藍の章 その三
晶「うぉい!サブタイトルがその三になってるぜ!」ネコ「ま、色々とあるんだろう………」晶「そんなもんか?まだ自己紹介もしてないのに俺たちの名前出てるぜ……」ネコ「私にいたってはネコだぞ」晶「とりあえず、読んでくださいな」ネコ「ふ、逃げたな………」
三、
目が覚めると隣の布団で寝ているのはパジャマを着て眠っている少女の姿だ。
「す〜………じゅるるる〜……」
はじめのほうは可愛い寝顔だとおもっていたのだが脳がだんだんと覚醒していく段階でよだれをたらして眠っているだらしない顔が脳内に張り付かれていき………
「さて、起きるか………」
みていて得になるものではないとスパッと未練を断ち切って俺は起き上がった。
「う〜ん………もう食べれませんよ……」
そんな寝言を部屋に残して………
――――
朝の日課であるランニングを終えて家に帰ってくると先ほどどうせ食べ物の夢でも見ていたであろう藍のエプロン姿を見ることができた。最近では既に日常の一ページとして俺の生活に組み込まれている。
「ああ、晶様おはようございます」
「ああ、おはよう………洋子さんは?」
洋子さんとは俺がお世話になっている家の奥さんのことだ。
「先ほどお勤めに行きました」
「そうか………う〜ん、じゃ、俺もそろそろ飯食べないと学校に遅れるな………」
席に座ると藍が俺の目の前に湯気の出ているご飯などを置いてくれる。
「………ふぅん、藍の料理のセンスってかなりいいよな?」
「ありがとうございます」
俺がそういうと照れたような仕草で箸を口の中に突っ込んで箸は
「ボキッ!」という断末魔の叫びを残して大小あわせて四本になってしまった。
「あ………またやっちゃいました」
「…………」
まぁ、これで七膳目なのだが、そんなことはどうでもいい。
藍がこの家に来て七日目で毎日毎日箸の本数が少なくなっていることなどさらに輪をかけてどうでもいいことだ。料理の話に戻るが、この家に藍がやってきたとき藍は自ら炊事を買って出てくれたのだが見事に努力は謎の料理という暴力に変わって俺たちに降り注いできた。見事に俺たちは撃沈してしまい、やめてもらおうとしたのだが
「譲れないんです!お世話になるんだから何か恩返ししませんと……」と意外に頑固なところを見せて毎日俺たちは謎の創作料理の餌食となった。洋子さんと醜いトイレ争奪戦はこの家の恥部だろう。しかし、めきめきと実力をつけてきた藍は四日目にして人並みの和食を作れるようになって昨日の夜には洋食も殆どマスターしたようだ。俺は小さい頃からずっと料理をしてきたのでよくわからんが藍の実力は相当なものなのだろう。
「今日から私も晶様と一緒に登校できるようになります!」
嬉しそうにそう言っているが、それは色々と手続きやら何やらあってようやく昨日に編入手続きを終えたということなのだろう。
「ん〜じゃ、そろそろ行くか?」
「はい!!じゃ着替えてきますね!」
気がつけば藍の食器に載っていた料理たちはすべて彼女の胃の中に納まってしまったらしい………俺の量の二倍はあったとおもったのだが俺はまだ自分の分を半分ほどしか胃の中に収めてはいなかった。
――――
「なぁ、晶………お前の家に居候が来たんだって?」
「俺自体も居候なんだがな………まぁ、新たな居候仲間が増えたのは事実だ」
どこから情報を仕入れたのか知らないが一人の男子生徒が俺に転校生の情報を聞いてきた。
「女だって?」
「ああ、そうだ」
「うひょう〜………春が来たね?」
「誰に?」
「君に」
やれやれ、こういった冗談が好きな連中がこの学校には多すぎて困る。一度集団粛清を行ったほうがいいだろうか?
「ま、冗談はともかく………このクラスではないってことは確かだろうね?」
「そうだろうな………となりのクラスって藍は言ってたからな」
「へぇ、藍ちゃんって言うんだ?」
「ああ、そうだ」
別に秘密にしておきたいことなんて一つも………いや、あったな。
「ん?白瀬………顔色が悪いよ?」
「………もとからこんな面だったらよかったのになぁ………色白美人ってやつだろう?」
「青白美人の間違いじゃないのかい?ま、気分が悪いのなら保健室に、機嫌が悪いのならカルシウムを採ることをお勧めするよ。イライラが直るらしいからね」
そんなプチ情報などどうでもいいと思っていると朝のホームルームを告げるチャイムが鳴り始めたのだった。
―――
思ったとおり………というより、高校になったら高校生がこの学校にやってきましたとか先生が言うことは無いようだ。どうせ、俺らの担任はがちがちの現社のティーチャーだからしゃべることも無いだろうが………
「黒田、ちょっとトイレに行ってくる……」
「ふぅん………未だに顔色が悪いけどトイレに行って逝くことはないようにしなよ?トイレで倒れると逝っちゃうことが多いそうだよ」
黒田は首をすくめてそういい、俺はそれを無視してトイレへと向かおうとしたのだが……
「晶様!学校って面白いんですね!」
「遅かったか………」
きっと今の俺の表情は苦虫を十匹ほど噛み砕いて青汁で飲み干したような感じに仕上がっているのだろう。オプションとして汗を流しているに違いない。
「………聞いた、今の?」
「………うん、晶様って呼んでたよね?」
「もしかして、白瀬君ってそういうプレイの好きな人なのかな?」
「白瀬はああ見えてドスケベだからね………家じゃご主人様なんて呼ばせてるかもよ?」
周りの視線がいたい………最後の黒田、お前には後で『白瀬晶のお手軽地獄旅行』につれてってやるから楽しみにしてろよ?
黒田を地獄に落とす前にやるべきことはたくさんある。
「………藍、俺のことは学校で白瀬君とか輝君とか君付けで呼んでくれって言っただろ?」
「あ、そうでしたね?」
「………とりあえず、一時間目始まるからお前は教室に戻っておけよ」
「はい、わかりました!!じゃ、失礼しますね、晶様」
忘れてたのか、わざとなのか……どっちかわからんが………しっかしまぁ、とき既に遅しだ………
「ワイバーン……か」
「白瀬、何をつぶやいているんだい?」
「いや、いかれた野郎の独り言だ………気にしないでくれ」
「もとより気にしてないけどね」
俺、いまめっちゃ不機嫌………今の俺は“あしゃら”を超える自信があるぜ?
俺が言ったとおりに一時間目の予鈴が鳴り出し、教室の生徒たちはそれぞれがそれぞれ、次の時間の授業の準備をし始める。あるものはロッカーに、またあるものは席について日々の日常を続ける作業となる。
「白瀬、ワイバーンって知ってるかい?」
「ワイバーン?龍っぽいけど龍じゃないとか言われてる奴だろ?」
「…………ま、君の中でのそれらの定義がなんだっていいんだけどね………この街にもそんなワイバーンの話があるのさ。教えてあげようか?」
「いや、知ってるから遠慮するぜ?ほかに何か面白い話しを知ってるのなら教えて欲しいがな………おもに龍関係とかな……暇があったら調べて欲しいぐらいだ」
「そうかい?君が僕に頼みごとをするなんて珍しいね」
別に頼みごとじゃなくてこれは地獄に行くための片道切符だとおもって欲しい。