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黒田の章 その六

晶「お、黒田の章も終わっちゃったな………」ネコ「そうだな、いい話だった………」晶「ネコ!?どこに行ってたんだ?」ネコ「うむ、トイレの帰りに暴漢に襲われてな………ネコパンチで撃退してきた」晶「マジかよ………」

二十四、

 廃工場を抜けるとそこには警備員が立っていた。

「おや?どうやってここに入ってきたんだい?それとも先ほど出て行った研究員のご兄弟か何か?」

「ええ、まぁ………彼女の弟です」

「ああ、成る程………気をつけて帰るんだよ?」

 警備員さんはそういって俺たち二人についてそれ以上詳しく聞いてくるようなことはなかった。黒田に連絡しようとおもって携帯を出そうとしたのだがやめた。夏華ちゃんが邪魔をしてポケットから取り出すことが出来ないからだ。

「…………やっぱ、あるもんはあるんだなぁ…………」

 背中に当たるやわらかい何かを意識しないように俺は動かない夏華ちゃんに話しかける。

「…………」

 当然、彼女から返事はないので俺は今日一日しか会うことのないだろう背中の人物に話しかけ続けることにした。

「………もうちょっと素直になれよ、そうしたらもてるぜ、きっと………」

「………」

「あとさ、あんまり威圧的な態度はとらないでくれよ?あとは………」

――――

 俺は何とか黒田の家まで戻ってくることが出来た。すれ違う人は朝の出勤時間に間に合うように急いでいる人たちが多々だった。

「…………ああ、疲れた………」

 家の前でインターホンを押す。

「やぁ、白瀬…………」

 再び穴から姿を現す黒田。

「…………黒田、俺のバッグとってきてくれ………ほら、その代わり………何年前かの忘れ物だ………」

「お………」

 いつも飄々とした態度を崩さない黒田だったが、俺の背中から夏華ちゃんが落ちたのを見ると一瞬だけ驚いた顔をみた。

「まったく、君って奴は時折すごいね」

「俺は普段からすごい奴だ」

「そうかい…………はい、鞄…………今日はもう帰るのかい?」

「ああ、家族水入らずって奴だ。残った休日は家族で過ごすといい…………じゃあな」

 俺は地についている学生鞄を拾い上げ、少しだけついてしまった土を払ってその場を去ることにしたのだった。

「………白瀬、いつか君を再びこの家に誘いたいとおもうよ」

「そうかい、それは楽しみにしておくぜ?だが、今度はきちんと玄関から入りたいからそこのところはよろしくな」

 結局、あの玄関を開けたらどうなるのかは本当のところわからなかった。

――――

「ああ、暇だな…………」

 休日中の家庭教師のはずだったのだが、二日目以降は確実に暇となっていた。あの三人と洋子さんは未だに帰ってこない……………そりゃそうだ、あの人たちが帰ってくるのは連休の一番最後………学校から連休中に終わらせて置くようにといわれた宿題などには未だに手を出していない。そういうのをする気分ではないのだ。

「暇だな………」

 そう呟いた俺のためか、どうかは知らないが………突如として携帯電話が勝手に鳴り出した。

「………はい、もしもし?」

 俺は不機嫌声を惜しげもなく披露しながら相手の困惑を誘おうとしたのだが………いかんせん、相手がぜんぜん通用しそうにない相手だった。

『やぁ、白瀬………妹の命の恩人として僕らの家族は君を招待したいんだが………時間はあるかな?この前言っただろ?』

 ああ、そういえばそんなことあったなぁ………まさか、こんなに早くそうなるとはおもわなかったのだが…………俺はその質問に対して少々考える時間が必要だった。

「………あいにく、そっちの家庭教師の仕事を追えた後に急遽用事が入っちまってな………連休に休みはねぇよ………それより、奈津美ちゃんの成績はどうだった?」

 俺がそう尋ねると相手側の受け答え人が変わったらしい。

『………もしもし?晶さんですか?』

「ああ、その声は………奈津美ちゃんか………テスト、どうだった?」

『約束どおり百点ですよ………ありがとうございました』

 それを聞いて安心した………もっとも、何も教えちゃいねぇが………

『百点をとれたのは晶さんのおかげです………それで、お母様が給料を渡したいと………』

「いや、俺は何も教えちゃいない。だから、そのお金でどこかに遊びにでも行ってくださいと伝えておいてくれ………じゃ、そろそろ………」

 電話口から

「お兄様、晶さんはお金が大好きだっていってませんでした?」という声が聞こえてくる。あいつ、奈津美ちゃんになんてことを教えてるんだ!

『ちょっと、かわって………もしもし、晶先生?』

 今度は夏華ちゃんのようだ………つくづく、奴の携帯電話は人に渡りやすいという欠点を持っているのだろうか?それとも、あいつは兄でありながら尻に敷かれているのどちらかに違いない。

「何だ、夏華ちゃんか………俺に何か用か?ところで、あれから体に変化とかは?」

『大丈夫よ………それでさ………あのときの………お礼がしたいんだ。こっちに戻ってこれたのは晶先生のおかげだし………』

 やっぱ、それか………何度もいうが………

「俺がしたことは何もない………夏華ちゃんが戻りたいとおもってたからこっちに戻ってこれたんだろ?じゃ、悪いけど俺、用事があるから」

 俺はそういって携帯電話を切って、ついでに電話の電源も切ったのだった。

「…………暇だな〜」

 俺は天井を見つめてそんなことを呟く。

 自分でも何故、さっきのような行動をとったのか理解できなかったのだが…………俺はそうするのが一番だとおもった。だって、まだ彼女たち二人が実際にあって一週間もたっていないのだ………しゃべりたいことも…………ここで、俺は疑問を覚えた。さて、久しぶりに会った二人がすんなりと会話をしていけるだろうか?今までいなかった………新でいたことになっていた家族が戻ってきたら接しづらいのではなかろうか?

 俺は要らぬおせっかいだとは知っていたが、携帯の電源をつけ、先ほど電話をかけてきた奴の番号をプッシュ。

「………あ、もしもし黒田か?やっぱ、今からお前の家に行くよ。今日の分の用事、全部キャンセルしておいたからな」

「………まったく、心変わりが早いのは相変わらずだね…………で、相手側の人にはちゃんと謝っておいたのかい?」

 少々笑みを含ませながらしゃべっているのだろう、奴の口調はさも面白そうに聞こえてきた。

「ほっとけ、俺が一番いいとおもうやり方にいちいち口を挟むなよ?…………ああ、歓迎のせきは出来ればお前の二人の妹の間に座りたい…………両方とも美人さんだからな」

 いっていて頬が熱くなってくるのを感じるのだが、こういうものはあれだ、いってしまえば意外とすっきりするものに違いない。

「………二人が了承したら構わないよ。あと、あの三人が怒り狂っても知らないからね?………準備はもう出来てるからいつ来てくれたって構わない………残念ながら玄関からはやっぱり入れそうにないけどね」

 苦笑気味に………だが、嬉しそうに黒田はそういうと電話を切ったのだった。

「さて、それじゃあ俺も行きますかね〜」

 きっと、久しぶりに出会ったら困惑するだろう。彼女たちに詳しいこともしゃべらないといけないし、まぁ、黒谷はしゃべらなくてもいいだろうが…………とりあえず、俺がするべきことはただ一つ、彼女たちの間の席に座ることだろう。


 俺は立ち上がって玄関を開けたのだった。


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