突風の章 その六
藍「ネコさん、もう少しで物語も殺伐とした話に変わりますね?」ネコ「いや、変わらないだろう?てか、何で殺伐とした雰囲気に変わるんだ?」藍「ほら、革命を起こすんですよ」ネコ「誰がだ?」藍「晶様がですよ」ネコ「いや、作者が革命の話しなど………かくめい!」藍「………なんで江戸っ子口調なんですか?」ネコ「く、伝わってない………」
十八、
「晶君、次はどういったものを買えばいいのかな?」
「そうですね〜………りんごですかね〜」
俺はメモをみながら凪さんに応える。
「………それより、学校の仕事終わってないって言いませんでした?」
俺が職員室で凪さんに起こられている間、他の先生は『色野先生も大変ですね、まだ書類が残っているんでしょう?』と呟いていたのを思い出した。
「別に仕事を捨ててまで買い物に付き合ってくれなくても良かったのに…………」
「何言ってるの、晶君?ここにきちんとやりかけの書類は持ってきてるわ」
そういって買い物籠の隣に持っている自前のバッグには凪さんの机においてあった書類がきちんと収まっていた。
「………でも、大変でしょう?」
「そう、大変だけど………」
そこで微笑んで俺のほうを見る。
「助手もきちんといるから大丈夫。明日からのちょっとした休みの前に手段をとっておかないとね」
「成る程…………」
明日から藍、耒、凪さんは旅行に行くようで、俺が入っていないのはバイトが入っているからである。バイトと言っても、友人の…………正確に言うと黒田…………家族に勉強を教えるといったものなのだが。
「そういえば、りんごとかごぼうとか魚だとか………なんだか統一性がない買い物ですよね?聞いた話じゃ今日の夕食になるって藍が言ってましたけど?」
「そうねぇ、確かに統一性がないけど……………」
凪さんはあごに手を当てて考えているような仕草をして、成る程と呟いてから俺に言う。
「ああ、料理をしている人たちはある程度の域に達すると創作料理に手を伸ばすようになるんじゃないのかしら?」
さて、りんごやごぼう、魚が混じった料理…………俺の知っている中には入っていないので間違いなく藍の創作料理になるだろうが…………
「もしかしたら一品じゃないかもしれませんよ?」
うちの家の食事係は日によって替わる。俺がしたり(月曜日)、俺と藍が一緒にしたり、(火曜日)藍が一人でやったり、(水曜日)洋子さんと藍が一緒にやったり、(木曜日)耒がこげを作ったり、(金曜日)凪さんが役に立たなかったり、(土曜日)暇な人がやったり(日曜日)…………と、こんな感じだ。
基本的に俺は好き嫌いがないのだが………強いてあげるなら耒が作る料理と凪さんが心をこめすぎて作った料理は嫌いだ。
「けど、まぁ…………料理が得意な藍が失敗するってことはないでしょうけど………一番料理もうまいですし…………」
今じゃ料理が趣味となっている人間の腕前を教えるまでもあるまい。彼女は間違いなくあの家の中で一番の実力者を持っている。客観的に言うなら次点で洋子さん、俺…………で、それから果てしない間を開けて耒と凪さんがどんぐりの背比べをしているというところだろう。
さて、このようなことを考えていると凪さんはちょっと眉間にしわを寄せて俺を睨んだ気がした。
「む、私が料理上手じゃないっておもってない?」
「え?いや……………」
事実を疲れたもんだから俺は押し黙るしかなかった。急いで言い訳、もしくは話を変えるかのどちらかにもっていかなくてはいけない。凪さんは子どもっぽいところがあるのでこういう話になるとむくれるのだ。嘘をつくのはどうかとおもうのだが(そもそも、この人には嘘が通用しない)事実を言うと俺に台風が向かってくるだろう。
「……………心がこもっているのは間違いなく凪さんだと思いますよ」
「そう、それはよかった♪」
それ以降、凪さんはご機嫌となり、遠慮したりしたのだが俺の腕を抱きしめるような形で帰宅したのだった。
後に、これがちょっと問題となった。
――――
「あ〜見た目と違っておいしいんだな〜」
本当に見た目がぐちゃぐちゃの料理だったのだが味は結構おいしくておなかいっぱいになった。腹いっぱいになった俺はソファーに座ってボーっとしている。
「本当ねぇ〜」
俺の隣で耒もそう呟く。耒もはじめは
「ちょ、ちょっと待ってよ!何これ!?これを、これを食べろって言うの!?これなら凪さんの料理を食べたほうが………」ととちくるったことを言っていた。
「藍様様だな」
「ふふっ、お口にあって何よりですよ晶様」
そういって俺の近くに食器洗いを終えた藍がやってくる。
「ところで、何でこんなにおいしかったんだろうな?」
ふとした疑問…………人間は知りたいという気持ちがなければ早死にすると国語の先生が言っていた。だが、例外も存在するらしいとおもったのはこの後だった。
「それはですね、心をこめて作っているからですよ」
「ああ、なるほどねぇ……………」
心をこめれば何でもおいしくなるってか?
「まぁ、晶君は私の料理が一番心がこもっているって言ってたけどね」
凪さんも俺たちのところにやってきて俺ににこりと笑いかける。
「へぇ、晶…………あんなに食べたくせしてあの凪さんの料理のほうがおいしいっておもってるの?」
耒が
「へ、八方美人は滅べばいいわ」って顔でこちらを見てくる。
「え、あ…………」
「…………晶様、本当ですか?」
藍も
「侮辱です」といった表情を見せる。
「りょ、両方同じくらいおいしいっておもってるんだが…………」
「あら、それならあたしは?」
耒がニヤニヤしながら俺に尋ねてくる。まぁ、俺がこういった手前は…………ちゃんと答えないとこまるだろうな。
「まずい、どぶに捨てると地球環境悪化に拍車をかけるだけだろうな」
「言ったわね!」
あっというまに俺の胸倉を掴んで犬歯をむき出しにする耒を凪さんが止める。
「まぁまぁ、耒ちゃんも私のようにきちんと心をこめて作れば評価してくれるとおもうわ。そうすれば私のようにおいしい料理を作れるとおもうから」
あなたが言わないで欲しい
「え、え〜まぁ…………がんばってみようかなぁ」
耒は俺の胸倉を離してまた隣に静かに座る。
「……………いい子いい子、私は布団に入るときも、食事をするときも、学校で晶君を呼び出していぢわるするときも晶君のことしか考えてないわ」
「意地悪?………晶様、いつそんなことされたんですか?」
心なしか、藍の表情が恐く見えた。
「え、え〜と、さぁ?」
「………だから、私のほうが心がこもってるのは間違いないわ♪」
「む、それなら私は常に晶様のことしか頭にありません!だから私のほうの料理のほうがおいしいですよ!」」
藍もどことなく子どもっぽいところがあるからなぁ〜ま、いずれ収まるだろう。
「ふぁ〜眠いな〜…………耒、もう寝ようぜ?俺、疲れた」
「そうね………じゃ、先に晶と寝てるから………二人とも区切りがいいところでやめないと洋子さんに怒られるよ」
耒はそういって俺と共に寝室に行こうとしたのだが、体を二人に掴まれてどこかに連れて行かれたのであった。俺はそんな三人を待ってやれるほど心に余裕がなかったので一人で寝室へと向かって明日のために眠ったのだった。