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【改題】呪われた転生者は生き残りたい  作者: 深風凪(みかぜなぎ)
一章 楽しい筈の文化祭は王女と神官の救世主召喚によりおじゃんになった
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黒の章07_城下町で見覚えのあるエルフを見付けた

 翌日。

 俺は湊と、付き添いで来た騎士、ルーティアさんと共に、城下町に来ていた。

 初の城下町見学である。


 城内の花御子勢の殆どが腕輪の効果のせいか、神官の言葉に耳を傾け始めている現状、今がチャンスなのだ。

 付き添いと言う名の監視が一人になった今こそ、城下町を自由に見て歩けるチャンス。

 そう思い、湊と共に出て来た訳だ。


 あいつも王城脱出を計画していたらしいからな、二人で逃げる事になるだろう。

 本当なら青山さんも……いや、駄目だ。

 彼女は既に、腕輪をしていた。


 やはり、逃げるとしたら、俺一人か、湊を加えて二人。

 人数を増やせば増やすだけ、逃走の成功率は下がる。

 花術覚えたての俺には、少々荷が重い。

 能力の練習も、まともに出来ていないしな。


 本日の付き添いに付いてだが、何故ルーティアさんなのか、と言うと、曰く城下町で用事があるらしく、丁度良いからと、俺達の付き添いを買って出てくれたのだ。

 何とも動き辛い、かと思いきや意外とルーティアさんだと動き易い。

 見て回りたい、と言えば町中を大雑把にだが案内してくれた。

 武器屋だったり、道具屋だったり、宿屋だったり、食事処だったり。


 俺の今日の目的は、町から外への出入り口の把握なのだが、流石にそれを聞くのは躊躇われた為、ルーティアさんには聞いていない。

 彼女なら平気そうな気がするが、警戒はして置くべきだろう。

 フェイト王女のお願いに、何の返答もしていない状況で、町の外の話をするのは良くない。

 腕輪の効力が効いてない、と自ら申告しているようなものだ。


 さて、只今の時刻はお昼過ぎ。

 お昼ご飯は、食事処にて終わっている。

 今の現状について、簡潔に感想を述べるとしたら――――。


 「……どういう事だよ」


 俺は眉間を押さえて、力なく呟いた。


 どうしてこうなったのか……?

 いや、察しは付くし、好都合でもある。

 が、出来る事ならもう少し、町中を把握してからが良かった。


 只今の俺の状況を説明するとしたら、現在進行形でぼっちである。

 その理由は簡単。

 お昼時のせいか、大通りがやたら混んでいたのだが、丁度その中を通ろうとした際、湊が早足で突き進み、見失いそうになったルーティアさんも早足で追い掛け、俺一人置いて行かれた訳だ。

 まあ、俺が辺りを見渡しながら歩いていたせいもあるが。


 そうして、俺は晴れてフリーになった訳だ。

 なら、やる事は一つ。

 町から外へ出る、出入口の確認だ。


 俺は思い立ったら吉日、と思い歩き出す。


 湊は恐らく、故意的に俺を置いて行ったのだろうが。

 歩く速度的に、あいつも今頃、ルーティアさんと逸れている可能性がある。

 そうなると……湊の奴、今日ここから抜け出すつもりか?

 いや、流石にそれはない。

 今抜け出しても、直ぐに追い掛けられて捕まるだろう。


 今日はあくまで、逃走経路の下見のようなもの。

 王城脱出には、最適なタイミングで臨むべきだ。


 そう、例えば――――魔族の襲撃を受けた時、とか。


 例えば、なんて言ったが俺が狙っているのは、正にそれだ。

 序盤のゲームイベントにして、初戦闘、初中ボス戦。

 確か、王城に単身で魔族の貴族が、襲撃を掛け、それに剣聖の協力を得て、主人公が魂花より、初めて武器を発現し、そいつを倒す。

 それが、散花に置いて一番最初の戦闘、所謂チュートリアル戦だ。


 その襲撃に紛れて逃げる事が、一番成功率の高い方法だと思われる。

 ただ、襲撃のタイミングが分からないのがな。

 ゲーム内で、日付の明記はなかったし、いつ頃、何の次、と言う目安もなかった。

 故に、タイミングを正確に計るのは難しいだろう。


 「……あ」


 今後について思考しながら、出入口を探し歩いていたおり、ふと思い出した事柄に、足を止める。


 そう言えば……路地裏の雑貨屋さんに、インベントリとなる、空間拡張術の掛かったリュックが売ってなかっただろうか?


 魔族襲撃イベントのついでのように、思い起こされた記憶。

 俺はそれに導かれるように、路地裏へと足を踏み入れていた。


 「ん?」

 「お?」


 路地裏に入ると直ぐに、真っ白な睫毛に彩られた、澄んだ海を思わせる、碧い瞳と目が合った。

 路地裏にしゃがみ込んだ小さな身体は、白いマントを羽織り、指先を地面に座る三毛猫へと向けたまま、こちらを向くと、小首を傾げる。


 肌は白く透き通っていて、肩程の長さの髪はきらきらと輝く銀糸。

 顔は少々(いと)けない印象を受けるが、人形のように整っている。

 そして、何より目を引くのは、人間にはない特徴、長く尖った耳。


 俺は目を瞬かせながら、目の前の人物を見つめる。

 路地裏には――美少女エルフが居た。

 て、どんなライトノベルだ。

 ……いや、ここはRPGの世界だったな。


 「お前、迷子か?」


 少女を見た瞬間に、頭に思い浮かんだ言葉が、思わず口を付いて零れる。


 一人旅をするには少女の姿はあまりに可憐だし、服装も荷物も旅をするには少な過ぎるだろう。

 何せ、見た所少女の手持ちは、大きな水晶と、それを囲う二重にクロスする金の輪っかが付いた杖だけで、他に荷物は見当たらない。

 かと言って、エルフがこの人族の国の国民だと言うには、少々……。

 散花のエルフ族は、人族をあまりよく思っていなかった筈だ。


 それに、俺は彼女に見覚えがある。

 ここじゃない、何処か遠くで。

 彼女はゲームのシナリオ、後半に出て来るキャラクターじゃなかったか?


