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【改題】呪われた転生者は生き残りたい  作者: 深風凪(みかぜなぎ)
一章 楽しい筈の文化祭は王女と神官の救世主召喚によりおじゃんになった
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白の章04_一年なんて待てないのならどうやってここから抜け出すか

 あの後、フェイト王女の計らいにより、城を少し見て回り、案内された主塔(ベルクフリート)にて、見渡した城下は、外国の街並みに似ているが、何処か違うような、美しい景色だった。

 画面越しでは見慣れていた筈の街並みも、いざ現実に、目の前に現れるとなると感慨深いものがある。


 そんな風景を見ても、大人達はどうしても、ここが外国だと言う線を捨て切れていなかったが、直感的には既にここが別世界なんだと理解していると思う。

 生徒達も同様に。

 皆、呆けたり、困惑したり、怯えたり、様々だった。


 きっと、それが普通だろう。

 呆けるより、困惑するより、怯えるより、死亡フラグのへし折り方を考えなきゃならない、私の方が可笑しいのだ。


 案内を終えたフェイト王女は、「お疲れでしょうから、少しお休み下さいませ」と侍女を呼び私達を一部屋三人から四人程度に分けて、部屋に通すと、御付きの者達と去って行った。


 部屋割に付いては、大人達と生徒会の人達が話し合い、仲の良い者や、クラスメイト、知人同士で分かれた。

 勿論、大人達が生徒達の隣人になるように、配置している。

 私の居る部屋の面子はゲーム通り、私、青山(あおやま)()(すい)鳴沢(なるさわ)優子(ゆうこ)零崎紗重(ぜろざきさえ)の四人になった。


 同室者はゲーム通りで構わない。

 彼女達以外となると、そっちの方が面倒臭そうだから。




 足を踏み入れた室内は、広かった。

 けれど、必要最低限の物とベッドが置かれているだけで、ここがお城の中だと考えると少々簡素に思える。


 「白崎さん、青山さん、零崎さん。同室者同士よろしくね」


 同室者、襟足の跳ねた短い茶髪に、ぱっちりとした栗色の瞳を持った、快活そうな女子生徒、散花のサブヒロイン――鳴沢さんが、にこりと微笑んで言った。


 「ええ、改めてよろしくね? 優子。零崎さん、白崎さんも」


 鳴沢さんの言葉に一早く反応したのは、睫毛の長い吊り気味の茶色い瞳に、栗色のセミロングをツインテールにした、美少女と言う言葉の似合う女子生徒、散花のツンデレ第二ヒロイン――青山さんだ。

 青山さんは、鳴沢さん同様に微笑んでそう返事を返す。


 私はそれに釣られるように、「よろしく」と不愛想気味に一言だけ告げた。

 本当は私に、よろしくするつもりはないのだが、社交辞令と言う奴だ。


 「……私に、よろしくするつもりはないよ。問題さえ起こさなければ、それで」


 少々の沈黙の後に、伏し目がちな黒い瞳に、腰元より下程の長い黒髪を後ろで一つに結んだ、何処か大人びたような女子生徒、散花にも主要キャラとして登場していたクラス委員長――零崎さんが無表情のまま、冷 淡に言い放つと、一番隅のベッドに腰を下ろし、そっぽを向いてしまった。


 彼女は、ゲームでも現実の学校でも変わらない。

 同年代の男が嫌いで、同年代の女も嫌い。

 クラス委員長をしているのも、確か瀬野先生の為じゃなかっただろうか?


