黒田の章 その三
晶「なんか本編と関係ないことしてると思っているそこのあなた!」ネコ「違うのか?これって浮気だろ?」晶「全然!これは違います!」ネコ「とりあえず、評価よりも感想が欲しい今日この頃です」
二十一、
その晩、俺は夕食をいただきながら
「とりあえず、おれのバイト代を決めるのは奈津美ちゃんが採ってくる補習のテストで」と言っておいた。
「さ、ここが君にあてがわれた部屋だよ」
「ああ、隣ね…………」
用意された部屋は奈津美ちゃんの部屋の隣だった。
「だけど、まぁ…………こちらの意見としては夜通しで勉強しないといけないってレベルだからね………ああ、あの部屋防音性だけは大丈夫だから」「ちょっと待ってくれ」
「なんだい?」
去っていこうとした黒田を引き止めて尋ねる。
「…………お前の妹………奈津美ちゃんのほうじゃなくて夏華ちゃんのほうだが…………未だに行方不明なのか?」
「…………奈津美に聞いたのかい?まぁ、別に隠してるってわけじゃないからいいんだけど…………そうだよ、今じゃ行方不明じゃなくて戸籍上でも、この家の中でも死んでいるってことになってるよ。奈津美はそうは言わないけどね」
俺は
「いや、あの鏡に彼女が映ってる」といおうとして奈津美ちゃんとの約束を思い出す。
「絶対に…………絶対に晶さんはお姉さまが見えるなどと他人に言わないで下さい。言ってしまえば私と同じ扱いを受けてしまいますから」
「………かわいそうに、双子だったから鏡に映った自分を夏華だと思い込んでしまったんだろうね」
俺だった鏡にあんなものが映っていたら卒倒しそうだ。
「…………ま、そうだな……じゃ、俺は勉強教えてくるから」
俺は鞄を掴んで奈津美ちゃんの部屋に向かったのだった。
――――
「奈津美ちゃん、夏華ちゃんが行方不明になったときの出来事を教えてくれないか?」
俺は学習道具をそっちのけで奈津美ちゃんに尋ねる。どうせ鏡の中にいる夏華ちゃんのほうは日本語がしゃべれんだろうからな。
「……………あれは小学校に上がってすぐだったの……」
静かにしゃべりだした奈津美ちゃんの涼しい声を俺は聞き始めた。
「…………この町の山のほうに廃工場があるのは知っているでしょう?私たち二人で探検に行ったのね、そのときお父様に友達に遊びに行くって伝えたんだけど…………それで、二人で警備員さんに見つからないように一人が石を投げて囮になってもうひとりが中に入って窓の鍵を開けるっていう役割だったんだけど…………私が囮でお姉さまが鍵を開ける役。私のほうが足が速かったから…………私が警備員さんをうまくひきつけていたんだけど、裏側の窓は開かなかったの。それで、きっと私をおいて帰ったんだわっておもって家に向かったんだけど…………お姉さまはいなかったの…………その後は大騒ぎ。私は廃工場のことを伝えたわ。そしたら急いで警察とかその場にいた警備員が中を探したんだけど見つけることはおろか、誰かが中に入ったような足跡はなかった。だって、誰も立ち入っていないことを示すように埃が床にはあったもの………その後は無意味な山狩りが行われたわ…………父親として役に立たないとお母様はおもったのかその後に別居しちゃったの。」
「はぁ、なるほど…………」
しかしまぁ、意外なことはあの廃工場が出てきたことだろう。けど、冷静に考えてみればそれは必然的に登場する舞台だったのかもしれないなぁ……………
「……………夏華ちゃん、記憶あるか?」
首を振る。
「家族の記憶はあるんだろ?」
頷く。
「…………とりあえず、今日はもう寝たほうがいいだろう?明日からずっと奈津美ちゃんは補習テストがあるんだからな?」
「うん、わかった」
おお、実に素直だ………だが、どうやら自分の姉のほうが気になるらしい。彼女はずっと夏華ちゃんに視線を送っていた。
「きちんと俺が夏華ちゃんを見てるから」
「本当?」
「ああ、本当だ…………なんなら約束してもいいぞ?」
そういって小指を差し出す。
「ゆびきりげんまんだ」
「うん!」
―――
言われた手前、俺は夏華ちゃんを見ることとなった。近くのベッドでは奈津美ちゃんが静かに眠っている。
「………相互監視下に陥ってるな………」
俺がちょっとでも奈津美ちゃんに近づこうとすると鏡に映る夏華ちゃんは威嚇してくる。ふ、安心してくれ………俺は寝顔を見たいだけだからな。
「それより、夏華ちゃん…………一体全体どうなったら人間がこんな姿になるんだろうなぁ?」
夏華ちゃんは首を傾げるぐらいしか応えようがないようだった
「ふぁ〜さすがに眠くなってきたな…………ちょっと休憩」
俺は鏡に映っている夏華ちゃんの足のところの鏡にもたれようとしたのだが…………
「え?」
壁があるとおもったそこには何もなく、俺はそのまま鏡側に倒れこんで…………
「?」
なにやらやわらかいものが後頭部にあたった。
「あれ?」
そして、何故か目の前にはさかさまに映る奈津美ちゃんの姿があった。
「あれ?」
「さっさとどきなさいよ!」
奈津美ちゃんは立ち上がって俺は頭をぶつけた。
「あいたたた…………いつの間におきたんだ、奈津美ちゃん?」
「何いってるの?それより、あんた………なんでここにいるのよ?」
「はぁ?」
何故か、もたれたはずの鏡が目の前にあり…………鏡に映るのは眠っている奈津美ちゃんの姿だった。
「あれ?これは一体?うぐぅ!!」
俺はいきなり胸倉を掴まれた。
「どうやってはいってきたの!教えてよ!」
「あ、あせるな………てか、俺に理解できん……」
離してもらって俺はため息をついた。
「なんか知らんがこっちの鏡の世界に来たんだな〜…………妹さんはぺたんこなのにあんたは意外とあるんだな〜鏡じゃたくましい胸のワイバーンだったがこっちでもすごいなんてそうぞう出来なかったぜ?こちらの世界じゃあんたは普通に人間の姿をしているんだな?」
俺がそういうと頭を叩かれた。
「違うわよ!あんたが来たらこの姿にいきなりなったの!」
「人の頭を叩くな。脳みそが出て減っちまうだろ…………この部屋、全部反対なんだな」
部屋の中は鏡に映っている奈津美ちゃんの部屋とは反対だった。
「そんなことより、ちょっと試したいことがあるんだが?」
「何を?」
「あっちの世界に俺が戻れるかってこと」
俺はもとの世界に戻れるかどうか試しに鏡に手を触れようとしたところ………
「まってよ!私を一人にしないで!」
その声は悲痛に聞こえ、俺は
「悪かった、どこにも行かないからな…………悪いが、覚えてる限りで昔のことを教えてくれ」と言ってその場に腰を下ろしたのだった。