


 俺も魔王の呪いらしき攻撃をを受けたため、同様の処置を受けた。らしい。だって気絶していたし、目を覚ましたのは全て終わった後だったからな。


 で、その肝心のどんな改造をされたかは……今は関係ない話だろう。




 ともかく、俺たちは王都の民に向かって愛想を振りまいているという訳だ。

 はあ、いつまで続くんだこれ。ゆっくり進んでいるため、無駄に大きい王城がちっとも近くならない。大きいため距離感もイマイチつかみにくいし。一応、あの城の正門から入ってそのまま王様に謁見するらしいが、それまでにクタクタになっていることは間違いないだろう。



 だが、そんな俺たちの気持ちなぞつゆほども知らず、馬車は往く----



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