 零崎さんのいつも通りの塩対応に、鳴沢さんは苦笑を零し、青山さんはむっと眉根を寄せる。

 私も零崎さんと同意見だと言ったら、青山さんの機嫌が急降下しそう。


 「そう言えば白崎さん、凄い荷物だけど……?」

 「文化祭、回ってたから」


 ふと、思い出したように、鳴沢さんが私の手荷物について触れる。

 私は当初から考えていたセリフを告げ、誤魔化す。


 「そうなの? 凄い買い物したんだね」


 特に何かしら疑問を持った風もなく、平常通り笑い掛けてくる鳴沢さんに、私は小さく頷く。

 隣で「それにしても……」と、青山さんが訝し気に見てきたが、言及するつもりはなさそうだった。


 誰も誰かの持ち物に構ってる暇なんてないと思うから、手荷物検査をされる事はなさそう。

 まあ、もしされたとしても問題ない。

 否、荷物検査をされる前に逃げればいい。

 どうせ、私はここから――王城から離脱するつもりなんだから。


 二人からの言及は特にないようなので、私は零崎さんに倣うように逆隅のベッドに腰掛ける。

 すると、二人も静かにベッドに腰掛けた。

 座ったベッドの感触は、王城の物だけあって、とてもふかふかしていて柔らかかった。


 そして、各々勝手に休息時間を過ごした。

 零崎さんは一人、手持ちの本を読み耽り、青山さんと鳴沢さんは二人で会話し、私は一人、壁側に顔を向けてベッドに横になり、眠ったフリをして考え事をする。


 この世界は私にとって、ゲームであった。

 ありきたりな物語でありながら、現実味のあるゲームの世界。

 けれど、物語でありながら、今や残酷な現実だ。


 ゲームならリセットが利くが、現実にリセットボタンなんてものは、当然存在しない。

 ならば、問題は私が生き残る為には何が必要か、だ。


 一年後の今日に、私達は元の世界に帰還出来ると、フェイト王女は言った。

 それは散花のシナリオ通りであれば、事実である。


 但し、それは私達が平穏無事にこの国で生きていられればの話だ。

 もし仮に、保護と言う名目でこの城に留まったり、城下町で暮らしたりした場合、間違いなく私達は戦火に巻き込まれる。

 一年も待っていたら私達は、この国諸ともラスボスに殺され、滅ぼされる運命。


 この国で、ラスボス――魔王に対抗出来るのは、花御子だけ。

 剣聖をぶつければ、或いは勝てるかもしれないが、無事では済まされないだろう。

 それを踏まえて、正しくは相討ちに持ち込んでも、国防的に痛くない戦力が私達だけなのである。


 私達を使い潰すつもりなのは教会が主であり、フェイト王女にその意図はない。

 国王や他の王族は少々怪しいが、直接的に私達を使おうとする描写があったのは教会だけだから、断定は出来ない。

 疑う事に越した事はないけれど。


 そこで、問題はどうやって王城から抜け出すかだ。

 最初の数週間は、様子見と脱出経路の下見辺りから始めるべきだろう。


 確か、記憶が正しければ数週間後に魔族の襲撃があるから……騒ぎに乗じて、逃げるか。




 ******


 時は過ぎ、開いたままのカーテンから見える窓の外は、すっかり日が沈み、夜の帳が下りていた。

 何時間、この部屋で考え事をしていたのかは分からない。

 今は、何時だろう?


 不意に私が起き上がろうとすると、部屋にノック音が響いた。

 私が思わず、寝たフリを続行すると、鳴沢さんが「どうぞ」と声を掛ける

 すると、一人の侍女さんが扉を開き、一礼してから「フェイト王女殿下より、晩餐にご案内するように仰せつかりました」と私達に伝えた。

 戸惑うような、迷うような気配が感じられたかと思うと、侍女さんが付け加える様に話す。


 「異世界よりおいで下さいました救世の花御子様方全員をお招きしております。晩餐にはフェイト王女殿下と神官のゾイ様、二人の騎士様と給仕係以外は居りません。別室の皆様も、既に移動を始めております」


