雷電の章 その一
晶「お、気がついたら章が変わってる………」ネコ「そのようだな」晶「てかさぁ、今おもったんだけどネコ、お前はもう普通にしゃべってるな?」ネコ「いまさら気がついたか?」晶「なんで普通にしゃべってるんだ?」ネコ「ちょっと九官鳥と声帯体部分を交換してきた」晶「…………マジか?」ネコ「マジだ」
七、
「藍、ちょっと行ってくる」
「どこに行くんですか?」
「隣町でちょっと友達と約束してるんだ。すぐに帰ってくるからおばさんが帰ってきたらそう伝えておいてくれないか?」
「わかりました。気をつけていってらっしゃい」
「ああ、藍のほうも戸締りしておけよ」
俺はそういって夕闇に飲まれつつある住宅街を後にしたのだった。
隣町までは自転車でどのくらいだろうか………そうだな、三十分もあればきっかり目的の場所までつくことが出来る。
「ぜぇ………ぜぇ………」
もっとも、それは全速力でこぎまくって………だが。
「龍塚………龍塚………」
目的の場所はちょっとした空き地のような場所で見つけやすかった。何より、白い看板で
「建設予定現場」と書かれているのだ。後は懐中電灯を地面に当てて探すだけでいいのだから、ちょうど良い目印になる。
ここに来た時点で既に真っ暗でちょっと林に入り込んだところに龍塚はある。龍塚と呼ばれる所以は一メートルほどの大きさの石の中央に
「龍塚」と彫られているからだ。この文字を彫った人物をこの土地に昔から住んでいる人は知っているらしいのだがあいにく、俺の知り合いにそのような人はいないので何故、これがここにあるのかよくわからない。龍塚なのだからこの下に龍でも封印されたという伝説があるのかとおもったのだが、残念ながらこの下には龍はいないらしい。これは情報通の黒田が言ったことだから間違いないだろう。今手元にある奴から渡された書類にも書かれているし……だが、そのとき奴はにやけていたからもしかしたら何か裏があるかもしれないが…………
「………帰るか…………」
ここにきたって結局は何もなかったな。所詮、俺の世界は俺の世界だったというわけだ。一つが変わったところですべてが変わるわけではないということが今回の件でよくわかった。
ぽつっ………
「ん?」
俺の視線が上にいく……と、二階から目薬が落ちてきたのかとおもったのだがその目薬は天からたくさん落ちてきた。
「夕立!?嘘だろ!?」
降り始めた雨はお調子者が調子にのったようにどんどん降ってくる。濡れないように場所を探すが、近くにあるものは一メートル弱ある小さな屋根のようなものだけだった。
「ふぅ………」
それでもないよりましだったのでしゃがむ感じでその下に移動する。
ごろごろ………
「ちぇ、雷まで鳴り出しやがった………携帯、つながるかな?」
家に電話するために携帯を取り出してボタンを押そうとして…………書類に携帯の光が当たってとある一説が照らされていた。
「ん………翼龍塚?」
書類にはこの町にもう一つ伝わる伝説かどうかわからない眉唾話が載っていた。簡潔に説明するとそれはこの地で悪さをした翼龍を起こすための手段だと書かれている。
「…………」
もしかしてなのだが、あれは龍塚などではなくこの翼竜塚なのではないか?長い年月の所為なのか知らないが
「翼」という言葉が消えていると仮定しよう……そんで、この屋根のようなところ………つまり、俺が座っているこの場所におけばいいんじゃないのか?
仮説は所詮仮説だったので実際に試してみることにした。それなら龍塚にあまりいい噂がないというのも頷ける。この石が翼龍を起こす石ならばいわくつきというのもありえるかもしれない。
「よし……………」
人力でその石をもてるかどうかはわからんが試しにやってみることにした。雨が降る中ご苦労なことだとおもう人が多々だろうがそういう性分なのでしょうがない。
「う、おおおおぉぉぉぉ!!!」
人は声を出すことによって力を多く出せるらしい………らしいというのは本当かどうかわからないからだ。
声のおかげなのかは知らないが、俺の力でも何とか龍塚は持ち上がった。
「ぐぬぬ………」
ふらふらしながらもそれを雨の中ここから一メートルほど遠い場所の屋根の下におこうとして………
「しまった!!」
長年、雨ざらしされてきていたのでコケが生えており、なおかつ今の天候は雨だったので滑りやすかったのだろう。俺はその石を目的の場所に落とすという形で置いてしまった。
どぉん!
「……………?」
地面が揺れた気がしてちょっとふらっとしたが踏ん張って何とかなった。
どぉぉぉぉん!!
「うおっ!!」
今度は先ほどよりも数倍強い揺れが俺を襲う。危険を感じた俺はその場から離れて広場へと移動する。
移動しながら後ろを見ると………今の俺の顔は間違いなく引きつっているだろう。
「…………まったく、試すもんじゃないな」
そう呟いてみるが足の震えが止まらない。
どぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!
ゆれはやまずにそのまま響くが、どうやらこの広場以外はゆれていないのかここから見る景色の中に転倒したものなど一つもないようだった。そう断言する理由は木に立てかけて不安定になっている俺の自転車が倒れていないからである。
「人生二回目の経験……」
どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!
一回だけしか俺の世界は壊れないだろうとおもっていた………だが、心の中では壊れていて欲しいとおもったのかもしれない。だから、俺は信じられない伝説などに耳を傾け、実際に試そうとした。
試そうとした結果が正解ならば俺は自らが望んだ………それがたとえどんな終わり方をしてもだ………自分の世界を壊すということについては成功している途中ということである。それが間違いだったら………俺はちょっと精神に異常をきたしてきているのだろう。
「さぁて、爺さん、俺はあんたがいつか言っていたことを試すときがやってきたようだぜ…………」
震える足を思い切り叩き、それがちょっとやりすぎてしまったとおもいながら俺は雨の降る中傘もささずに揺れる木々、大地を晴眼で見据える。
「っと………………まだ猶予があるみたいだから今のうちにしとくか……」
忘れていた家への連絡を今しておこう。
「ああ、藍か?ちょっと面白い奴にあっちまってな……帰りが遅くなるかもしれない………救急箱の準備でもしといてくれ」
俺は相手の返事も待たずに電源自体を切って俺の目の前に迫ってくる相手を見据える。
その相手は……………