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【改題】呪われた転生者は生き残りたい  作者: 深風凪(みかぜなぎ)
一章 楽しい筈の文化祭は王女と神官の救世主召喚によりおじゃんになった
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黒の章02_異世界召喚なんて馬鹿げてる

本日二度目の更新です。

 本日、土曜日、快晴。

 私立桜花(おうか)学園高等部、文化祭日和。


 無事に中学を卒業し、晴れて高校生となってから、一年と数カ月。

 俺はまだ異世界に召喚される事なく、この現実世界で二度目の学校生活、ある種の強くてニューゲーム生活(授業を聞かずともある程度、付いては行ける)を送っていた。


 俺の前世についての記憶は酷く鮮明だが、散花についての記憶はうろ覚えの部分が多々ある。

 その為、いつ、どのタイミングで異世界召喚が行われるかは、分からない。

 今年、俺が高校二年生の夏に起こる、と言う事くらいしか、俺は知らないのだ。


 まあ、それまでに、ある程度の準備はした。

 記憶を思い出して直ぐに、ゲームの黒磐暗夜通りの帰宅部を止め、剣道部に入った(親からは稀有な目で見られた)し、基礎体力作りの一環として、朝のジョギングを始め、自宅で自主的に筋トレも行った。


 サバイバルの予備知識も学んだ(異世界で通用するとは言ってない)し、取り敢えず、雑魚キャラではなくなったと思われる。

 少なくとも、ゲームでの黒磐暗夜のように、地味で根暗な無能いじめられっ子ではなくなった。


 ああ、でも、記憶を取り戻す前から、前世(おれ)と言う異物が紛れ込んでいたせいなのか、根暗でもいじめられっ子でもなかったんだよな。


 で、本来の黒磐暗夜は、いじめられている所を主人公、赤神焔に助けられ、友達になるんだが、そのイベント事態を、現在の俺の性格故にキャンセルし、必要以上に話さない、ただのクラスメイト程度の関係性になってしまったのだが。


 これでいいんだよな?

 そもそも、あんな正義感空回っているきらきらとは、仲良く出来るとは思えない。

 ゲームでは、ザ・主人公していたのに、何で現実になるとあんなに残念なイケメンになってしまったのか……。


 いや、それを言うなら俺もゲームの黒磐暗夜とはかけ離れているし、本来長くてふわふわな黒髪の儚げ美少女の筈だった白崎雪乃(しらさきゆきの)だって、前髪長いセミロングに、瓶底眼鏡な、孤立系病弱っ子(クラスの女子曰く)してるしな。


 ゲーム内の癒し系第一ヒロインは何処へ消えてしまったのか。

 ゲームでの校内一のマドンナは、現実じゃ窓際後ろの席で本の虫しながら、一匹狼している。

 他のクラスメイトは疎か、幼馴染みの筈の赤神とも一切話している様子はないし……。


 いや、まあ、ここは現実だからな。

 ゲームと異なる容姿、性格の奴は他にも数人居るから、白崎さんに限った事でもないか。

 多少の差異あれど、概ねは同じようだし、恐らく大きな問題にはならないだろう。


 赤神もきっと、主人公として頑張ってくれる筈だ。

 正義感はあるようだし、大丈夫だろう、多分。

 あいつが戦わないと、魔王に勝てないからな。

 ゲームと同じなら、の話だが。


 「……はぁ」


 小さく溜め息を吐く。

 考えた所で、解決策の見当たらない問題は、現在進行形で俺を憂鬱にさせていた。


 前世の記憶が蘇ってから、ずっと悩み続けているのは、大体死亡フラグの事。

 異世界召喚なんて、現実に起こる訳ないと否定しようにも、異世界転生した俺じゃ、俺自身を納得させるには、説得力に欠ける。


 ああ、本当、異世界召喚なんて起こらなきゃいいんだけどな。


 俺はぼんやりと思考しながらも、目の前の割り当てられた仕事に取り組む。

 今回の文化祭、俺のクラスの出し物はお化け屋敷であり、俺は裏方、小道具担当。

 そして、来たるお客目掛けて、こんにゃく攻撃を仕掛けるまでが、俺の仕事だ。


 垂らした紐にこんにゃくを括り付け、お客が来たら投下。

 過ぎ去ったら回収。

 投下、回収、投下、の繰り返しである。


 こんにゃくなんて、ぶら下げて置けばいいと思うだろうが、何もない所から、いきなり投下された方がビックリするだろう、と言うクラスメイト、鳴沢(なるさわ)優子(ゆうこ)の案が採用された結果だ。


 ま、表で驚かせたり、受付したりするよりも、こう言う裏方の仕事の方が俺的には気楽で良い。


 「黒磐くん!」


 紐付きこんにゃくを次のお客に投下すべく、手の中でゆらゆらと揺らしていると、不意に背後から声が掛かる。


 俺が声に反応し振り返ると、そこには吊り気味の茶色い瞳に、栗色のセミロングをツインテールにした、美少女――青山(あおやま)()(すい)が立っていた。

 彼女はツンデレで有名な、散花の第二ヒロインだ。


 「? 青山さんか、どうした?」

 「交代の時間でしょ? あたしが代わるから、黒磐くんはお昼行ってきて!」

 「ああ、分かった。さんきゅ」


 どうやら、青山さんは休憩を伝えに来てくれたらしい。

 俺は手元のこんにゃくを青山さんに引き渡し、休憩に入るべく鞄を持って持ち場を後にした。


 去り際に、青山さんが「あ! 白崎さんも今、丁度休憩入る頃だから! 一緒にお昼食べると良いわよ!」と言っていたのには、取り敢えず苦笑して置いた。


 さて、休憩に入った訳だが、俺はこれと言って予定を立てていなかった為、今の所ぼっちである。


 どうしたものか。

 今、俺以外に休憩入ってるのって、誰だ?

