突風の章 その一
晶「………嬉しい………てか、そういえばまだ殆ど頭のほうじゃん!ここで終わっちゃったらわからずじまいで終わっちまうよ!」ネコ「相変わらずお馬鹿だな」晶「………というわけで、更新スピードはかなり遅くなってしまうかもしれませんが………とりあえず翼龍についていけるところまで、はてなが消え去るまで続けたいとおもいます」ネコ「お〜がんばれ〜」晶「最後に、kimiさんにタナチュウさん………そしてこの小説、絶対にコメディーじゃねぇだろ!っておもってる方………ありがとうございます!」ネコ「うわ!しつこいぞ、少年!」
十三、
廃工場内部は非常に埃がひどく、長年誰もここに立ち入ったことが無いことがすぐにわかった。
「………廃棄されたのが何十年前だって爺さんは言ってたかな………」
うちの爺さんはこの工場で働いていたそうなのだが…………それが五十年以上前だそうなので(働いていたのは十六、七ぐらいだったそうだ)結構立つのだろう。子どもたちが来るにはちょっと危ないし、来たとしても普段は警備員が立っていたりするのではいろうにもはいれない…………はずなのだが、今日に限って警備員はいなかった。
警備員がいるということはまだ、この工場には何らかの利用価値があるのか、この工場を取り潰して別の何かを建てるのかのどちらかだろう。
「さぁて、誰が………でるかな?」
こんな怪しいところに来たのだ………ただ、猫の言葉だけを信じて………
「お、ようやく来たか?」
「って、爺さんか…………」
そこにいたのはうちの爺さんこと、白瀬宏太である。爺さんは大の旅行好き………というより、冒険好きで、地元住民も行きたがらないような場所に行ったりするのが大好きなのである。
「帰ってきたんなら連絡ぐらいしてくれよ」
「いましておるだろう?ああ、お土産はちょっとしくじって失敗したからすまんのう…………」
そんな申し訳なさそうに言わなくてもらって結構だ。爺さんが持ってくるものは銃刀法違反になるようなものだったり、白い粉だったり、図鑑にも載っていないような謎の生命体だったりするからな…………すべて遠慮している。
「なぁ、爺さん………爺さんはあの白猫と知り合いなのか?」
「晶よ………わしは今ようやく日本に帰ってきたところで疲れているのだ………とはさすがにいえんのう。わしがここに戻ってきたのは少々昔話をするためだけ………というわけでもないが、主にその話しをするために帰ってきたのじゃ」
しっかしまぁ、こんな奇遇もあるものなのだろうか?
「爺さんが………白猫と関係しているのか?」
俺が質問すると爺さんは首を横に振る。
「いいや、わしが白猫について知ったのは昨日の今日じゃ。日本からの国際電話が来たのでお前からだろうとおもっていたのじゃが…………どうも、以前研究をしていたところに勤めていた人物のなれのはてじゃったようじゃ………その猫はお前のことを知っており、わしが勤めていたこの工場のことをお前に話してほしいといっておったのじゃ」
「ふ〜ん…………でもそれなら別に猫が俺にいってくれればいいじゃないか?何だって爺さんが俺にわざわざ話すためだけに外国からいったん帰国したんだ?」
「それはの〜」
「それは?」
「猫がいったんこちらに戻ってきて自分も海外に連れて行けといったのじゃ。高いところは駄目だから優雅な船旅がいいと申してもおった。猫は既に港でわしを待っておる」
沈んでしまえ。
「………ま、それはいいとして…………この工場、何なんだ?」
俺は埃のたまり場を指差す。
「ここか?ここは表向きは製鉄工場じゃが…………裏のほうじゃ………」
爺さんは指をぱちんと鳴らすと近くにあった壁が動き始める。
「…………な、隠し階段!?」
「そうじゃ………しかしまぁ………驚き方が普通すぎじゃな。け、こんなのおどろかねぇよっておもっておったが………」
そりゃ、誰だって学校の絵が二つに分けられるとはおもわないだろうよ。これがほんとの学校の階段か?
