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黒田の章 その一

晶「ふぅ、酷い目にあった………」ネコ「おお、少年……どこに行ってたんだ?」晶「トイレに行ってたら三人に出られないように監禁されてた」ネコ「それはまた…………」晶「さて、今回から新たな章となってあの三人はしばらくのあいだおさらばです。いよいよ話も終わりに近づいて………」ネコ「そうなのか?」晶「まぁ、更新するたびに最終話に近づくのはすべての小説で言えることだからな」ネコ「そうだな、そんなことよりこれからどうなるのか………一番知りたいことは………」晶「なんだ?」ネコ「私の出番があるかどうかだな」晶「さぁな?」

十九、

「じゃ、晶様……………行ってきますね?」

 藍色のワンピースに身を包んでリュックを背負っている藍は玄関先で俺にそう告げる。

「ああ、楽しんでこいよ」

 藍はそのまま洋子さんが待っている車に乗り込み、次に耒が部屋から飛び出してきた。

「晶、お土産心待ちにしておいてね」

「そうだな、まぁ、怪我のないように帰って来いよ」

 返事をせずに

「あたりまえじゃない」と言いたげの顔で車に乗り込む。

「じゃ、晶君…………言ってくるから、私がいなくなっても悲観して紐無しバンジーなんてしちゃ駄目よ?」

 後ろから抱きしめるようにして凪さんが呟く。

「しませんよ!!早くしないと遅れますよ!」

 俺を放すと彼女は右手を上げて車に颯爽と乗り込み………車は猛スピードで去っていった。

「さて、俺もバイトに行きますかね〜」

 俺は学生服に着替えるべく、部屋に戻ったのだった。

――――

「なぁ、白瀬…………」

「何だ?どうした?」

 浮かない表情をして俺のところに黒田がやってきたのは一週間ぐらい前だっただろうか?

 こいつにしては珍しいくらい表情で俺にすがりたがっていたようだった。

「…………一生のお願いがあるんだ」

 人には恩着せが増しことをさせる黒田だが、その正体はけちであり、以前はこのように述べていた。

「人に恩を着せるぐらいなら自滅したほうがまだましだね」

と。

 つまり、これは何かの緊急事態なのだろう。

「なんだ?内容は?」

「…………僕の妹の家庭教師をして欲しいんだ!」

 頼むといわんばかりに頭を下げてくる。何事かと他の連中が俺たちをじろじろと眺めているが、つるんでいる二人だったので

「ああ、またあの二人が馬鹿なことしてるな」とおもわれているのだろう…………普段の黒田の言動が俺のかっこいいイメージを壊しているのであって、最近の行いは若干俺のせいだが、とりあえず問題児扱いされるのは黒田の制である。

「妹だぁ?お前、妹が欲しいって言ってたじゃないか?」

「それは義妹のほうだ!勘違いするな!」

「耒に『僕の義妹にならないか?』っていってたくせしてよぉ」

 困った顔をして俺の背中に隠れた耒が懐かしいな。一芝居うって

「あ〜黒田、残念ながら俺が耒の兄貴分だからあきらめてくれ」って言ったらクラス中の連中が引いていたのが記憶に新しいなぁ。

「っと、話しがずれた…………妹がいたのは事実なんだけど………両親が別居してて僕が父側、妹が母親側にいてね…………」

「…………悪いな、なんか、茶化したみたいで」

 罪悪感にさいなまされながら俺はそんなことを口にした。

「いいよ………で、僕の妹の学力が低迷気味だったそうなんだ。ああ、今僕らのいっこしたの学年にいてね、今学期からこの高校に入ってきているんだ。でも、そろそろがんばって成績を浮上しないと残念ながら来年また中学気分が抜け切れていない哀れな新高校生と一緒になってしまうんだよ!頼む!だから教えてやってくれ!この通り!両親もちゃんと一家庭教師として君を雇いたいといっていたんだよ!」

 何故、そこまで期待されてるかわからないのだが…………

「まぁ、教えるのはいいんだが…………成績じゃお前のほうがはるか上だろ?」

 はっきり言って俺の成績は徐々に下がりつつある。藍は平均より上で、耒に至ってはトップだ。

「藍とか耒に頼んだほうがいいんじゃないのか?先生の凪さんのほうがいいとも俺はおもうんだが?」

 人に教えるにはしっかりと自分で理解していなくてはならないと…………誰が言っていた気がする。それが国語の教師だったか数学のあの先生だったかは理解できないが…………俺がそう告げると黒田も頷いた。

「ああ、確か体育の鳴竹が言ってたね」

 あれ?あんまり勉強関係ない人が言ってるな…………

「とりあえず、頼むよ!今度の休みの間だけでいいから…………これが僕の家までの地図だから!」

 それじゃあ…………といわんばかりに奴は去っていった。

「…………困ったもんだなぁ」

 黒田には色々とお世話になっているので無下には拒否できない。まぁ、一年前に習ったことなのでノートを探してそれを復習して………どういったことを教えなければいけないかなどをまとめたりしなくてはいけないようだ。

「明日からが地獄だな」

 次の日から俺は準備に取り掛かるために凪さんに教え方を習ったり、数学の先生に先生独自の説き方などを教えてもらったりと……………

「白瀬は先生好きになった」と噂されたりもしたのだが(勿論、いった連中には仕返しを忘れなかった)何とかこの日を迎えられたことを前向きに考えよう。

――――


ピンポーン♪


 耳障りの良い音が鳴り、俺は一つの扉の前に立たされていた。

「…………?」

 比較的大き目の家を眺めながらそんなことを考えていると…………

「ああ、悪い悪い………約束どおり来てくれたんだね?」

 何故か後ろから黒田が現れた。

「あれ?何で後ろから出てくるんだ?」

 しかも、気がつけば足元には穴が開いていた。

「さ、ここからはいってくれたまえ」

「?」

 どうなってるか理解できないが、俺はとりあえずその穴に続いてはいることにしたのだった。

「なぁ、何でこんな穴がここにあるんだ?来るときはなかったぞ?」

「緊張していたからだとおもうね………とりあえず、玄関には君を亡き者にしようと考えている第三者の意図が感じられるんだ。あの時君が痺れを切らして扉を開けたらお陀仏だったよ」

 どういう家だ、それは?俺が家にやってくるのがそんなにいやだとおもう奴がいるのか?

「こうして穴を掘って君を助けに行かなくてはいけない事情だったものでね…………穴は石で隠しておいたんだ。実にうまい隠し方だったろう………さて、ついた」

 既に家の中に入っている状態であり、今でも靴を履いたままだった。俺たち二人が顔を出した場所は台所だった。さらに言うなら近くに黒田のお母さんとおもわれる人物が包丁を持って立っていた。

「あら、董………そちらが白瀬晶君?」

「うん、そうだよ」

「いつも息子がお世話になってます………どうか、娘をよろしくお願いします」

「え、いや…………」

 こんな風に頭を下げられたことなんてないから俺は戸惑ってしまった。

「…………じゃ、母さん、妹の部屋に連れて行くよ」

「ええ、がんばってね白瀬君」

「はぁ、がんばります」

 母親の瞳が

「この人はいつまで耐えられるかしら?」と言っているような気がした。


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