 ……白崎さん以外分からない。

 あー、まあ、一人でもいいか。


 結局、そう結論付け、俺はお一人様で文化祭を回り、お昼を済ませる事にした。


 確か、一年がお祭り屋台やってたな。

 そこ行くか。


 辺りを見回しつつ、俺は決まった目的地へと歩を進めた。

 特に仲の良い者と出くわす事もなく、黙々と歩く。

 文化祭は盛況なようで、廊下はお客さんである父兄の方々や他校生等で賑わっている。


 人多いな。

 ちょっと、歩き辛い。


 「……あ」


 階段を下り、程なくして、目的の一年の教室に辿り着く。

 たこ焼き、焼きそば、焼き鳥、フルーツ飴、チョコバナナ、教室内に設置された、のぼり旗と看板に書かれたメニュー。


 混雑する室内。

 飛び交う注文の声と、接客の声。

 その中に、件の人物を発見し、俺は思わず、声を洩らす。


 教室内、飲食スペースとして置かれているだろう、テーブルとイス。

 そこに一人腰掛けて居るのは、見知ったクラスメイト――白崎雪乃だった。


 相も変わらず、垂れ下げられた前髪は顔を覆い隠し、おまけのように覗く眼鏡は完全に素顔を遮断している。

 いつも通り鉄壁の防御力だ。


 視線の先で、白崎さんは器用に前髪を避けながら、黙々とチョコバナナを咀嚼していた。

 そんな白崎さんの目の前、テーブルには大量のビニール袋が置かれており、随分とこの文化祭を堪能している事が分かる。


 これは声を掛けるべきか?

 いや、これ以上誤解を深めたくはないし、さして話した事もない俺がいきなり話し掛けてきたら、驚くに違いない。

 ここは、スルーの方向で。


 視界の端に白崎さんを捉えながらも、俺は取り敢えずお腹を満たすべく、人の列に並ぶ。


 「いらっしゃいませー。ご注文は何ですか、お客様―?」

 「あー、六個入りのたこ焼き一パックと、五本入りの焼き鳥一パック」

 「かしこまりまして、お客様―」


 何とも棒読みな接客を受け、俺は目的の物を購入する。

 一方的にゲームで見知っている人物――問題児たるセーラー服の双子転校生(片割れ)が接客していたが、気にしない。


 俺はただの客。

 彼女はただの店員。


 若干気の抜けるような接客が気になったが、別に何か声を掛けるつもりはない。

 遠目で見かけた程度の面識の人物に、態々話し掛ける事もないだろう。


 うわ、何この先輩、いきなりキモいんだけど、なんて言われた日には数日落ち込むに違いない。


 俺は購入した食べ物を持って、飲食スペースの空いている席、白崎さんから少し離れた場所に座る。

 否、座ろうとイスを後ろに引いた。


 「?! うおぁッッ?!!」


 その時、突如として辺りに、学校全体を覆うような、眩い光りが出現する。

 それは、足元から現れたようで、煌々と煌く。

 突然の出来事に、俺は素っ頓狂な悲鳴を上げる。


 視線を這わせた先には、外国語のような文字列。

 円状になったそれを、俺は知っている。


 マジか。

 今日か、今日なのか?

 今日だったのか。


 辺りを包み込む、目も眩むような光り。

 足元に広がる、学校を囲むようにして現れたであろう、召喚陣。

 俺は口元を引きつらせ、自嘲の笑みを浮かべる。


 ああ、そうか。

 そう言えば、召喚される面子に保護者も混じっていたんだったか。


 ふと、思い出した事柄に、頭を抱えたくなる。

 くそ、主人公とヒロインの印象が強過ぎたせいか、保護者が混じっていた事を覚えてなかった。


 まさか、このタイミングとか……!!

 俺の記憶力が恨めしい。

 黒磐暗夜(おれ)の死亡フラグなら、しっかりと覚えていたのに!!


 「黒磐くん」


 突如として、発動した未知の力に抗う術など持ち合わせておらず、俺は、俺達は呆気なく光りに呑み込まれた。


 視界を、光りが完全に覆い尽くす寸前、名前を呼ばれた気がして、顔を向けると、白崎さんと目が合った、気がした。


 白崎さんは持ち物を全て手元に手繰り寄せ、目を細めて、俺に視線を向けていた、と思う。


 そうして、俺の視界は、一瞬にしてホワイトアウトした。


 意識はある。

 気絶はしていない。

 だが、視界は光りと白に覆われて、何も見えない。


 右も左も分からず、自分が何処に立っているのかさえ、分からなくなり、自分は今夢を見ているのではないか、と錯覚を覚える。


 きっと、この視界を取り戻した時、俺は異世界に居るのだろう。

 ゲーム通りならば、の話だが。


 ああ、複数の生徒及び、保護者が集団行方不明になる文化祭なんて、後にも先にもうちの学校だけなんだろうな、とそんな思考が、ふと頭の中を過った。





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