旅立ちの章
ネコ「春は出会いと別れの季節だそうだ」黒田「いやいや、春は花見の季節さ」ネコ「とりあえず、ここで皆さんとお別れです。いやぁ、短い間ですけど色々とお世話になりました」黒田「タナチュウさん、kimiさん、無情さん、ネムネムウーミンさん………」晶「そして、この小説絶対コメディーじゃねぇだろっておもってる皆さん!」ネコ「うわ、しつこい!」黒田「今までありがとうございました!」凪「あの、私の出番が少ない気がするんですけど?」藍「あ、そんなこというなら私もですよ〜」耒「あたしも!」奈津美「私もです!」夏華「まったく……自己主張が強すぎね」晶「では、皆さん………さようなら!」
三十二、
俺が街中を歩いていると奇怪な人物に話しかけられた。
「久しぶりだな、少年?」
俺はその相手をぎょっとしながら見て素直に答える。
「………残念ながら俺は白衣に猫耳をつけるような知り合いはいないんですが?」
「おや?私が誰かわからないとでも?」
俺は相手を凝視する………姉さんと同じぐらいの年頃みたいなのだが………どうにも、人の顔をおぼえるのは得意ではなさそうだ。ざっと記憶を思い当たってみたのだが該当するような相手が現れることはついぞなかった。
「………わからない」
「そうか、白衣に猫耳…………あの子の言ったとおりにしてみたのだが………ほら、少年は私を抱いたことがあるだろう?」
「だ、抱いた!?」
え?お、俺ってこの人相手に何を………
相手は俺の反応が面白かったのか微笑をたたえている。
「ふふ、抱いたといっても少年が考えているようなことじゃないぞ?ほら、私は少年の祖父と一緒に船で外国に渡った………白猫だ」
「………ああ、そんならそうとさっさとネタばらしてくれればよかったのに………」
しっかしまぁ、時間が立つと人って変わるもんなんだなぁ?
俺はまじまじと白衣に猫耳をつけている目の前の元白猫?を眺める。
「え〜と、それで今日はどういった用事で?」
この白猫が俺の目の前に現れるとなるとそれは怪しいことというか、厄介ごとを俺に回してくるのだろう。そして、俺は再び生と死の狭間を行ったりきたり………往復切符を買わないといけないはめになりかねんからな。
「…………率直に言うと、私と一緒に来ないか?」
「え?」
俺は白猫が言った言葉が理解できなかった。
「………どういう意味だ?」
「君の姉が君のためにとおもって作り出したワクチン………それは所詮は試作品だ。私だって君の姉と同じ場所で働いていたし、その薬についての知識も持っている。あの藍だって薬を投与されているような状態だし、試作品のワクチンを打っている君が彼女たちにどういった影響を及ぼすのかまだわかったものじゃないだろう?」
「…………」
それはまぁ、確かにそうだろうな。
「だから、私と一緒にワクチンを作り出すたびに出ないかとたずねているんだ。学校のほうには長期休学を申し込んでおけばいいし………ああ、君の姉にはこのことを話さないほうがいいだろうな。ま、君がどうしても話したいというのなら話すといい………明日の朝、あの場所で待ってるから………船が出るのは明日の昼だから期限は明日の朝だからな」
「あ、明日の朝だって?」
いくらなんでも急すぎるぞ?俺は来週発売のゲームを予約しているのだが………
「いつも物事は急にやってくるものさ?いい返事を期待している」
白猫はそういうと人ごみの中に消え………いや、その特異の姿は人々の注目を浴びて街角を曲がるまできちんと確認できていたのだった。
「……………家に帰るか」
俺は白猫に言われたことを考えることにして家に戻ることにしたのだった。
「…………姉さん、なんていうかな………」
―――――
「私は反対だわ」
姉さんに今日白猫に会ったことを伝えると、案の定反対したのだった。
「………けど、晶………あんたが行きたいとおもうのならあの白猫について行ったほうがいいわ。私よりあっちのほうがあの工場のことを詳しく知っていたからね」
俺は黙りこくって姉さんの話を聞いていた。
「…………まぁ、行っても帰ってこれるんだし、あんたの知り合いたちにそのことを話す、話さないは自分で決めなさい?あの白猫は確実性があるときしか他人を自分の領域には入れないからね」
