おかしくなった晶の章 その二
ネコ「誤字が発見されたそうだな?」黒田「ああ、とてもすごい間違いだ………たとえば、彼は出ていったが彼は出て言った………とか、そういうレベルの間違いなんてものじゃない。相当重症だ」ネコ「穴があったら入りたい……なくても自分でほってはいりたいというレベルだろうな?」黒田「そうだろうねぇ」ネコ「他の人も、ばしばし報告お願いします………今週のMVPは誤字報告をしてくれた海人さんで決まりだな」
三十、
彼が飲んでしまった薬………
「ああっ!薬がなくなってるぅぅぅ!」
それを調合した本人がようやくここで目を覚ました。今の時間帯、午前七時………少年がいなくなって二時間以上の時間が過ぎていた。
「え?これって………どういうこと?あ、もしかしてあの愚弟………」
ぎょっとしたような表情を見せた晶の姉…………晶子はあわてて立ち上がる。
「こうしてちゃられないわ!あの愚弟………絶対におかしくなってるに違いない!」
スーツを着込み、拳銃を懐へ…………危ないお姉ちゃん、白瀬晶子は暴走するであろう弟を止めるためにきりりと表情を引き締める…………
「目標は愚弟が女の子襲う前に捕獲!!これが最低条件!」
自分に言い聞かせ、彼女は家を飛び出していったのだった。
―――――
その頃、愚弟である晶は普段の晶のままで町を歩いていた。
「………う〜ん、そろそろ姉さんがおきてるっておもうんだが………疲れてるようだったし、俺がドリンク飲んじゃったからな〜………代わりに何か買って帰ったほうがいいな」
怒らせたら組織一つを滅亡させたり、銃一丁で翼龍と渡り合えるような戦闘能力を所持するあの姉の怒った顔を頭に想像させる。
「この前の数学の時間はマジでやばかった………」
未だに変装して晶に数学を教えている立場であり、彼女はよく晶に問題を当てるのだった。凪さんとどうやら仲が良いようで、よく職員室の前で話をしていた。
「…………っと、これでいいな」
まったく同じドリンク剤を彼は発見………
「あれ?」
それと同時に外に見知った顔を見つける。
「あれは耒…………?」
晶は急なめまいを感じ、ちょっとふらりとしたのだった…………
―――――
「まったく、藍さんにも困ったものだわ」
やれやれといった調子で耒はため息をはく。
「………あたし、これから用事があるって言うのに歯磨き粉を買ってきてほしい………だなんて…………晶がいなくなって人使いが荒くなったんじゃないのかしら?」
ぶつぶつと呟いている………彼女が言うのは実は間違っている。
普段だったら晶がそういった雑用をこなしていたために他人に回ってこなかっただけなのである。つまるところ、耒があの家でしていることといえば未だに謎の料理を晶が抜けたあのメンバーに振舞っているだけである。ただ、久しぶりに晶が耒の手料理を食べれば少しは腕が上がったと口を開くに違いはない。
「あ〜………ったく、こんな雑用は晶にやらせばいいのに〜」
未だにそう呟いている耒の肩が叩かれる。
「やぁ、耒」
「あれ?晶じゃない………どうしたの?」
街中で会うのは珍しくはないのだが、晶の姿は一ヶ月前によく見ていたジャージ姿だった。
「まだ家に帰ってないの?」
「まぁ、そうだね…………ところで、耒はどうしたんだい?」
なんだか普段とは違うやわらかい感じのする晶に違和感を抱きながらも耒は答える。
「藍さんからの頼まれ物を買いに来たのよ」
「へぇ、それは何?」
「歯磨き粉………切れちゃったんだって………晶、今日はどうかしたの?」
いつもだったら目をそらすような………何か心に何か抱えているような感じを受ける目線をしているのに、今日の晶はしっかりと耒の目を見て話をしてきているのだった。
「別に?何でそうおもうの?」
「えっと………ほら、普段は絶対に目を合わせないようにして話すじゃない?」
以前、耒がそれを指摘すると苦虫を噛み潰したような顔をした晶だった。それに味を占めた耒は目をそらし続ける晶の目をしっかりと追いかけて行ったりとしていたのだった。
「………それに晶………そんなに目、きらきらしてたっけ?」
「ん?普段からこんなもんだよ?」
普段だったらちょっと不機嫌そうな顔をしてぶっす〜とした表情だった元、同居人を耒は見つめる。
「え〜と、そう、それならいいの…………じゃ、あたしもう行くね」
なんだかこのままこの晶と一緒にいるといやではないのだが………なんだか気恥ずかしい気がしたので耒はそう言って離れようとしたのだが…………
「まってよ、僕も一緒に行くよ」
「ぼ、僕ぅ?」
耒はぎょっとして晶を見るのだが…………気がつけば晶の顔が目の前に迫っていたのだった。
それにあわてた耒は強い口調で晶に言う。
「は、放しなさいよ!あんたなんかと一緒に行く気はないの!」
「…………そんな恐い顔しても元から可愛いから絵になるね?」
「なっ…………!?」
普段では口が裂けてもそんなことを言わないであろう、あの晶がそんなことを行ったのだから耒の頭の中は活動を止めたのだった。
しかし、このまま黙っているとなんだかいけない気がしたので耒はイニシアチブを手に入れるためにちょっと調子にのってみることにした。
「そ、そう?まぁ、あたしはか、可愛いからね〜」
可愛いなんて言葉をあまり言わないもんだから裏声になりながらも、髪の毛をかきあげてみて精一杯大人ぶる。
「………ふふ、そういった背伸びした感じがとても可愛いね」
それに対して耒は首をかしげる。
「………背伸び?あたし、背伸びなんてしてないわよ………?あ、身長伸びたって言ってくれてるの?よかったぁ♪あたし、最近背を伸ばそうとしてがんばってたのよ〜」
無邪気にそう喜んでいる耒に苦笑するかのようにして彼女の頭の上に手を載せる晶。
「……………そんな素直なところだって…………耒らしい」
ここで普段の晶だったらまぁ、お前らしいボケのかまし方だったな………お笑いに入ったらどうだ?と茶化していただろう。
「え〜と、本当に今日はどうかしたの?」
実のところは薬を飲んでてんてこ舞いなのだが………今の晶にはそんなことは関係ない。
「別にしてないよ、ただ、耒がとても可愛いな〜とおもって…………でさ、僕………困った顔の耒も見たいと思っちゃった」
「え?」
晶の顔がすっと真剣な顔になる。
「耒………僕とキスしよう?」
「えぇ!?ちょ、ちょっと……いきなりじゃ困るわよ!」
「じゃ、いきなりじゃないならいいんだ?………じゃ、目を閉じて?」
「え……………わ、わかったわよ…………」
耒は目を瞑り…………顔を真っ赤に染め………
ちゅっ
「あれ?」
おでこに軽い感触があり、耒は目を開ける。
「ふふ…………今の耒にはこれで充分………だろ?」
「な、ななっ!!何よそれ!」
「おませさん♪………じゃ、僕は用事があるからばいばい、耒?またキスしてもらいたかったらお兄さんのところにおいで?」
「あんたとあたし!同級生よ!この変態!!」
耒は石を晶に投げつけるも、晶はそれを華麗に避けたのだった。まるで、背中に目があるように………残された耒は顔を真っ赤に染めながらもその場を後にしたのだった。