突風の章 その三
晶「……………」ネコ「なんだか浮かない顔だな、少年」晶「もとからこんな顔だ」ネコ「じゃ、元気がないな?一体どうしたんだ?」晶「………ま、色々とあるんだよ」ネコ「そうか?」晶「気にしないでくれ」ネコ「わかった、そうすることにしよう」
十五、
「一体全体、その右腕はどうしたんだい?」
黒田が俺の右腕につけられているギブスにちょっかいを出しながら尋ねてくる。
「こけた」
「そうかい………まったく、カルシウムを日ごろから摂取しないからこんなことになるんだよ………きっとカルシウムの神様に祟られたんだろうねぇ〜」
へっ、そんな神様いるわけねぇだろ?
「あいにく、俺は左手でもある程度は出来る」
俺はそういって席につく。
「おいおい、そんな無理はしないほうがいいんじゃないのかい?」
「ふん………大丈夫だ。日常生活ならば支障は絶対にきたさんからな」
「晶、本当に大丈夫なの?」
耒もそんな風に見てくるが、大丈夫なもんは大丈夫だろう。今朝の朝、藍に耒に………そして…………
きーんこーんかーんこーん………
「みんなおはよう………今日は非常勤講師が一人このクラスの副担任として入ったことを伝えよう」
「非常勤講師?」
俺は首をかしげ、黒田のほうを見ても
「情報不足だね」と呟いてこちらのほうに視線を送ってくる。
「一体全体、俺が休んでいる間に何かあったのか?」
「さ、さぁ?あたしもきいてないけど………」
耒は眼球をハワイまで旅行させに行ったのか、耒の瞳はひっきりなしに動いていた。
「………じゃ、はいってきてください………色野凪先生」
「は〜い♪」
そういってはいってきたのは…………
「な、凪さん!?」
「どうも〜晶君♪」
そういって教壇に姿を現したのはスーツ姿の凪さんだった。
「色野凪で〜す♪皆さんこれからよろしくお願いしますね〜………特に晶君」
クラス中の視線がいたい。
「…………ええと、凪さん?」
「晶君〜私は先生ですよ〜」
「………この際どっちでもいいです。何故、ここにいるのですか?」
「それはですね〜私は皆さんに国語を教えに来たんですよ」
そういってにこりと微笑むその凪さんの笑顔が悪魔の笑顔に見えたのは俺の気のせいだろうか?
「あがが………耒、お前………このこと知ってたろ?」
「…………ぷいっ」
耒はあらぬ方向に視線を持っていった。どうやら、こいつは確信犯という奴のようだ。
「じゃ、早速一時間目は国語だからな………お前ら、ちゃんと先生の言うことを聞けよ………特に白瀬」
「………うぐ、はい………」
担任の先生にそういわれてしまっては逃げも隠れも出来ないだろう。
――――
「………じゃ、ここでなんでこの人物がこうおもったのか答えてもらおうかな〜………晶君、お答え下さい」
「………先生、これで質問回数五回目ですよ?まだ始まって二十分も立っていませんが、このハイスピードで当てられたのは生まれてはじめてです」
俺はそういってしょうがなく立ち上がった。
「はい、じゃ答えてね♪」
「………え〜………雄太はこの犬がとても哀れにおもって自分と同じ境遇だとおもったからですよね?」
「………正解ですね〜」
「「「おお〜………」」」
クラスメートたちはそんな声を出してくれるが、俺にとっては恥ずかしいだけだ。
「次はもっと難しい問題を出すことにしましょう」
そういって先生は黒板に文字をどんどん書いていく。
「………はぁ、俺………なんでこんなことになってんだ?」
今までの俺の行動がどこか間違っていた………ということがあるのだろうか?あるのだったら俺にこっそりと教えて欲しい。
「あたしに聞かないでよ………」
助けを求めた耒は俺にとってこんな態度をとってくるし、まさに四面楚歌かとおもったのだが、ここで下がったらこれからずっと俺にあたりかねない。
「耒、そういわないで助けてくれよ〜」
「………しょうがないわね………」
少々考え込んでいたようなのだが耒は仕方ないとばかりに唇をなめてなにやら考え始めた。
「………うん、この問題なら絶対に晶君でも解けないでしょうね〜………問題です、今日の私の下着は何色でしょう〜♪」
今だとおもったのだろう………誰かが立ち上がった。
「「先生!その問題は今はまったく関係ないとおもいます!!」
「藍!?」
耒が立ち上がってそう先生に述べてくれたのだが、気がつけば、俺の後ろの席には藍が座っていたのだった。
「晶様、あのような質問には答えなくていいんですよ」
「いや、そりゃ答えないけどよ………」
「おやおや?白瀬はもしかして先生の下着の色を知っているのか?」
黒田がそんなことをほざき始める。
「しらねぇ!」
「え〜………だって、今日私の布団から晶君のにおいがしてたもん!」
「!?」
え、え〜と…………確かにはいっちゃってましたが、あれは事故ですよ〜………といおうとしてここで言ってしまえば俺は墓穴を掘ることになるだろうと思って黙っておいた。
「………晶、その顔何?」
ここで食いついてきたのが耒だった。耒は俺の顔を覗き込んで何かを確認しようとしている。
「さぁ?この顔は生まれつきの顔だからな………」
「それならあたしの顔を見て話しなさいよ」
俺が見るのは雲が鮮やかなお空だけだ。太陽は万物に平等にとは言わないがそこそこ平等に日光を与えてくださってらっしゃる。
「晶様、もしかして………」
「こほん、藍………はっきり言うが、なんらやましいことなんてないんだぞ?ただ、転がっていったらはじめは耒の布団に入って耒を押しつぶした気がしないでもないが………」
「つまり、君は耒ちゃんに覆いかぶさったということだね?」
「え、そ、そうだったの?晶のえっち」
耒、お前がいまさら照れても可愛くもなんともないぞ。
「黒田、お前は話をややこしくするな………それで、目が覚めてあわてて転がって移動すると次にたまたま……凪さんの布団の中に入ってってそこで転がるときに体力を使いすぎてそのまま力果てたというわけだ」
「つまり、君は凪さんの布団で果てたんだね?」
「………黒田、その言い方は誤解を招くからやめろ………そして藍、お前はなんだか当たったらびしょぬれじゃすみそうもない水の弾なんて放棄してさっさと自分のクラスにおとなしく戻れ………ちょ、ちょっと!危ない!マジ危ない!このままじゃし、死ぬ!?」
俺はそういって説得モードに入ったのだが………いかんせん、経験値が足りなかったようで………倒れたのだった。