突風の章 その四
藍「さて、これからどうなるんでしょうか!」ネコ「待て、少年はどうした?」藍「さぁ?知りませんが?」
十六、
「ん〜………久しぶりによく寝たなぁ〜」
いつもだったらもんもんとした夢を見て叫んでおきるのだが………今日はとてもすがすがしい気分だった。まだ太陽が昇ってきていないので部屋の中は暗いが問題はないだろう。
「やっぱり、他の部屋に移してもらって正解だったな」
俺は一人呟いて立ち上がる。
時間は昨日の夜にさかのぼる………
――――
「洋子様!さすがに四人で一部屋はきつすぎます!」
物凄く血相を変えて夕食時に洋子さんにそんなことを藍が呟く。
「一体どうしたの?そんな恐い顔しちゃって」
「別にどうもしてませんが………晶様が窮屈そうな顔をして寝るのがつらいと涙ながらに学校で語っていたのを聞いていたんです!」
拳を握り締めてそんなことを言っており、耒はボーっとして俺を見てるし、凪さんはお笑いを見ながら食事をしている。
「え、お、俺そんなこと言ってないし………」
俺がそういうと洋子さんは
「どうなの?」とばかりに藍のほうを見る。
「証拠ならあります!!」
携帯を取り出してスイッチを入れる。
『知らせの友人黒田がここに嘘偽りのない言葉だと宣言します!右に転がれば耒ちゃんに襲い掛かり、左に転がれば凪先生の下着の色を確認してしまうと白瀬が言ってました!』
「誤解です」
「………晶、まだ何も言ってないわよ」
「誤解です」
「………」
「ごか………ぐはっ!!」
「………ちょっと静かにしてなさい!………で、藍ちゃんは何もされてないのね?」
「されてません………」
そういって何故か暗そうに言う藍。
「そう、それなら………晶、あんたの寝る場所は今度から隣部屋ね………って、それじゃあんまり意味がないわね………まぁ、どこに行っても状況が状況だからどうしようもないけど………そうね、向かい側の部屋に寝なさい」
「………わかりました」
――
こうして、俺は一人で寝ることになったのだ。わかっていただけたであろうか?
「いやぁ………やっぱり初めから一人で………」
いきなり俺の布団がもぞもぞと動き出して………良く知った声がしてきた。
「ふぁ〜………あ、おはようございます、晶様…………」
「………ああ、おはよう」
「あ、いけない!私ったらまたおトイレいって間違えてこちらの部屋に入ってしまったようですね♪」
いけませんねといって藍は頭をこつんと叩く…………余談だが、以前にもこういうことがあって行方不明となってしまったのかと俺はあわてて探したことが一度だけあった。
「………とりあえず、おきるとするか………」
俺は布団から出るために手を支えとしようとしたのだが………
「ん………?」
「………晶?」
誰かの何かに当たった。
「………ら、耒!?何でお前まで!?」
「私もいますよ」
「凪さんまで!?一体全体………」
―――――
「これは一体全体なんなんだぁ〜〜〜〜〜…………はっ!?夢か!」
いつものように俺は目を覚まし、やれやれと呟くしかなかった。隣には耒がおり、その反対側には凪さんがいる。いつもの配置だ。うん、どこも問題はない………そうおもって立ち上がろうとしたのだが………
がっ………
「ん?」
誰かの手が俺の手を思い切り掴んでいる。いや、いまさら気がつくのも遅いのだが………
「藍の手か………」
「ん〜晶様、そちらは凪さんの布団です………行っては………あ、そっちは耒さん………」
耒側から手を伸ばしており、やれやれと俺はまた呟いてもう片方の手でおきようとしたのだが………
「晶君〜………私、たくましい人好きなの〜…………」
「凪さん!?」
寝ぼけているのだろうが………その目は半分だけ開かれていて俺の手を……その、抱きしめている。
「マラソンなんて行かないでもっと寝ましょう………」
「ぐ………すげぇ力だ」
凪さんは万力の威力を発揮して俺を布団へと引きずり込もうとする。
「もしもだ………もしもここで布団の中に引きずり込まれてしまったら………」
寝ぼけている凪さんは夢と現実とを理解していない。つまり、彼女の夢の中で俺がおもちゃのような何でも言うことを聞く存在だとするならば………
「き、危険だ!!」
急いで離れようとするが、そこには藍がいる。
「そっちは耒さんです〜」
そっちは耒さんです〜………なんてどうでもいい!!俺をここから助け出してくれ!お願いだ!誰か………誰か俺に希望の光を!救いの手を!
「ぐ………ここまでか………」
「………晶」
「ら、耒………助けてくれるのか………」
どうやって俺の上に馬乗りになったかは知らんが………その口元がにやけたのを見て俺は絶望という名の朝日を見た。
――――
「………白瀬、今日はなんだか鉄分が足りてないようだけどどうかしたのかい?」
非常に俺の面が面白いのだろう、黒田の奴はいつにもまして笑って嫌がった。そりゃそうだ、俺の鼻には血を止めるためのティシュが詰め込まれているのだから。
「………色々と刺激的な………いや、ちょっとレバーを食べ過ぎた。朝からフライパンをかじって鉄分とったのが間違いだったな」
「ふ〜ん、そうかい?それはまた、豪勢な食事だったねぇ〜………」
そこでやつは何かを考えて呟く。
「おいしかったかい?」
「うるさいわい!!!」
俺はそういってまったくしゃべってこないおしゃべり娘と何故かこのクラスに平然とした面でいる、色白と評判ではあるが今は何故か顔が真っ赤の藍とともに席についたのだった。
「藍さん、どうかしたのかい?」
「い、いえ………その、な、なんでもありません」
「ふぅ〜ん………耒さん、なんだか今日は珍しくしゃべらないけど………?」
「え、ちょ、ちょっと考え事してるから」
「へぇ、考え事ねぇ〜………で、白瀬はなんで色即是空なんてノートに書いているんだい?で、なんでその次にあれは夢だ!を何行も書いているんだい?」
「漢字の勉強だ」
「ふーん?」
人間、夢を見ることは多々ある。小さい夢でいちいち気にする必要はないだろう。