雷電の章 その四
晶「はぁ…………」ネコ「何だか元気がないな?どうしたんだ?」晶「………最近悪夢を見てな………」ネコ「いやいや、良くあることだろ?てか、この物語ってどういう方向性に向かってつっぱしってるのだ、少年?私はもう出ていないぞ」晶「………わかるわけないだろ」ネコ「それもそうだな、読んでいればいずれわかるな」
十、
隣の席に座っている人物が俺のほうをちらちらと見てくる。
「え、え〜と晶………」
「………俺に何か用でもあるのか、色野さん?」
隣の席の女子生徒は色野耒………その耒が授業中なのにいちいち話しかけてくる。
「その〜…………」
「今は授業中だろ?授業に集中しろよ」
「う…………け、けど………」
先生に視線を向け、俺はそれ以上の話を聞かないということを暗に示すことにした。勿論、授業中だからである。
――――
授業も終わり、俺はトイレに行くことにした。
「晶…………」
「ごめん、色野さん……俺、トイレに行ってくるわ………授業一分前にしか戻ってこねぇから」
そういって俺はトイレへと旅立つことにした。
「お、白瀬………君もトイレかい?」
「ああ、お前もか?」
教室を出る途中で黒田に出会った………と、その隣には藍の姿も見える。
「いやいや、僕はトイレに行かなくて結構だ。さっき行ってきたからね………ところで、こちらの彼女が君と一緒にトイレに行きたいといってるんだが?」
とても落ち込んでいるような姿の藍を見たのだが、俺は当然のことを口にする。
「あいにく、俺は女子トイレに行くつもりはないんでね………俺の隣の………」
そういって耒のほうを見る。
「………色野さんをつれてってあげるといい。じゃ、俺は失礼するよ」
トイレに行くため、俺は二人の隣を静かに通り過ぎたのだった。
――――
「………まさか、羊羹を食べただけでこうなるとはおもってもみませんでした……」
「だろうねぇ、あそこまで怒っている姿を見るのは久しぶりってところだね〜」
晶がいない教室で藍、耒、黒田の三人組が彼について話し合っている。
「………た、食べ物のことであんなに怒らなくてもいいのに………なんであんなにあたしたちに怒ってるの?黒田、教えてよ!」
自称、晶の親友である黒田に詰め寄る耒。
「あ〜それはねぇ〜………彼、強情なところがあるからね。怒ってるって言うよりも君らに何かを期待してるんじゃないかな?」
「期待……ですか?」
藍が不思議そうにそう聞き返す。
「そう、期待。何か君らにして欲しいことがあるんだと僕は思うね。ま、何があったかは聞いてないからよくわからないからね」
そういって黒田は席を立つ……と、すぐに晶が教室へと戻ってきたのだった。
――――
俺が教室に戻ってくると黒田がニヤニヤしながらこちらを見てきている。
「約九分ほど廊下で見つからないように張り込みなんてご苦労様」
「ふん、うるさいな」
どうやら教室にいた藍たちの姿を見ていたことがばれていたようだ。これでも結構努力して隠れていたつもりなのだが………
「しっかし、口が軽いのは相変わらずのようだな」
「口が軽い?残念ながら僕の口は平均的な重さをしているとおもうね………彼女たちじゃ気づくのは僕は無理だとおもうね。君がきちんとどうして欲しいのか伝えたほうが話は早くまとまるとおもうけどねぇ〜………彼女たちにしゃべったのは悪いとおもってるよ」
まったく、どこまでこいつはお見通しなんだ?ちょっと試してみよう。
「………なぁ、その代わりといっちゃぁ何だが一つだけ教えてくれないか?」
「何かな?答えられる範囲で答えてあげるよ」
「………藍のスリーサイズは?」
「ああ、彼女のバストは………」
「やっぱ、いい」
躊躇なく答えようとしたということはこいつ………どこでそんな情報を得たんだ?というより、何もみないで答えようとしたということはすべて頭に記憶しているというのか………なんつ〜奴だ………。
「これで満足かな?」
「ああ、満足だ……」
黒田は自分の席に戻っていき、チャイムが鳴るとあわてて藍も自分の教室へと戻っていったのだった。
――――
「いまさらなんだけどさ………数学の教科書忘れてきちゃった…………晶、見せてくれない?」
「はい、色野さん」
無造作に教科書を開いて渡す。残りの授業時間は五分ほどだ。本当に今更であり……まじめに授業を受けていないのは耒の授業ノートを見ればわかりきったことだった。耒のノートには落書きがほどこされている。
「………まだ怒ってるの?」
その一言にカチンと来た。現在進行形で授業じゃなかったら間違いなく怒鳴っていたかもしれない。
心を静めるために授業に集中することにした。現在の授業は新人の女性教師であたふたといった調子で授業をしており………黒板に書かれている数式にはいくつかおかしいところが存在している。
「…………え、え〜と、ここがこうなります………」
「先生!」
俺はとりあえず手をあげることにした………めったに授業では誰も手をあげていないので寝ていた連中も何事かと俺のほうを見る。
「え?白瀬君……だったかな?何?」
「そこの計算式、黒板の答えは7xになってますけど4xyだとおもいます。それに、第一にxを定義し忘れてますよ………よって、この問題はどんなにうまく解こうと定義し忘れている時点で入試などでは零点だとおもいます」
「あ、あ〜………本当ですね………」
ぎょっとして先生はあわてて黒板の内容を書き換え始めた。
「もうちょっとまじめにやってもらわないと困りますっ!」
俺は自分の机を思い切り叩いて………先生は驚いた表情をし、クラス中の連中も俺を驚いた表情で見ていた。
「………………」
しらけた空気が流れ始め、俺を助けてくれたのは授業を終えるチャイムだった。
「先生、終わりましたよ」
「え、あ、あ〜………そ、そうね………それじゃあ、今日はここまでだから………」
先生はそのまま黙って廊下に消え、俺のまわりにはどうやら近寄りがたい空気でもあるのか誰もよっては来ない………ただ、一人を除いては…………
「晶!あんな言い方しなくてもいいんじゃないの?」
「あ?」
隣の席の耒は俺を睨みつけてくる。
「何だ?俺が何か間違ったことをしたのか?」
「そうじゃないけど……………先生だって必死にやってるんだから!謝ってきなさいよ!」
「謝るねぇ………謝るのはそっちが先だろうに!黙ったまんまだもんな、お前ら!」
「あ…………」
俺は耒に対してそう告げると教室を出ることにした。
「あ、晶様…………」
「色野さんに用事があるんだろ、藍?」
そういって教室の外に立っていた藍の横を素通りし、さらにその先にいた黒田の隣も素通り………俺はこのまま家に帰ってしまいたかった。