「さ、下に行こうかのう?………晶よ、人は常に戦えるというわけではないし、人の命はもろくてはかないもの………ここから先は何があっても所詮はお互いの痛みなどわからない他人じゃ」
「な、なんだよ………わかってるよ。小さい頃から毎日毎日言われてたことだから」
爺さんと俺との間に絆などない。
あるものは冷たい何か。
格闘家だと自分のことを言っている爺さんは小さい頃から俺を鍛えてきた。爺さんの夢は自分を倒す格闘家を作り上げるらしく、ちょうど手元にいたのが俺だったということだ。練習中に俺が死んでも爺さんは仕方の無いことだとずっと言ってきたおかげで俺と爺さんはそういう言葉の後、とある言葉を爺さんが言うまでは他人となってしまうのである。
しかし、爺さんがそんなことを言うときは決まって面倒ごとが始まる直前であり、いまさら対応しようにも対応することは出来ないだろう。
「…………さぁて、龍が出るか虎が出るか………」
どちらにしても俺に待っているものは炭酸の抜けたコーラよりも愕然としたものなのだろう。
――――
かれこれ暗い階段を三分ほど下っているだろうか?途中、扉が見えたりしたのだが爺さんはそこに入ろうともせずに呟くだけだった。
「そこは違う………」
まるでお化けのように呟いて爺さんは下へと向かっていく。薄暗くてものをはっきりとは確認することは出来ないのだが、下に行くたびに………いや、正確に言うなら扉を一つずつとばしていくうちに俺を大人数が見ている。
「……………」
ぞくぞくする感覚が俺をずっと襲っていたのだが…………
がぁぁぁぁぁっぁぁぁ!!!
「!?」
「お目覚めのようじゃな」
そんな雄たけびが聞こえた瞬間に俺をじっと見ていた人物?たちはその姿を消した。消したというより霧消してしまったといっていいだろうか?
「晶よ…………」
「なんだ、爺さん?」
「ものを作るには基本が大事だ。基本は応用の踏み台となる運命…………基本はそのうち邪魔となり、頭の隅の牢獄に閉じ込められてしまうものだ」
「…………さぁな、そうとも限らないと俺はおもうけどな………で、それが何なんだ?」
俺はそういって先を歩いていた爺さんを追い越して階段を駆け下りていく。既に目指すべき扉の隙間からは光が漏れ、それが俺の足元を照らしてくれている。
「所詮爺のたわごと………気にするな」
既に扉の前までやってきていた俺の耳に爺さんのそんな声が聞こえてくる。
「ああ、気にしないね………爺さんはこないのか?」
「残念ながら白猫と共に世界を旅しなくてはいけない………ああ、今度はどんなお土産が欲しい?」
「そうだなぁ、できれば日本の空港に売ってる奴でいい」
「………そうか」
「それと、折り入って頼みがあるんだ………」
「何だ?老い先短いわしにできることがあるなら聞いてやろう」
「………負担が増えるかもしれないけどお土産の数、増やしておいて欲しいんだ」
爺さんは振り返ることもなくただ頷いて階段をゆっくりと上がっていった。
「じゃあな、爺さん」
俺は爺さんに聞こえないようにそう呟いたのだが………
「ああ、犯罪者になんてなるなよ、晶」
と………答えてきやがった。まったく、たいした爺さんだ………
「さて、俺がやることなんてよくわからんが………」
目の前には蛍光灯の光であふれている扉………その扉が比較的新しいもので、何度もここに人がやってきているのは先ほどの階段で理解できた。こんなじめじめしたところにコケが生えていないのはおかしい限りだ。
「………とりあえず、この扉を開けるとするか」
俺は扉に手をかけて、それを思い切り押したのだった。