 「迷子?」

 「違うのか?」


 少女は立ち上がると、きょとんとした表情で、こちらをじっと見上げる。

 そんな少女に、俺は再び問う。

 少女は首を捻り、少しだけ考える素振りを見せると、口を開く。


 「目的地が何処か、帰路が何処か、現在居る場所が何処か、それすらも分からない事を迷子と言うのなら、そうなのです」


 大丈夫か、この娘……?


 「それは、まごう事なき迷子だな」

 「ならばララは迷子なのです」

 「……あー、そうか」

 「はい」


 苦笑を零す俺とは対照的に、少女は表情を変える事なく、涼しい顔のまま言葉を紡ぐ。


 「……」

 「………」


 迷子か否かの問答を終え、暫しの沈黙が俺達の間に降り落ちる。

 彼女は俺の言葉を待つように、こちらをじっと見つめたままだ。


 「……で、どうするんだ?」

 「ララはお兄さんに道をお尋ねしたいのです」

 「俺は、道に詳しくないぞ?」

 「そうなのです? でも、今ここにはお兄さんしか居ませんし……」


 このまま見つめ合っていても埒が明かない、と俺は沈黙を破る。

 すると、少女は俺に道を尋ねようとするが、残念ながら俺はこの城下町を見たのは今日が初めてで、小さく首を横に振った。

 少女は俺の返答を聞くと、何処か困ったような雰囲気で、顔を伏せて考え込む。


 この娘、名前は何だったか?

 こんだけ美少女なら、主要キャラの可能性が高そうだが……。

 思い出せそうにない。

 実は敵キャラ、て訳ではないよな。


 「お兄さん、お兄さん。ララの目的地は何処にありますか?」


 考え込んでいた少女がふと何かを思いついたように、ぽむっと手を叩くと、俺を見上げて言った。

 やはり無表情は崩さずに、それはもう真面目そうな瞳で。


 何で、そうなった……?


 「いやいやいや、俺はそもそも君の目的を知らな」

 「来るのです」


 目を丸くしながらも。彼女の言葉を否定しようと俺は言葉を口にする。

 が、それは唐突に俺の腕を、強引に引いた少女により遮られた。

 俺の手を引く少女からは、何処か刺々しい雰囲気が感じ取れる。

 特に抵抗をする事もなく、俺の手を引いて歩き出す彼女を見遣った。


 俺達が歩き出した拍子に、足元の猫が逃げる様に駆け出す。

 けれど、少女は構わずに、歩を進めた。


 「……早く、離れるのです。微精霊が、騒いでいるのです」

 「は? 何」


 ぽつり、少女が呟いた。

 俺はそれに、どう反応するべきか分からず、ただその呟きの意味を聞き返そうとして――――また、遮られた。

 今度は、少女ではない。

 然程遠くはない何処かから響いてきた、建造物が崩れるような、破壊音だ。


 「な?!!」

 「土魔法。威力からして爵位持ち……」


 俺は思わず目を剥く。

 少女は音の方角に目を遣り、冷静に分析する。

 俺達の視線の先には、盛り上がった土の壁のようなものが映っていた。


 あれが、土魔法?

 おいおい、これ、序盤のイベントだろ?

 魔族襲来、てこんな町中で行われるものだったか?

 いや、違う。

 あのイベントは、王城を襲う筈だろう?


 「あ、おい……っっ!!!」

 「厄介事はごめんなのです」


 少女が言うが早いか、俺の手を引いたまま走り出す。

 俺は流石に、少女に連れられるまま何処かに行く訳にも出来ず、引かれる手に力を込めて、立ち止まる。

 少女は手を掴んだまま、振り返って俺を見た。


 このまま少女と逃げれば、逃げられるような気がする。

 けれど、俺はこのまま逃げる訳にはいかない。


 いくら好機だろうが、自分の為だろうが、一緒に行動してた友人放って逃げるのは駄目だろ。

 今回、ゲームの差異がどう影響を及ぼしているのかも分からないし。

 逃げるなら、湊を見付けてからだ。


 「俺は、行けないぞ?」

 「そう、なのです?」


 俺が少女を止めた理由を告げると、少女は小首を傾げる。

 そして、一瞬躊躇ったように、握った手を見下ろして、ゆっくりと離す。

 少女の手から離れた俺の腕は、重力に従い下りる。


 「では、ここでお別れなのです。ララは面倒事に関わってはダメなのですから。お兄さんも早く逃げるのですよー?」


 変わらない無表情かと思いきや、少女は僅かに眉根をハの字にすると、それだけ言い残して走り去る。

 俺は「ああ、そうするよ」と返して、そんな彼女の背を見送り、彼女の向かった方向とは反対方向に駆け出した。


 湊は、今どこに居るんだろうか?

 ルーティアさんは、一緒に居るのか?





少々、更新が遅れました。

あらすじの迷子エルフ登場+魔族襲撃。

いよいよ、戦闘回、入ります。

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