藍の章 その四
晶「おれさぁ、一つおもうことがあるんだけど?」ネコ『何だ、少年?』晶「俺たちまだ自己紹介もしてないぜ?」ネコ『ああ、それはちょっと色々と順序って奴があるんだよ』晶「ふ〜ん………」ネコ『さて、読者の皆さん……評価感想、お願いします』晶「ちなみに今回の話は学校です」
四、
昼時はそれぞれが好きなように食べるのだが、俺の場合は一人で食べている。いや、友達とかがいないとかそういうのではなく、他人より食べるのが早いのでちょっと暇になるのだ。他人が食べている前で食べ終わった俺が暇そうに他人の弁当を覗き込んでいると
「あれ?白瀬君はまだ食べたりないのかな?」とか
「うわ、人ん家のおかずをチェックしてる………なんて野郎だ」とおもわれないようにするためには自ら孤独という険しい山道を時速三十キロで駆け抜けなくてはいけないのだが………
「………晶様、おいしいですか?」
「………ああ………おいしいぞ?」
俺の目の前にはニコニコしながら尋ねてくる藍の姿がある。
「それにしては顔色が優れませんが………やはり、まだ料理の腕が悪いのですか?」
「いいや、料理はおいしいんだがな………その、この空気がな?」
辺りからは男たちの口では絶対に言わないような嫉妬心がオーラとして彼らを包んでいる。
「空気?ああ、確かにお外で食べたほうがおいしいですもんね?今度一緒にピクニックにでも行きましょうか?鍾乳洞が見えるいい地底湖を知ってるんですよ」
はは、そこは非常に楽しそうだな…………まぁ、いつになるかはわからんが期待しておくこととしよう………
「おい、白瀬………僕が必死になって君のために龍関係の話を調べてきてあげたのに君は居候さんと一緒に午後のひと時を楽しんでいるのかい?おいおい、そりゃないぜ〜僕も混ぜてくれよ」
やってきたのは黒田………その手にはなにやら書類を握っている。
「ああ、あれは冗談だったんだけどな」
「そうかい?まぁ、調べちゃったものはしょうがないから君に渡すよ………藍さんだったかな?僕の名前は黒田だけど……」
「はい?」
「白瀬の親しい友人だから今後ともよろしく………」
「それはどうもご丁寧に………」
二人で話をしているようだったので俺は一人で書類を見ることにした。この短時間のうちにどうやらパソコンなどを使って調べてくれたのかプリントアウトされており、見やすく整理されている。
書類の二枚目には既に知っている伝説が載っており、その次のページには近くの山にある龍と思われる生物の話が載っていた。
「なぁ、黒田………」
「なんだい?僕は藍さんとの午後の甘いひと時を邪魔されたくないんだが?」
「邪魔したことには謝ろうとおもってるが………この伝説っていつぐらいのものかわかるか?」
俺が手にしている書類を覗き込んで
「ん〜?」と呟いた後、頷いて口を開く。
「比較的新しい………ここ百年以内に作られたとおもわれる伝説だね………面白いもんだよ、百年前だって既に電気が発見されていたのにねぇ」
「なぁ、お前はこの伝説…………本当だとおもうか?」
俺は現実主義者の黒田に対して馬鹿な質問だとはおもったのだが、調べてもらった手前、こういうことを聞いておきたかった。
以前、お化けはいるだろうかと軽い気持ちでたずねたのだが奴は
「馬鹿だなぁ、白瀬は………いいかい、お化けなんているのならぜひとも姿を現してもらいたいものだよ!呪い?呪いを掛ける前に僕の目の前に姿を現してくれって言いたいね」と言っていたのでこの件にもどうせ否定的な意見を述べてくるとおもったのだが………
「ああ、本当だとおもうね」
「その根拠は?」
気になったのでそのようにたずねると奴は遠いところを見るような瞳を俺と藍に見せていった。
「………世の中には知らないほうがいいってこともあるんだよ………じゃ、僕は用事があるからこれで失礼させてもらうよ」
そういって黒田の奴はきょとんとしている俺たちの目の前から姿を消してしまったのだった。なんだ、あいつ?
「黒田さんって変わった方なんですね?」
「俺からみれば藍も充分性格が変わっている気がするけどな…………」
「そうですか?ああ、なるほど………歩き出すときは絶対に左足からしか踏み出せないところですか?これは性格じゃなくてくせですよ、晶様」
そうそう、そういう人とはちょっと違った空気を持っているところな?藍フィールドが転回されており他者の攻撃を寄せ付けないといったところか?
「おっと、変わった奴らに構ってたら飯食う時間が減ってたぜ………」
「晶様、複数形になってますよ?相手が一人だったら『変わった奴』が正解です」
人差し指を立ててそんなことを先生みたいに言ってはいるが、俺からみたらお前も入ってちょうどいいんだが?
とにもかくにも、昼休みはこんな感じで過ぎていった。
――――
気がつきゃ放課後で俺はどうするべきかと悩んでいた。何を悩むか………それは、藍のことではなく、今夜の晩御飯のおかずだった。藍が買い物にいくかもしれないのでそれでは金の浪費だ……ということで俺は藍のいる隣の教室へとやってきた。
「へぇ藍ちゃんってやっぱり白瀬君と同じ家にすんでるんだ?」
「ええ、そうですよ、一週間ぐらいですかね?」
いたにはいたが、なにやら女子と仲良くなっているらしい………これ以上俺の家での態度を暴露されていては困るのですまなそうな感じで女子の輪に入っていく。
「あ〜藍、ちょっと話がしたいんだがいいか?」
「はい?いいですよ?どなたとお話しがしたいんですか?」
そういった瞬間に俺の頭の中には
「きっと藍の頭の中を切ったらお花畑が出てくるんだろう」と確信してしまった。
「………ボケはいいからよ………藍、俺はお前と話したいの!わかった?」
「ええと………わかりました。皆さん、今日はこれで帰ることにしますね」
「うん、じゃあね二人とも」
ああ、この人たちどこかで見たことがあるような女子たちだなぁとおもうことがあるだろう。そんな俺にとってはど〜でもいい人たちだったので俺は返事をしなかったのだが、藍にとってはど〜でもいい友達ではなかったのだろう、彼女はしっかりと振り返って頭を下げた。
「はい、さようなら」
藍と共に校門を抜け、俺たちはスーパーに向かうことになった。
「………晶様」
「んあ?」
それまで黙って歩いていた俺たちだったのだが、唐突に藍が俺に話しかけてきて俺は虚をつかれた様な返事をしてしまった。
「…………友達とはいいものですね?」
「………友達ねぇ……俺はよく知らんがいいものじゃないのか?」
俺がそんな回答をすると藍は不思議そうな顔をした。
「………晶様にはお友達がいないのですか?」
「………さぁな、転校とか色々してきたからそんなもんはいないっていったほうがいいんじゃないか?」
「ではあの黒田さんは?」
「ん〜あいつは俺のことを友達だとおもっているだろうが………」
「晶様は友達ではないとおもっているのですね?」
「いいや、親友だな」
「親友?」
「ああ、親しい友人って奴だ。友達よりランクが上って所だな」
「では、私はどうですか?」
首をかしげて俺のほうを見てくるので俺は答えた。
「居候仲間だな」
「それはどのようなランクなのですか?」
その藍の質問に対して俺は首をすくめるしかなかったというのは当然だろう。