TSの手法の分類について
TSとはトランスセクシャルの略、いわゆる性転換物と呼ばれるジャンルです。わざわざこのエッセイを読んでくれた方は、当然のようにご存知の方も多いと思います。
今回、私がエッセイで触れるのは男から女へのTSです。また、その世界では初めから身も心も女性という設定の場合や無生物を女性化した場合は触れません。
本題に入りますが、TSは一言で言えば「狭くて深いジャンル」です。TSというだけで読まない人がいる一方、その逆も多くいると思います。
そしてその好みは、TS後の容姿はもちろん、その後の行動や心境に対する描写、女になってからの恋愛対象など人によって千差万別です。
そもそもTS好きの人でも、「TSした子を愛でたい」のか「自分がTSしたい」のかという根本的なところで分かれてしまっているのが事実です。
このように様々な意見のあるTS界において「TSとはこうあるべき!」と決め付けてしまうことは不可能であるだろうし、その辺りは既にエッセイに書いてくださっている方がいます。
そこで私は「TSの手法」について分類しながら、私なりに述べたいと思います。どの手法がどの展開と合うかなどを語っていきますが、少し私の偏った見方が入るかもしれません。
・異世界転生、転移
これが恐らくなろうで最も一般的なパターンだと思います。書籍化されたTS作品もこの要素が入っていることが多いでしょう。
これだけでジャンル分けされる、まさになろうを象徴するといってもいい異世界転生ですが、なろうの多くの読者が好む一方、それを嫌う人もいます。
しかし、作者の目線に立ってみるとTSと異世界転生は意外なほど相性がいいのです。
まず、TS物を語る際に間違いなく言われるのは、TSの必要性があるかということです。言い換えれば、慣れない女性の体への戸惑いや着替えなどのイベント、性別が変わった後の心境などTS物特有の描写がどれだけあるかということです。
少ないものでは、TS後軽く自分の体を確認したら、後はほとんど触れずに話が進んだりします。このような作品は「意味無しTS」と呼ばれて女性主人公でも成り立つと批判されることもありますが、むしろそのほうがストーリーに自由度が出るという意見もあります。どちらがいいかは各々が決めることです。
そして異世界転生はこのどれだけTSの要素を盛り込むかというのを自由に決められるという利点があります。周囲の人間が元の自分を知っている現代TS物は大抵そうはいきません。
その他にも銀髪や赤目など現実ではきつかったり、エルフや吸血鬼などあり得ない要素(TS自体そうですが)を無理なく入れることができます。これは自己投影をしたい作者にとって非常にやりやすいです。
少し長くなりましたがまとめると、異世界転生は自由度の高いTSと言えます。冒険でも日常でもどんな展開にもできるでしょう。それゆえに作者の理想のTSが分かりやすいので、テンプレと言われ毛嫌いされがちですが、読者はその辺りを気にしながら読んでみると面白いかもしれません。
ログアウト不可のVRMMOも似た感じですが、この場合は最初に自分好みのキャラを作るなどの展開が入り、容姿についての描写がよりしやすいと思います。
・前世思い出し
これは現実世界、異世界問わずにそれまで普通に女性と生活してきた人物がある日突然、前世で男であったという記憶を得るという展開です。大抵この場合、ただ女性が男性の記憶を得ただけとはならず、精神も前世とものとなります。
これは異世界転生に似たパターンですが、それまでは女性として生活していたという大きく違う点が一つあります。そのため女性の生活に慣れる描写が必要ありません。むしろあったら変です。元の体の記憶もそのままなので、身内には気づかれることなく、TSができます。
また、TSの課題の一つでもある「女性の口調」も違和感なく使えます。
王女や貴族の娘など異世界かつ身内が話に関わる場合に使いやすいんじゃないでしょうか。
・入れ替わり
これは古典的で一般にもよく知られたTS手法でしょう。このエッセイを書いた頃は「君の名は。」が公開された時期でした。 入れ替わる展開としては、「街角や階段でぶつかる」「何かしらの道具や能力を使う」「起きたら入れ替わっていた」など様々です。
これを基点として一つの物語になる場合もあれば、普通の物語の中のエピソードの題材の一つとして使われる場合もあり、まさしく定番の手法です。
これは私の想像ですが、入れ替わりは戻ることがほぼ確定であること、両方の立場を表現できることなどがTSの中でも一般受けしやすい理由なのではないでしょうか。
双方同意の上で入れ替わり、互いの生活を楽しむ。事故で入れ替わり、困惑しながらも異性の感覚を知っていく。キャラの能力の一つにする。このような幅広い使い方ができると思います。
