おかしくなった晶の章 その三
ネコ「さて、この章もそろそろ終わりです」黒田「もうかい?そんなに長くは続かなかったような気がするんだけど?」ネコ「元から少年はおかしいからな………」黒田「それは実に納得のいく説明だね………そうおもった皆さん、ばしばし感想をお送り下さい」ネコ「そろそろ終わりが見えてきそうな調子ですが、最後までお付き合いお願いしたいとおもいます」
三十一、
晶子はまず、一番被害にあいそうなおっとりとした感じの知り合いにあったのだった。
「………藍ちゃん、うちの愚弟を見なかった?」
「愚弟?………ああ、晶様ですか?この家に来ましたよ?」
あっさりと頷き、晶子は遅かったか………と呟いた。
「何かされた?」
「え〜と、別に何もされませんでしたけど?」
おっとりとしていて天然なところもあるのでされていても気がついていないのかもしれないとおもってもうちょっと詳しくたずねるも………
「え?そんなことされませんでしたよ?ただ、珍しくご飯をたくさん食べて、食べた後はすぐに眠くなっちゃいましたけど?それで、膝枕してあげたら子どもみたいに喜んでました」
そこまで話すとそれがどうかしたんですかと晶子に藍は尋ねた。
「………まぁ、ちょっと込み入った事情があってね………簡単に説明すると私が調合していた薬を試作段階であの愚弟が飲み込んでしまったのよ」
「ああ、成る程〜晶様が薬漬けになったってことですか?白い粉を体の中にうってしまってらりっちゃってるってことですか?」
ニコニコとした調子でそういう危ないことを口にする藍に疲れている晶子はため息をつく。
「………ま、それで構わないわ………とりあえず、あの愚弟を捕獲して縄でぐるぐる巻いちゃうことにするわ」
「縄でぐるぐるにして薬を抜けさせるんですね?」
珍しく飲み込みが早いことに驚きながらも、晶子は縄を渡す。
「じゃ、見つけたらこれで縛っておいて?」
「わかりました、さすがに晶様が幻覚を見続けるのはかわいそうですからね」
どことなく調子が外れている状態のままの藍を従えて晶子は家を出たのだった。
―――――
「ったく………なんだか気分がわり〜な………何でだ?」
目の前がふらふらとなりながらも晶はがんばって家へと向かう。
「あれ?晶さんじゃないですか?」
「…………お、奈津美ちゃんか?」
近くが黒田の家だったからか、黒田の妹の奈津美が出てきたのだった。
「あの、なんだかとても気分が悪そうなんですけど?大丈夫なんですか?」
「ん〜………ちょっと、だりぃ……ってか………」
そろそろ限界……といってそのまま晶は倒れてしまったのだった。
「だ、大丈夫ですか!」
倒れてしまった相手に対しては適切でないような言葉を吐きかける奈津美。そんな彼女の声を聞いてか、彼女の姉が現れた。
「ど、どうしたの、奈津美!」
「あ、お姉さま………晶さんが倒れてしまって………」
「晶先生が?………あ、本当だ」
あせっている表情の奈津美とは対照的に夏華のほうは冷静な判断を下す。まぁ、けられたり色々とされているところを見られたのでそのくらいで晶がどうこうなってしまうとは思っていないのだろう。
「晶先生は丈夫だから私たちの家に連れて帰ってソファーかベッドに寝かせておけば大丈夫よ」
家の方向を指差す夏華にまだ不満を持つ奈津美は尋ねる。
「そ、そうかな?大丈夫かな?」
「大丈夫よ(晶の姉に)潰されてもどうってことなさそうだったからね」
「ああ、(先ほど通った車に)潰されても大丈夫なんだ………丈夫なんだなぁ、晶さん」
何故か車をイメージさせた奈津美はやはり、どことなく天然が入っている。
「さ、運びましょ?」
「うん」
こうして、黒田姉妹に晶は連れて行かれたのだった………。
―――――
「ん?」
気がつけば晶は何故か鏡のなくなった………いや、左のほうにはこの部屋とまったく同じ部屋がもう一つあった。それは鏡の部屋ではなく、新たに作られた夏華の部屋だった。
「………ここ黒田の家か………」
にやけ面をしている親友の顔を思い出しながらも晶は首をかしげる。
「………そうか、俺………倒れたんだったな」
自分が道で倒れたことを思い出す。
「奈津美ちゃんがここまで運んでくれたのか?」
それにしては華奢だったよう泣きがするんだが…………そうおもっていたところへ部屋の持ち主が現れる。
「先生、気分はどうかしら?」
「夏華ちゃん…………ああ、夏華ちゃんも俺を運んでくれたのか?」
「ええ、まぁ、そうね………先生を運んであげたわ」
晶はそれを聞いて礼を述べる。
「迷惑かけた…………じゃ、俺出て行くよ」
「もうちょっと休んだほうがいいわよ!」
起き上がろうとしている晶の肩を夏華は掴む。
「何言ってんだよ………男が女の子のベッドで寝たら奈津美ちゃんだって嫌がるだろ?」
「兄さんはいっつも昼過ぎにここで寝ようとしてるわ」
あいつは何やってんだ………と呟く晶。
「…………とりあえず、体の調子は………」
そういってそのまま晶は気を失ったのだった。
しかし、気を失ったのもつかの間………目を開け、夏華を見る。
「………夏華ちゃんも一緒に寝るかい?」
「え?」
「僕と一緒に…………ぬがっ!!」
「な、なんとか間に合ったみたい」
部屋にあった鏡からいきなり晶子が姿を現すと手に持っていた拳銃のグリップ部分を弟に一撃…………晶は動かぬ人形となった。
「え〜夏華ちゃんだったかしら?いや、奈津美ちゃんだったか?ま、まぁ、黒田姉妹には変な愚弟を見せちゃったわね…………じゃ、これで失礼させてもらうわ」
晶を縄で縛って晶子は窓から去っていったのだった。
「え、えーと?今の………なんだったのかしら?」
一人ぽつんと残された夏華ははてなマークをたくさん浮かべて………結論を出した。
「う〜ん………疲れてるのかしら?ちょっと夏見のベッドかりて寝ておこう………」
それまで晶が眠っていたベッドに入り込むと目を瞑る。
「…………あれ?お姉さま?晶さんは?」
おかゆを持ってやってきた奈津美は晶の姿を探す。
「先生の姉が来て誘拐していったわ」
「え?………ところで、何でお姉さまがベッドに寝てるの?」
「…………いや、先生に一緒に寝ないかって誘われて…………」
「じゃ、晶さんはそのベッドの中にいるの?」
「いや、いないわよ?」
「?」
奈津美のほうもはてなマークを浮かべながらおかゆを置いたのだった。
――――
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
泣き叫ぶ声が晶たちが住んでいる家から聞こえてくる。
「まったく!あれほど私の所有物には手を出すなって言ったでしょ!」
「すんませーん!!」
「薬が抜けるまで耒ちゃんにお仕置きされてなさい!」
「………く、くせになりそう………」
そんなちょっと危なそうなやり取りが行われていたのだった…………。