黒田の章 その五
耒「え〜今回、晶がマゾであるということが判明しちゃいます」晶「しちゃいません」耒「認めなさいよ、楽になれるわ」晶「楽になるわけねぇだろ?まったく、耒の頭の中身はきっと空っぽなんだろうなぁ?」耒「む、晶よりは詰まっているもん」晶「お前が詰まってるのは血管じゃないのか?」
二十三、
「ぐぅ………」
目の前にいる黒スーツの女性は俺の背中に足を乗せる。
「どう?この屈辱的な感じは?」
「………あいにく、こんなことじゃ屈辱的だって感じないんでね………」
「へぇ、じゃあ………いやいや、興に乗っちゃったら面白くないわ………あの子、助けたいんでしょ?」
彼女は俺の横腹をける。
「ぐ………」
「どう?妹思いのあの女の子、助けてあげたいんでしょ?」
「…………助けてあげたい」
「じゃ、交換条件………」
来るだろうと予想していた展開は必然的に俺に降りかかってきたのだった。
「……………どうする?聞く?聞いちゃったら絶対にしなきゃいけないけど?」
「聴く」
俺が即答すると頷いた。
「うん、こういうのが奴隷に欲しいとおもってたんだよなぁ〜」
「俺があんたの奴隷になればあの子を助けてくれるのか?」
「いやいや、そんな酷な要求はしないわ…………そうねぇ、それなら………」
彼女はちょっと考え込むとにやっと笑った。
「私のこと、お姉ちゃんと呼びなさい」
「…………は?」
俺は踏まれているのにも関わらず上を見上げる。
「お姉ちゃんよ、お姉ちゃん。約束するって言うのならあの子を助けてあげる方法を教えてあげるわ」
「…………」
固まっている俺の横腹に一撃が炸裂する。
「ぐっ………」
「まったく、愚弟ね!お姉ちゃんの言うことはちゃんと聞きなさい!よろしくて?」
「りょ、了解しました………お姉ちゃん」
何とか立ち上がって俺は黒スーツの女性を見る。
「…………」
「ほかに何か聞くことは?」
「何で、何で………そんなくだらないこと……ぐぅ………」
俺の腹に強烈な一撃が叩き込まれる。相手はにこりと笑って俺に告げる。
「…………簡単なことよ、弟というものは永遠の奴隷よ!!」
「………そうだったのか………ぐふっ!!」
再び俺の腹にけりが飛んでくる。
「そこは『なんでやねんっ!』ってつっこむところでしょ?まだ甘ちゃんね………ほら、さっさとそこに隠れてる女の子と一緒にもとの世界に帰りなさい。ここにいたらまたきれいなお姉さんにあっちゃうわよ?」
お姉ちゃんは…………にやりと笑うとその視線を一つのガラス管へと向ける………
「な、夏華ちゃん………」
「あ、晶先生………」
俺は無様に肩膝をついている状態であり、そんな俺のもとへ夏華ちゃんは駆け寄ってきてくれていた。
「麗しいね〜愚弟よ?」
「く………お姉ちゃん、どうやったらこの世界から夏華ちゃんを出してあげればいいんだ?」
俺は夏華ちゃんに支えてもらいながらもふらふらと立ち上がってお姉ちゃんを見る。
「まったく、馬鹿ね…………ま、だから愚弟って言われるんだけど………そんなんじゃ、立派な人間にはなれないわよ?心配しちゃうわ」
「…………く」
なぜだか、本当の姉だとおもってしまった自分が恥ずかしい。
「………あんたはこの世界からすぐに戻れる………それなら、そこの彼女を抱きしめて出ちゃえばいいじゃない?」
「…………そんな簡単なことで?」
「どうかしらねぇ?あんたは簡単なことだとおもってるけど…………何度もこの世界から出ようとしていたそこの彼女にとっては恐いことかもよ?」
そういってお姉ちゃんは夏華ちゃんのほうを見る。
「…………」
彼女の体は震えており、目の焦点があっていない。
「…………その子、たまにここにやってきては何かやらかそうとしてたのよ。記憶がないなんて嘘だけど………いえないようにはしてるからね……ま、愚弟の知り合いの妹さんかなんか知らないけど………もう用事がないからかえっていいわよ」
「…………く…………」
「あら?そんな生意気な顔すると、お仕置きするわよ?」
その表情は冗談を言ってそうな顔だが、お姉ちゃんは拳銃をちらつかせる。
「素直に従わないっていうなら四肢を打ち抜いてもいいわよ?どうするの?」
目の焦点があっていない夏華ちゃんは答えない。それを確認することなく、お姉ちゃんは俺を見てくる。
「…………わかった、従う」
「よろしい、それじゃあ…………この鏡を使いなさい?」
そういっておくにあった鏡を指差す。
「…………ありがとう、お姉ちゃん」
俺は夏華ちゃんを引きずるようにしてその鏡の前に立つ。
「いいわよ…………けどね、もうここに来ないほうがいいわ?次、確実に飲み込まれるのは…………」
お姉ちゃんは俺の背中を思い切り押す。
「………間違いなく晶だから…………」
――――
「…………ん?」
気がつけば、朝だった…………というのは良くあることで、ここはどこだろうかと周りを眺めてみると………
「廃工場か………」
埃っぽい床に寝転がっている状態で、その上には俺に抱きしめられている夏華ちゃんがいる。
「ん?」
その上には俺に抱きしめられている夏華ちゃんがいる。
「…………」
その上には俺に抱きしめられている夏華ちゃんがいる→俺が夏華ちゃんを抱きしめている。
「…………はぁ、夏華ちゃんが寝ている状態でよかった」
夏華ちゃんをどかして俺は立ち上がろうとしたのだが………
ぱしゃり
「うを?」
「愚弟、親友の妹を襲うのはどうかとおもうぞ、お姉ちゃんとしては………」
そこにいたのはおねえちゃんだった。
「え?何でここに?」
「そりゃあ、あそこから戻ってくるにはここしかないからね………ああ、愚弟は違う。愚弟は鏡に違うものが映っているところならどこでもいけるみたいだけどね」
そういってお姉ちゃんは立ち上がる。
「……………私のこと、ばらしたらこの写真三人に渡しとくわ」
「…………」
そういって彼女は姿を消し、残されたのは俺と夏華ちゃんだけ。その後、俺は眠っている夏華ちゃんを背負い、埃を踏みしめたのだった。