・憑依
これも入れ替わりに次ぐ定番のTSです。展開としては「何らかの方法で魂だけ抜け出し、女性に憑依する」という感じです。異世界の誰かに憑依する場合は、異世界転生、転移ですので同じ世界での話です。
憑依された側は大抵は意識を失います。目が覚めたら全く違う場所にいたと考えるとされる側は恐怖体験ですね。
憑依は本人が死ぬ場合とそれ以外(幽体離脱など)に大きく分けられると思います。前者はそのまま憑依した女性の体で生活するといった感じですが、後者の場合、基本は故意に行われます。最初の一回は事故だったりしますが、それに味を占めたりします。よって、初めからTS願望をもった男性を書くことが多くなります。必然的にTSを楽しむことが話の中心となりやすいでしょうが、どのような主人公にするかは作者によるでしょう。
また、相手の意識が残っていると、精神同居といえる状態になりますが、この場合は元の持ち主との心理描写の要素が加わります。関係が良好ならば、女性の体に戸惑うTS主をサポートしたり、悪いならば、TS主が嫌がる持ち主の声を聞きつつ、好き勝手するなどの展開があります。
どちらにせよ心理描写が大切なので一人称の小説がいいと思います。
・皮モノ
これは単純に言うと「男性が女性の皮を着る」というものです。大抵は体型に関係なく入る便利仕様で、皮を着た男性はその体での感覚を得て、構造も女性のものに変化します。皮は魔法じみた着ぐるみだったり、スライムなどで作られたものだったり、その女性自身が皮にされたものだったりします。
この皮モノですが、TSの中でも異端色が強く、嫌う人も多くいるカテゴリーです。理由としては、憑依以上に故意による要素が強く、中身が完全に下心のある男性ということや皮を着るビジュアルがキツイなどがあげられます。
これらの理由で風当たりが強いですが、ゲスい主人公を表現する上ではかなり有効な手法であると言えます。どちらかというと文字より絵の方が表現しやすいジャンルだと思います。
・不可逆TS
これまで述べたものも不可逆の要素を含んだものがありますが、このエッセイでは「同一世界で男性が女性に変化する展開」とします。つまり薬や病気などで単独でTSして自分では戻れない場合です。フィクションではあまり見かけませんが、手術によるものもこれに当たります。あくまで、自力では戻ることが不可能という場合なので、最終的に戻るかは別です。
普段と同じ生活を送る中で突然TSするわけですから、家族や友人といった周囲の反応が最初にあります。美少女になった主人公を着せ替えて遊ぶ母や姉、からかう父や男友達辺りが定番ですかね。話としては恋愛や日常が中心になると思います。
また、元の体がすでに死んでしまっていたり、別の世界だったりしてどうしようもない場合と違って、自分の体だけのことなので戻る方法を探していくのもよくある展開です。最終的には戻るか、女として生きていくかのどちらかが結末になるでしょう。
個人的な意見ですが、戻った場合はほっとしつつも、もう一度なってみたいとひそかに考えているといいですね。
・可逆TS
これは「女性に変身できる能力、道具を持つ」という展開です。ログアウト可能のVRMMOもこれになりますね。
ただ女性に変身できるだけでなく、顔や体型、年齢などを自由自在に変えられることもあります。また、魔法少女的なノリで変身する場合も見かけます。これで成功した作品も多く、案外一般受けしやすい手法なのかも知れません。
一生女性で生きることを覚悟しなければならない不可逆と違い、気軽に変身できる可逆はTSしたい派の理想とも言えるでしょう。創作では故意による憑依と同じく、主人公がTSを最大限楽しむ展開にしたり、女性の集団の中に入り、いじられる展開の時に使われる印象です。
また、可逆ではあるものの、その条件が時間帯など限定的だったり、本人にも予測できないものである場合もあります。その場合、大勢の中でTSしてしまったりするコメディ色が強いものにしたり主人公以外のキャラの個性付けなどに使えると思います。
とりあえず、思いつくだけのTSの手法と個人的な印象を述べさせていただきました。参考になりましたでしょうか。他にもあるかもしれませんし、エッセイの中で挙げた展開はあくまで一つの例としてみてください。
書いていて思いましたが、入り口だけでこれほど多くの選択肢があるTSはやはり奥が深すぎますね。様々な好みを持った人たちがいるのも当然でしょう。
しかし、そのような多くの人が、数少ない作品に集まるのがTSというジャンルです。これで少しでも興味を持ち、作者となる人が増えてくれると嬉しいです。