プロローグ
『死亡フラグまみれの転生者~異世界召喚されてチートになったけど、やっぱり人間だった~』の連載版開始致しました。
強い日差しが照り付ける夏の日。
茹だるような暑さの中、熱せられたアスファルトに四肢を投げ出し、転がる身体を、その人は見下ろして笑う。
くつり、と喉を鳴らして。
けれど、それは馬鹿にしたような笑いではなく、ただ純粋に楽し気であった。
「君に呪いをあげよう」
酷く柔らかで、酷く優しい声音で、その人は言った。
変わらない微笑を湛える唇で。
それは仄かに憐憫と慈しみを含んでいるようでいて、何処か有無を言わせない絶対的な何かを含んでいるようで、何故か泣きたくなるような言葉に感じた。
この感情をなんと表せばいいのか、わからない。
ぼんやりとした思考が緩やかに巡る。
のろい、のろい、呪い……?
その人が口にした言葉を理解するのに、少々の時間を有した。
呪い、この人は何を言っているのだろう。
呪いだなんて、それもこんな時に。
「可哀想な罪人。けれども、君は……」
その人は続けて、今度は瞳に憐憫のみを浮かべ言う。
けれど、それはけたたましいサイレンの音に掻き消され、耳には入らなかった。届かなかった。
「……っ……ぁ、ぁ……」
思わず聞き返そうとした喉が、ひゅーひゅーと言葉になれなかった空気を零す。
その人は変わらずに、こちらを見下ろしていた。
ゆっくりと、意識が薄れていく。
遠く、掠れて、ぼやけて、とけて、消えてゆく。
このまま暗闇に呑まれてしまったら、もう、二度と目覚める事はないのだろう、と静かに感じる。
怖い、と思った。
死ぬのが恐ろしい、と思った。
胸中を渦巻く感情。内側から少しずつ失くしいくような喪失感が、酷く……――――。
「次は、幸せになれたらいいのにね」
その人は、寂し気に笑った。
酷い人だと思う。
今際の淵に立たされた人間に対して、呪いを掛けようだなんて。
本当に、酷い人。
呪いを吐いた癖に、幸せになれたらいいだなんて。
どう、反応しろと言うのだ。落ちてくる瞼に、抗う事すら出来ないのに。
もう、どうしようもない。
ここで終わり。
体内から漏れ出す生が、そう告げている。
悲しい。怖い。淋しい。恐ろしい。
けれど、不思議と憎くはなかった。怒りもなかった。
ただ、至極寒かった。
夏の筈なのに、空はこんなに快晴なのに、身体が小さく震える。
零れ落ちる液体。魂の雫。
溢れて、溢れて、もう戻らない。戻れない。
この意識が落ちる先は、常闇であろう。
天国も、地獄もないのであれば。
太陽はあんなに、憎たらしい程に輝いているのに、酷く寒い。
誰か、誰か、この手を……────。