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雷電の章 その五

晶「一つ、知りたいことがあるんだが・・・・」ネコ「なんだ、少年」晶「この小説ちゃんと読まれてるのか?」ネコ「・・・・・さぁ?」

十一、

 職員室に先生を探しに行ったのだが先生の姿は確認できず、他の先生に聞くとその数学の先生は屋上に行ったといっていた。

 屋上に向かうと先生がフェンスに手をかけて夕焼けに染まり始めている校庭を眺めている姿を確認……俺は先生に近づいていって頭を下げた。

「先生、ちょっと言い過ぎました」

「………白瀬君………いいの、私が間違えちゃったのが悪かったんだから………」

 数学の先生はどうやら泣いていたようで涙の筋が残っている顔で俺に向かって微笑んでいた。

 先生の隣に俺も立って夕焼けを見やる………と、先生が俺のほうを見ながら聞いてくる。

「普段はとてもおとなしいって聞いてたんだけど……表情も恐かったからどうかしたの?」

「………ちょっと先生に八つ当たりをしてしまって………」

「…………八つ当たり?」

 他人に話すにはばかげているといった話なのだが、俺は先生にこれまでの経緯について詳しく話すことにした。

「………なるほど、白瀬君はその二人に謝って欲しいのね?」

「そうなんですよ………どうやら謝るっていうのを期待している俺のほうが馬鹿げているとしか今は考えられませんけどね」

 あの二人に謝って欲しいとおもってるのは事実なのだが、何故、

「ごめん」という言葉が口から出てこないのだろうか?

「じゃ、私がその二人に言ってきてあげるわ?」

「いえ、いいですよ………相談できる相手が今だけいるだけでもいいですから………」

 そういって俺は首をすくめる。

「相談できる相手が………普段はいないの?」

「いえいえ、相談しようにも何故かけんか内容を知っているという友人ぐらいしか頭に思いつきませんから………」

 俺のクラスメートたちは適当な性格をしているためにちょっと信用性に欠ける。

「成る程〜誰か絶対に信用できる相手が欲しいのね?」

 何故か話はそっちのほうに進んでいき、先生は俺を見てくる。

「まぁ、本当に信用できる相手なんて自分だけかもしれませんね」

 そういって首をすくめて俺は回答する。

「じゃあさ、私がその絶対に信用できる相手になってあげるわ」

「………いえ、いいですよ」

 担任でもない新人の先生はちょっと信頼できそうにもない。見た目で判断するのもどうかとおもうが、はっきり言ってこの先生は頼りない。

「あ、今頼りないっておもったでしょう?」

「はは………そりゃまぁ………授業中でも当てられたのは二、三回ってところですからね」

「じゃ、一つ条件を出すからそれを絶対に護って?そしたら私は絶対にあなたのことを裏切らない」

 すっと………先生の雰囲気が………いや、すべてが変わったといっていい。

「私を絶対に裏切らないで?」

「え?」

「そうしたら私もあなたを絶対に裏切らない………どう?これならのめる条件でしょ?」

「え、ええ………」

 有無を言わさぬその態度に俺は困惑しながらも…………頷くことしかできなかった。

「うん、これで約束成立ね………じゃ、そろそろ戻らないと最後の授業があるから」

 遅くなるわよとだけ言い残して先生は去っていった。

「…………」

 俺もそろそろ授業が始まる時間帯だとおもい、屋上を後にしたのだった。

――――

 放課後、俺は帰宅につくことにした。

「…………」

 隣には気まずそうな顔をした耒がとぼとぼと歩いている。

 もう夕闇に染まり始めている住宅街なのだが俺たちは今夜の晩御飯の材料を買いに行かなくてはいけないのでスーパーへと向かわなくてはいけない。

「………あのさ、晶……………」

 だんまり決め込むのもさすがに疲れてきたのか、耒は伏せた感じで俺に視線を向けてくる。

「何だ?」

「………朝のこと、ごめん」

「そうかい」

「………やっぱ、許してくれない?」

「…………いや、許す」

 既に朝のことはどうでも良くなっていた。それは何故か………あの先生のことだ。あの新人の先生を俺はどこかで………いや、見たことないな。藍と耒にどこか似ている気がするのだ。

「ありがと〜許してくれるんだ?」

 耒の声を久しぶりに聞くような………そんな嬉しそうな声が隣から聞こえてきたので俺はちょっと思い当たることを試して見ることにした。

「………耒、ちょっとこっち向いてくれ」

「え?何?」

 俺は耒の両肩をつかんで目を合わせる。

「え、え?ちょ、ちょっと………何?」

「………動くなよ、それと絶対に目を閉じるなよ?」

 耒の奥底にじっと見つめていれば見ることのできる紫電の光を………そうだ、これを俺は見たことがあるとおもったのだ………つまり、あの先生は………

「ちょ、ちょっと晶?」

「え、あ………すまん」

 気がつけば目の前には耒の幼い顔が真っ赤に染まって迫っており………俺はちょっとあせってはなれた。

「………どうしたの?」

「ん?ああ………いや、ちょっと考え事をしててな…………さ、早いところ夕飯の材料かって家に帰るぞ?朝も昼も殆ど何も食べてねぇからな」

 ま、先生は先生だな………ということにして俺は耒の手をとってスーパーへと駆け出した。

「な、何?どうしたの?」

「腹が減ったって言ってんだよお前はおなかが減ってないのか?」

「減ってるけど………」

 そうかい、それならなおさらいそいで帰って藍の手料理を食べねぇといけねぇなぁ………おなかが減ってると機嫌が悪くなっちまうからな。

「何一人で納得してるのよ?」

「ああ?ま、耒のおかげってのもあるな………ありがとよ!」

「え?」

 さっきから耒は頭を可愛くかしげているだけだが………そうだろう、俺だって何故、こんなに気分がいいのか理解できない。

―――

「晶、これ買って!」

「あ〜?」

 耒が持ってきたのはおもちゃがついているお菓子のようなものだった。

「………却下、後百円ほど値段を下げたものなら考えてやる」

「ん〜わかった」

 すごすごと去っていき、三分ほどで戻ってくる。

「じゃ、これ」

「さっきより値段が上がってるぞ?」

「え〜いいじゃん!」

「………しょうがねぇな……金はやるから自分で買ってこいよ?」

 俺が財布の端を緩めるのを見ると耒はにやっと笑い……俺はため息をついた。


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