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【改題】呪われた転生者は生き残りたい  作者: 深風凪(みかぜなぎ)
一章 楽しい筈の文化祭は王女と神官の救世主召喚によりおじゃんになった
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白の章01_あるヒロインの転生体


 この世界が誰かの想像で出来ていると、気が付いたのはいつだっただろう。

 なんて、考えるまでもない。

 私は生まれて直ぐに、前世(わたし)を取り戻した。


 産声を上げたと同時に、頭を駆け巡る数多の記憶の奔流。生まれて直ぐの、小さな赤ん坊の頭になんて収まりきらない、知識と感情。

 思い出と人格の大洪水。

 過去、前世、現在の私に成る前の私の記憶。


 当時の私は当然の如く熱を出し、赤ん坊故に緩んでいる涙腺を全開に、泣きじゃくった。

 母と父には酷く心配をさせたと、少々申し訳なく思う。


 それが、一度目の記憶の目覚め。


 二度目の記憶の目覚めは、小学校の入学式。

 幼少期から、幼馴染みの赤神(あかがみ)(ほむら)を見る度に、記憶が揺らぐような感覚を覚えていた私は、入学式当日、赤神焔に加え、同じクラスになってしまった、青山(あおやま)()(すい)黒磐(くろいわ)暗夜(あんや)の二人の名前を、顔を見た瞬間、揺らぎは大きな波紋となり、今生二度目の記憶の奔流に呑み込まれ、倒れた。

 入学早々保健室行きである。

 それも、主人公に横抱きされて運ばれる、と言うおまけ付きで。


 あれは、早く記憶から抹消したい出来事だ。

 本当、切実に。

 とんだ羞恥プレイだ。




 「ゆきのちゃん!」と、私が倒れるなり、先生よりも早く駆け寄り、直ぐに抱き上げて、保健室に直行するとか。


 君、まだ小学生でしょう?

 判断早くない?

 そんな対応力を一体何処で身につけたの。

 保険の先生が凄く驚いていたし、担任の先生も慌てて追い掛けて来ていたから。

 おまけに、いつの間に保健室の場所を把握していたのやら。

 私でも、まだ保健室の場所なんて把握していなかったのに。

 今の小学生は、成長が早いのかと驚いた。


 実際は、恐らく主人公補正と、原作の影響力なのだろう。

 もしこの世界が、私の知る物語と言う概念の中に存在するならばの話だが。

 まあ、私は気絶していたから、この話は全部クラスメイトと先生に又聞きしたもので、真偽の程は定かではないけれど。

 小学生が小学生を横抱きしたのが、衝撃的過ぎて、割りとそれ以外の事柄は記憶に薄かったらしいから。

 ああ、私が倒れた事は除いて。

 この事件のせいで、私は暫く冷やかされたし、今でも病弱体質だと思われたままだ。

 後、それもあって、幼馴染みとは今はあまり関わりがなくなってしまっている。


 一度目、二度目、ときて私は漸くほぼ完全に前世(わたし)を取り戻した。

 私は誰であったのか、この世界が何であるかを。

 私はライトノベル界隈で有名な、()の転生者と言うやつらしい。


 私には、今世の私になる前の私、所謂前世の私の記憶がある。

 私は二十代後半の女作家だった。

 ファンタジー系を好みながらも、専らオカルト系とサバイバル系を執筆する作家。

 発売した書籍は割りと売れていた、と思われる。生活は出来ていたから。


 そんな私は、ある日の昼下がり、ビルから飛び降りてきた自殺者の下敷きにされ、あっさりと死んだ。

 それはもう、呆気なく。


 感じたのは一瞬の重みと衝撃だけ。

 完全に巻き添えだ。


 そして、私はこの世界、前世でプレイしていたRPG『散らぬ花を、誰ぞ愛でるか?』の世界に転生し、今の私、白崎雪乃(しらさきゆきの)になった。


 RPG『散らぬ花を、誰ぞ愛でるか?』、略して散花(ちらばな)

 それは、異世界召喚ものであり、それも集団転移もの。

 男子校生、赤神焔を主人公とし、召喚された異世界エリュシオンの聖セレスティア王国を、手に入れた特殊能力を使い、魔族の脅威から救う、と言うストーリーを冒険して行くゲームだ。


 戦闘はシームレスバトルシステムを採用し、親密度設定もあり、エンド分岐、パーティメンバー選択、キャラの個別シナリオなど、やり込み要素や、二週目特典、可愛く、格好いいキャラクター達のイラスト、要所要所のアニメ転換、と魅力たっぷりなゲームである。

 また、全体的にハイクオリティなグラフィックも見所の一つだろう。

 凄まじい人気を博したそのゲームは、同人やコスプレなども盛んだった。


 因みに、かく言う私はゲーム全制覇者である。

 うん、我ながら随分とハマっていたものだ。

 まあ、全制覇したと言っても、最早大分過去の事になってしまうので、シナリオやイベントについて、記憶が曖昧な点が見られるが……。


 白崎雪乃(わたし)の事は、覚えている。

 声も、行動も、イラストも、余す事なく全て、とは言えないが、殆ど頭の中に残っている。

 甦った記憶の中に。


 そのゲームの中で、白崎雪乃はメインヒロイン、第一ヒロインであり、主人公の幼馴染みであった。

 容姿は、黒のウェイビーロングヘアーに、黒い瞳の儚い系美少女で、その優しくたおやかな性格に合う、補助系の能力を手に入れる、正統派ヒロインだ。

 正に、立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花、を体現したような存在。


 なのだが、ヒロインでありながら、何故か死亡フラグが乱立するキャラでもあり、ネット上の情報によれば、初見で彼女を生存させたプレイヤーは居ない、との事。

 完全に、死に急ぎキャラなのだ。

 やれ、誰かが困っていたら助けなくては。やれ、皆を守らなくては、と。

 日々駆け回り、自らの命を削っていった。


 画面越しでなら、流石はヒロインだ、と言えたが、いざ自分がその立場になるとしたら、酷い冗談に思う。

 慈善活動に自分の命を掛けるだなんて、馬鹿げている。

 私は、絶対にそんな事したくない。

 自分だけが損すればいいなんて、そんな事思える程、私の心は澄んでいない。


 ああ、本当、有り得ない。

 主人公が、上手く選択肢を選ばないと死亡するとか。

 なんて理不尽なのだろう。


 死んで、転生したと思ったらまた死ぬ?

 今度は成人すら出来ずに死ぬ。


 何故、私の生が主人公に左右されなくてはならないの。

 誰かの為に死ぬのも、誰かのせいで死ぬのも、絶対にいや。そんなに簡単に死んでたまるものか。

 私は、今度こそ天寿を全うするのだ。


 それを邪魔するものは、例え主人公(幼馴染み)だとしても許さない。

 許したくは、ない。





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