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黒田の章 その四

晶「さて、黒田の章も半分を超えてしまいました」耒「晶、あたしの出番がないんだけど?」晶「いやぁ、思い返せばいろんなことがありましたね〜」耒「晶、あたしの出番がまったくないんだけど?」晶「では皆さん、楽しんでください………ああ、いい忘れていましたがここからほんのちょっとだけシリアスです」耒「ちぇ、無視かよ〜」

二十二、

 夏華ちゃんが覚えていることは殆ど無かった…………と言っていい。

「気がついたら奈津美のすぐ傍にいただけで………鏡に映っているのが奈津美だってわかったぐらいだった」

 彼女の記憶はそこからしかない。一番古い記憶は夏華ちゃんが奈津美ちゃんと共に不法侵入を行おうとした一歩手前のところまでだった。

「…………そうか」

 俺はそう答えるしか出来なかった。

「なぁ、この鏡の世界で夏華ちゃんは動くことが出来るのか?」

「…………一応ね」

 俺の意図に気がついたのか、彼女は首を振る。

「その工場に行こうと考えてるんでしょ?さっき約束したばかりじゃないの?」

「彼女が寝ている間に行けばいいじゃないのか?で、起きる前には帰ってくるってことにしておけばいいだろ?手紙だってきちんと書けばいいんだし…………」

 俺は夏華ちゃんを説得するために考えることにしたのだが………

「私の姿、見たでしょ?あんな化け物がこの世界にはまだいるかもしれないでしょう?私のような化け物が………久しぶりに出来た友達を連れて行ったらと聞いたら奈津美はどんな反応をするとおもうの!」

「あんたは化け物なんかじゃない!!!!」

「!?」

 俺は知らず知らずのうちに怒鳴っていた。そのときに何故かあの三人の顔が浮かんだ。

「…………こんなにも妹のことを考えているあんたが化け物なんかじゃないのはあんたの妹である奈津美ちゃんが知ってるだろ?」

「でも…………」

「とりあえず、手紙を書いてそこに置いとく。それに、夏華ちゃんはやっぱりここにいたほうがいいと思うんだ。彼女……………奈津美ちゃんの傍にいてやってくれ」

 俺は鏡の中にある扉に手をかける。

「本当にいくの?え〜と、名前は………」

「晶だ、白瀬晶。あんたら二人の家庭教師だ。教師の名前を忘れんなよ」

 俺はそういって彼女以外人間がいないであろうこの世界に躍り出ることとなったのだった。

―――――

「勇んで出てきたのはいいとして…………」

 俺は左右が逆になっている世界に一人いることに対して疑問を抱き始めていた。俺と夏華ちゃん以外他には誰かいないのか?

 時計なんて持ってないし、未だに制服だし………風呂にも入っていない。とりあえず急いでこの世界から出るかどうかしないといけない気がしてきたのだが、夏華ちゃん一人だけをこの世界に閉じ込めたままにして帰るのは気が引ける。

「だから、だからなんとしてでも手がかりが欲しい………」

 俺の心境はそんなところだ。

 向かうべき場所はただ一つ、あの廃工場だ。あそこにはやっぱり別の何かが存在しているのだ。

―――――

「…………なるほどね」

 廃工場が目の前にあるのだが、そこは廃工場なんかではなかった。今も中で作業をしているのが一目でわかる。建物に備え付けられている煙突からは煙が吹き出ているのだ。

「警備員はいねぇな………」

 あっちの世界ではいた警備員がこちらではいない。罠かともおもったのだが、思えばこの世界にやってきてあった人物は夏華ちゃんだけだ。警備員が必要ないとおもっているのだろう。

「さぁて、何かお宝を引き当てられればいいんだけどな…………」

 俺はそのまま歩き、扉をくぐって工場内にはいったのだった。

――――

 工場内は様変わりしており、工場というよりもこれはどう見ても生体実験を行うような場所だった。

 巨大なガラス管に入っている謎の生命体に胎児のようなもの…………それには液体が流し込まれたりしている。

 床には書類のようなものが散乱しており、その一つを手にとって目を通してみる。

「………………細胞移植?ウィルス依存?」

 さっぱりだ。

 そんな理数関係の言葉を出されたって俺は文系派だから理解できん。ということでこれまた別の書類を手にとって見る。

「………プロト01脱走?プロト02始末終了………プロト99始末段階で脱走………」

 どうやらここでは生体実験を行っているのは揺るぎのない事実のようだ。

「つまり、ここじゃ…………」

 工場内で見たものを思い出す。そう、そこにいたのは…………

「………おやおや、ここまで来るとはね…………」

「!?」

 急いで声のしたほうを見ると銃弾が飛んできたのだろう、俺の頬に赤い線が引かれる。

「っ………あんたは………」

 何度か目にしたことがある黒スーツのお姉さんだった。

「しっかし、ここまで来るとはね?どうやってこっちの世界に来たの?」

 その手に握られていたものは彼女がいつも使っていた拳銃。

「…………事故でこっちにきた」

 俺は素直に答える。嘘は言っていない。

「へぇ、やっぱり…………君はその資格があるんだね〜?」

 心から面白そうに笑っているのだが、その手に握られている拳銃や、彼女が発しているオーラのようなものは緊迫感をいっそうに高めるものだった。

「一発、うたれてみたい?きっと面白いとおもうよ?」

 笑いながら俺の額へと拳銃を向ける。

「…………撃って構わないが、一つだけ聞きたいことがある」

「それより、目上の人に話すときは敬語で話せって父ちゃん母ちゃんにいわれなかった?」

「…………残念ながら父さん母さんの顔なんて知らない………だが、確かにそう別の人にいわれたことはある」

 あれは洋子さんからよく言われていたことだ。

「…………以前、この世界に一人の女の子が来ませんでしたか?」

 俺がそういうと相手は首をかしげる。

「女の子…………何?あの藍色の翼龍の女の子?」

「いや、違う」

「ふぅん?違う………紫電の翼龍の耒ちゃんだっけ?」

 いまさら何故この人物が名前を知っているのか知らんが今はどうでもいい。

「もっと幼かったときの話だから…………名前は夏華っていう人です」

 敬語を話すことなんて殆ど無いので面倒であるが、ここで相手のご機嫌を損ねたら終わってしまうだろう。

 俺のいった名前に心当たりがあったのか相手は頷いた。

「まったく、君はとてもそっち系に好かれる体質か何か……………惹かれあうのかな?まぁ、その子は失敗作だから構わないけどさ」

「失敗作だ…………と?」

 目の前が真っ赤に染まる。俺は拳銃を向けられているのを気にせずに相手につっこんでいくが………相手はそれをあっさりと避ける。

「そんなに怒らない怒らない………怒った君の攻撃なんて一直線だからかわしやすいよ」

 足をかけられて俺は無様に転がった。

「その子も助けたいんだ………いや、ここにいるってことはもう助けた後かな?後はあの子をどうやってもとの世界に戻すか………そんなところだよねぇ?」

 ニヤニヤとそんな笑いを俺に向けながら彼女は拳銃をしまう。

「…………今日こそ君をおもちゃにしようとおもったんだけどやめた。失敗作が絡んでるんなら科学者として心が痛むわぁ……」

 ぜんぜん痛んでいませんという表情で彼女は俺を見下ろしていたのだった。


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