 侍女さんの言葉を聞き、腹が決まったのか、動く音がしたかと思うと、私の肩が揺さ振られた。


 「白崎さん、起きて―? 移動するよー?」


 声の主から、私を起こしに掛かったのは鳴沢さん。

 私は小さく「起きたよ」と返して、起き上がる。


 そして、私は鳴沢さんより現状説明を受けた後、誰からも異論はなかった為、侍女さんの後ろを付いて歩き、晩餐会場の大広間に向かう事となった。

 道中は殆ど皆無言で、黙々と歩いて行くと、大広間に辿り着く。


 大広間に足を踏み入れ、先ず目に付いたのは、天井から吊り下げられた豪奢なシャンデリア。

 次いで、シルクのテーブル掛けの掛けられた長テーブルと、その上に並べられた銀食器。

 如何にも王族の晩餐と言った風な光景が、視線の先に広がっており、流石は王城、と思わず内心で感嘆する。


 皆、着いた順に案内されるまま、粛々と席に着いて行くのが見え、私達もそれに倣うように動く。

 私達は真ん中の方で、赤神くん達四人(全員クラスメイトで、面子は主人公の赤神くん、赤神くんの友人で主要キャラの黄戸(きど)くん、これまた主要キャラな(あや)()くん、悪役の黒磐くん)の直ぐ側の席だった。


 恐らく、召喚された人間全員がしっかりと集まり終わり、晩餐会が開始される。


 「花御子の皆様、今宵は貴女様方を歓迎する為に用意させて頂きました。歓迎、と言われても迷惑なだけでしょうが、どうかご存分に飲んで、食べて、お楽しみ下さいませ」


 フェイト王女の言葉により、各々勝手に「いただきます」と述べて、食事を開始する。

 最初こそ、毒を疑っていた者も居たが、付けても変色しない銀食器に、ほっと胸を撫でおろし、給仕係が運んでくる料理を口に運んだ。

 「何かありましたら、お気軽に聞いてくださいね?」と、フェイト王女が付け足すように言うが、誰も何かを口にする様子はない。


 それもそうだろう。

 急に見知らぬ場所に連れて来られて、異世界だなんて非現実な事を言われたって、どうしていいか分からない。

 聞きたい事だって、何故ここに居るのか、帰り方はあるのか、その二つ程度だろうが、それは既に聞いている。


 ならば、次に何を聞くべきか。

 今はまだ、決まっていないのだと思う。


 そうして、僅かに仲の良い者同士が小声で会話する程度の、静かな晩餐が過ぎていく。




 「なあ、王女様。ここ、異世界なんすよね?」

 「はい、貴方方からしてみたら、ここは異世界でしょう」

 「ならさ、魔法とか使えないんすか?」


 フェイト王女の直ぐ側の席に腰掛けていた、少々ぼさっとした黒髪に、目つきの悪い黒目をした男子生徒、ゲーム内ではいじめっ子をしていたクラスメイト――高坂(こうざか)(たく)()が、ふと気が付いたように、問い掛ける。

 それと同時に、この部屋に居る私達異世界人以外の纏う空気が一瞬で重たくなった。


 魔法……そっか、最初に地雷を踏んだのは彼だったか。


 視界の端で、何事かを会話する黒磐くんと絢瀬くん、それに首を傾げる青山さんを確認するが、私は何の反応も示さずに、フェイト王女と高坂くんの会話に耳を澄ませた。


 「魔法……魔法なんて、おぞましい力は皆様にはございません。いえ、魔法など我々人族に使える者など居りません」


 フェイト王女は何処か神妙な面持ちで、重々しく告げる。

 すると、周囲、神官も騎士も、給仕係も、フェイト王女の言葉を肯定するように冷たい空気を発していた。


 この国、人族にとって、魔法と言う言葉は地雷である。

 と言うのも、この世界での魔法は、魔族限定の固有能力を差しているからだ。

 故に、魔族と敵対する人族にとって魔法とは、脅威であり、忌むべきもの。

 ゲーム通りなのは、分かり易くていいけれど、今後を考えると憂鬱な話だ。

 子供の頃から、教養として叩き込まれるだろうそれは、私達にとってはただの差別にしか聞こえない。


 「質問、よろしいでしょうか?」


 不意に、重く冷たい空気を破るように、凛とした声が響く。

 真っ直ぐっと挙手された腕が、誰が質問者かを皆に知らせた。

 切り揃えられた横髪と前髪、さらさらとした長い黒髪に、強い意志の宿る金晴眼、美しく整った(かんばせ)


 彼女もまた散花の主要キャラの一人、生徒会会長――(りん)聖院(せいいん)(あい)()

