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旅路 石の街

掲載日:2017/10/10

なんとなく思い付いた短編です。戯れに書いただけなので拙い文章許してネ。

ここは石の街。何もかもが石で出来ている。建物も、道も、そこらの店で売られている雑貨や食器も全て石で出来ている。しかし住人の心も石のようで、私達のような旅人には一晩の宿すら貸してもくれない。しかもこんな時に限ってお金というお金が無いのだ。「はあ……」あまりの惨めさにため息が漏れる。「ラインハルトさぁん……どうするんですかぁー」仏頂面で歩くラインハルトに声を掛けるが返事は無い。「ラインハルトさん!聞いてますか!?」「ん、ああ。そうだな、夕食は何にするか……」「誰もそんなこと言ってませんよ……」このラインハルトは普段は聡明かつ飄々とした男で、天涯孤独である私にとって兄のような存在なのだが……空腹とストレスでこの有り様である。ぎゅるる、と私のお腹が鳴った。そういえばしばらく碌なものを口にしていない。なんてひもじい旅なのだろうか。このままでは城下町での依頼を済ませる前に餓死すら有り得るのでは……「ラインハルトさん!このままじゃ城下町に着く前に死んじゃいますよ!?最悪ここら辺の獣を狩ってなんとか飢えを……」「いや、そんなことをする必要は無い。そうだな……今日のディナーはこの石にしよう。」ラインハルトはどこで手に入れたのか、赤く透き通った石を懐から取り出して言った。一体どうしてしまったというのか。「あの、ラインハルトさん……?ついに狂いましたか?」「俺は正気だから安心しろ。それと、宿も見つかったぞ。しかも、おそらく俺達を歓迎してくれる所をな。」この男は本当に何を言っているのか、私にはさっぱりわからなかったが、それでも彼の眼差しは自信に満ち溢れていた。「あーもうわかりましたよ!あなたに任せますから!」正直不安でしかないが、もうどうにでもなれ……と、私は折れた。

 

 

「ごめんください。」ラインハルトは石造りの質素な家の扉を叩く。「ったく、なんだい?」眉間に皺を寄せながら家の主が出てくる。三十代半ばくらいの女だ。「私達は旅の者です。一晩だけ泊まらせていただけないでしょうか?勿論タダでとは言いません。私は火にかけるとスープが湧く魔石を持っています。これから夕食時でしょうからこの石を差し上げましょう。」なんと。あの赤い石はそんな代物だったなんて。やはりラインハルトはいざというとき頼りになる男だ。彼の交渉の後ろで私はひそかに感心していた。「へえ……ならすぐにスープを作ってみせな!インチキだったら叩き出すからね!」女はお世辞にも歓迎とは言えない様子で私達を招き入れた。部屋に入るとすぐにラインハルトは鍋を借り、水と魔石を煮立て始めた。女も興味があるのか、鍋の中の石を不思議そうに見つめている。煮立て始めて少し経ったが、鍋の中に変化は見られない。私は不安で仕方なかった。「ラインハルトさん、ほんとに大丈夫なんですか……?」「ああ。もうすぐ出来るぞ。」ラインハルトは自信満々に答える。「でも、全然変わらないじゃないか!ほんとにスープが出来るんだろうねえ?」女が怪訝そうに問う。そう言われて流石に少し不安に思ったのか、ラインハルトは味見を始めた。「うーん、少し味が薄いかな?しばらく使っていなかったから魔力が落ちてるのかもしれない。失礼、塩を少しばかりいただけますか?」女は塩を持ってくる。ラインハルトはもう一度味見をする。「お、これはいい!とても美味しいスープになりましたよ!」「本当かい!」驚きながら女も少しスープを口にする。「ん……?まだ味が薄いんじゃないのかい?」「そうですか?私の故郷ではこのぐらいの味が好まれたものでして。では、バターを加えてみてはいかがでしょう。」女はバターを持ってくると、再びスープを口にする。「おお、確かに美味いスープじゃないか!あんた、よくこんな不思議な石を手に入れたねえ!この石の街でもこんなのは手に入らないよ!」「お気に召していただけましたか。しかし、夕食にスープだけとは少し物足りない気がしませんか?肉とパンがあればもっと美味しい食事になるのに……」すっかり気を良くした女は言われるがまま、肉とパンを持ってくる。「ほら、あんたももっと食べな!年頃の女の子はちゃんと栄養つけなきゃダメだよ!」「ど、どうも……」女は気前よく私にも肉とパンを差し出してくる。私もスープに恐る恐る口をつけてみたが、確かに見事な味だった。「というか、こんなものがあるならもっと早く言ってくださいよラインハルトさん!」「フフ、奥の手は隠しておくものだろう?」そう言ってラインハルトは悪戯っぽく微笑んだ。「それにしても、いいのかい?こんな珍しいもの貰っちゃって。」女が笑いながら訊ねる。最初の時とまったく態度が変わってしまっていた。「構いませんよ。私達を泊めてくれたお礼ですから。」「そうかい、フフフ!」女は喜びを抑えきれない様子だ。石のような心さえ砕いてしまったラインハルトの手際に恐ろしささえ覚えた。「ああ、部屋は二階のを使っておくれ。あまり広くないけど、大目に見ておくれよ。」「助かります。」……

 

 

 「ラインハルトさん、あんな魔石、どこで手に入れたんですか?」夢に見たふかふかのベッドに寝転びながら率直な疑問を口にする。「ああ、あれか。あれは綺麗なだけのただの石だよ。」「ふぇ?」変な声が出た。「煮ればスープが湧く石なんかあるわけないだろ?」「ええ?じゃああのスープは……?」「あの気難しい女性が俺達のために作ってくれたんだよ。歓迎してくれるって言っただろ?」「う、うそでしょ……?」そうだ、よく考えてみたら、ラインハルトは女にスープの材料を持ってこさせていただけだ!「あ、悪魔……!」「フッ。」ラインハルトは不敵に笑う。なんて恐ろしい男だ!私も女もラインハルトという悪魔にすっかり騙されていたわけだ。「なに、俺達は宿と夕食の代わりに、あの女性にちょっとしたマジックショーを披露しただけだ。そうでもしなきゃ不味い獣の肉を食べながら野宿しなくちゃいけなかったしな。」「ま、まあ助かりましたけど……」「だろ?ほら、さっさと寝るぞ。明日は石の秘密がバレる前に出発する。」そう言いながら悪魔は私の布団に入り込んでくる。「ちょっと、なんで私の布団に入ってくるんですかぁ!」「仕方ないだろ、ベッドが一つしかないんだから。」「あっ、ちょ、変なとこ触らないでください!」「お前の貧相な体なんか誰も触らないよ。」「なっ……!」「おやすみ。」……言うだけ言って寝てしまった。「はあ……」ため息が漏れる。本当に勝手な人だ。でも、孤独だった私を旅という新しい世界に開いてくれた。その勝手さに、今は救われている。明日はどんな旅ができるだろうか?胸を期待に膨らませながら私は甘い暗闇に落ちていった。

気が向いたら同じ世界観でまた書くかもしれない

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