「え〜と、意味がよくわからないんだけど?」
「だから、あんたが白猫についていけばあんたの体の中にある薬は消える可能性のほうが多いってことよ?完璧なまでに適合しちゃってるからどこまで薬の効力を消せるかはわからないけど、急に空を飛びたくなったから翼生やして飛んでしまう!とかそういうことはなくなるわ」
「俺、まだ一度もそんなことになってないんだけど………」
可能性の話よ………と、姉さんはそういって俺に笑いかける。
「ま、長くて半年…………ってところかしら?パスポートはどこに…………」
「え?姉さんも来てくれるの?」
まだ行くとか決めていないのだが、姉さんは用意を始めている。
「当たり前よ、あんたがあっちで襲われるかもしれないし、変な虫が寄ってくるかもしれないわ………特に、あの泥棒ネコには気をつけておかないと………」
ペットボトルに水をつめている姉さんの後姿を見てなんとなく恐くおもったのだが………
「黙っていってもあの三人………いや、五人は怒らないかな?」
「どうかしらね〜私だったらあんたを吊るして鍋に落とすわ」
早く行くって告げてきなさいと姉さんは俺に言ったのだった。
――――
「あら?晶じゃない?どうしたの?」
洋子さんが俺の前に現れる。
「え〜と、あの三人いますか?」
「いや、お買い物に行ってるけど?上がっておいたら?」
「………いえ、とりあえず………ちょっとの間、俺のことを忘れないでくれって伝えておいてくれませんか?」
俺がそういうと洋子さんは静かな笑みをたたえたのだった。
「…………わかったわ………気をつけていくのよ?」
「はい、がんばります」
背を向け、俺は黒田の家を目指したのだった。
――――
「やぁ、君が挨拶もなしに家に上がりこんでくるなんて珍しいじゃないか?」
「まぁ、その、あれだ…………サプライズだ」
黒田家の玄関を開けると何故か黒田の目の前にワープしたのだった。玄関の扉にはこういったサプライズが入れられていたとはぜんぜんわからなかった。
「とりあえず、どうしたんだい?今から強盗にでも入ろうかって顔をしているけど?」
「ああ………奈津美ちゃんと夏華ちゃんはいるか?」
「いや、残念ながら出払っているよ」
「…………そうか、それなら…………俺のことをちょっとの間、覚えていて欲しいって言っておいてくれ」
「僕には何かないのかい?人の家の妹に手を出す年下ハンター?」
「…………帰ってきたら地獄に送ってやるから覚えとけ♪」
「即急に忘れるよ………気をつけていきなよ」
黒田はそれだけ言うと俺を玄関から送り出してくれたのだった。
―――――
白猫は俺がやってくるのを待っていたようだった。
「久しぶりね、相変わらずしかめっ面してるじゃない?」
「おや、君も来たのか?」
「当然よ、うちの家は友達の家にお泊りするときも保護者同伴って決まりがあるのよ」
そういって姉さんは相手にがんをたれる。
「………ま、君がいればさっさと終わりそうだからな………少年、きちんとお別れはしてきたのかい?恋しくなってもすぐには帰れないんだよ?」
「わかってる、未練は……」
ないとは言い切れないが、これが最後のお別れではないのだ。
「………ちょっとあるが、大丈夫だ」
「そうかい、それなら行こうか?」
俺と姉さんは白猫の後に続く。
ふと、そんな俺の横を一陣の優しい風が吹きぬき…………
「俺はいつか帰ってくるさ、それまでお別れだ…………」
俺の旅立ちを風が惜しんでくれたのか、俺が勘違いしただけか………
〜Fin〜
「晶様、早く帰ってきてくださいね?」
「…………藍さん、うちわで風送って………風なんて吹くんですか?晶、気がつくとは思えないんですけど?」
「大丈夫ですよ〜晶君にはきっと届きます。私たちの心がこもってますから」
「まぁ、先輩たちがするって言ったから私も手伝ったんだけど………普通に手紙書いたほうが良かったとおもうんだけど……」
「お姉さま、手が疲れてきてますよ!晶さんに不満を持たせないように手を振らないと!」
五人は主を少しの間失った家の屋上から晶がいるであろう方向にうちわで風を送り続けたのだった…………
〜Fin〜