 敬語であり、疑問形である筈の問い掛けには、何処か有無を言わせない威圧を含んでいるように感じる。

 校内で桜花の女帝と呼ばれているのは伊達ではない、と言う事か。


 「この世界に魔法は存在しており、それは魔族固有の力であり、我々には使えない。という事でよろしいですか?」


 フェイト王女が「どうぞ」と答えると、鈴聖院先輩は「ありがとうございます」と軽く会釈してから、質問を告げる。


 「はい。その通りです」

 「そうですか。確か、貴女方は我々を魔族と戦わせる為に召喚したのでしたね? 貴女の言っていた我々に適正があった能力とは何なのですか? それは魔法と何が違うのですか?」

 「花御子の皆様方が保有する力は花術(かじゅつ)と呼ばれ、世界に祝福された者にのみ与えられる能力なのです。能力の詳細は個々で違い、使い方もまた個々で違います」


 鈴聖院先輩により続けられた質問に、フェイト王女はそう語ると、「花術については後日改めて、実演を兼ねて説明いたしますね」と区切る。

 鈴聖院先輩も、「ありがとうございます」と言って、質問を終わらせた。


 この場の空気はまだ重いままで、これを変えるのは難しそうである。

 流石に、これ以上質問出来る人間は居ないようだし。


 それから、私達は食後のデザートまで頂き(と、言っても食事に余り手を付けなかった者や、デザートしか食べない者、デザートだけ食べない者など居たが)、何とも言えない晩餐会は終わりの時間へと近付く。


 「それでは、お食事も済んだ事ですし、皆様に自己紹介をして頂いてもよろしいでしょうか?」


 先程からの空気を払拭するかのように、ふふふ、とフェイト王女が笑う。

 フェイト王女の言葉に、「ああ、そうい言えば名乗ってもいなかった」と誰からともなく零す。

 名前を名乗る事への抵抗感はあったが、既に名乗って貰っている手前、そうもいかず、不思議な自己紹介タイムが始まる。


 フェイト王女の側に座った人から、時計回りに順番に名乗っていく。

 本当に名前を名乗るだけの自己紹介だ。


 名前を聞く際に、ぐるっと見渡した所、私を含めた異世界人は総勢五十一名も居た。

 随分な数だ。

 序盤で死ぬ人を考えても、結構な数がこの国の戦力になる。


 散花はストーリーを進める事に、出てくる選択肢によって、シナリオが分岐するシステム。

 その為、場合によっては主要キャラも死ぬキャラと死なないキャラに分かれる。

 死なない保証があるキャラは数人で、ある者は死に、ある者は敵対し、ある者は逃げ出し……そうして、残った者が主要キャラの中でも中心のキャラ。

 中心のキャラも、選択肢で変更が可能な辺り、赤神くんに生存権が一任されているようで落ち着かない。

 現実に置いて、主人公が及ぼす影響力は未知数であり、人数が増えた場合の影響力も不明だから。


 何にせよ、私は私の死亡フラグをへし折る事に尽力するだけだ。

 私が守るのは私だけ。

 他の人には、各自で身を守って貰うしかない。

 いくら、大雑把に未来を知っていたとしても、それは不確定なものだから、どうしようもない。

 自衛すらまともに出来るか分からないのに、誰かを守る、だなんて烏滸がましい事を言うつもりもない。


 自己紹介も無事に終了し、いよいよ晩餐会がお開きになろうとする頃、不意に神官のゾイが何事かフェイト王女に耳打ちした。

 すると、「皆様にあれをお配りして」とフェイト王女がぱんぱん、と手を叩く。

 それに応じて、外に待機していた侍女が入って来たかと思うと、フェイト王女の指示の元、代わる代わる私達に何かを配り歩いた。


 「皆様、只今お配り致しましたのは、守りの(まじな)いの掛けられた腕輪です。数回程度ではありますが、持ち手の守護を行う希少な道具ですので、どうぞ肌身離さずお持ちくださいませ」


 配られた道具について説明し、フェイト王女は柔らかく微笑んだ。

 しっかり人数分用意されたそれは、足りなくなる事なく全員に渡る。

 そうして配られたのは、腕輪だった。


 これは、何だっただろうか?

 ……神官のゾイが耳打ちしていた事から、良いものでない事は分かるが。

 何か大切な事を忘れている気がした。





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