雷電の章 その六
晶「え〜非常に心ぐるしいですが………」ネコ「なんだ、少年?」晶「この小説はもしかしたら次で終わるかもしれません」ネコ「それはまた、急だな。この前は第二十話までいくって言ってなかったか?」晶「………さぁ?そんな昔のこと忘れちゃった」ネコ「…………」晶「まだ早いですが、これまでありがとうございました」ネコ「お世話になったのはタナチュウさんぐらいだろうがな」晶「こらこら、そんなこと言わない!きっと心の中では皆………この小説コメディーっぽくなくね?とかおもってるかもしれないけどそんなことは口が裂けてもいえません」ネコ「まったく、おしゃべりだな、少年は………」
十二、
「ねぇ、晶〜」
「………なんだ、耒?」
雑誌を読んでいる俺のところへ耒がすまなそうにやってきた。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど………」
「………なんだよ?」
ずばりと物言う耒にしては珍しくもじもじとしている。ああ、こういう顔もかわいいな………って馬鹿か、俺は?
「あたしをね………」
「あたしを?」
「抱きしめて欲しいの」
―――――
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………い、今までいちばんまともだったな………」
言ってて自分がどんどん変な階段を駆け上がっていっているような気がしてならない…………こういうときはあれだ、崇高で美化された妄想や夢なんかじゃなくて汚らしく本物が存在しているというこの目の前の現実をただ…………見つめるのだ!!
「ん〜………あきらぁ………」
「!?」
布団の中にら、耒が入ってきてやがる!?しかも………しかも服が………はだけてる!?
「ぶふっ………」
い、いかん………いかん!!今ここで鼻血をたらすなど………本物の変態だ!ここは冷静を………大人らしいクールな……いや、COOLな俺を保たなくてはいけない。
「…………とりあえず、今日はマラソンじゃなくて散歩にしよう」
鼻血を止めるためにティッシュをつっこんで俺はその場を後にしたのだった。そして気がついたのだが………
「お、俺が耒の布団に入ってただと…………」
―――――
「ねぇ、晶………なんか今日おかしくない?」
「な、何がだ?」
本日は休日で藍と洋子さんはどこかに出かけてしまったらしい。ねぼすけさんの耒はどうやら置き去りを食らったようだ。
お昼まではそれぞれの好きなようにしていたのだがさすがに昼時は俺が耒の食事を作ってやらないといけないので手伝ってもらわないといけないのである。もっとも、手伝おうとしたところで耒は邪魔になるだけだが………
「あたしのこと避けてる気がする………この前のおやつのことまだ怒ってるの?」
「いいや………そんなことないような気がするんだが?」
朝のことを思い出しそうになるので俺はあわてて自作の料理に視線をうつす。
「ほら、目を合わせて話さないし………」
「はは………ちょっと色々とあるんだよ」
こ、これはこまったなまともに顔も見れん…………
「晶、鼻血が出てるわよ?」
「…………あ、ほんとだ」
俺の鼻から赤い液体が…………ぼたぼた出ている。鉄分を惜しまずに湯水のようにばしゃばしゃ出ている………これぞまさしく出血大サービスという奴だろう。
「ははぁさては……………」
「!?」
えっちなことを考えていたんでしょ?と聞かれるのが非常に恐かった。
「私のチョコレートを黙って食べたでしょ?」
「……………俺はたまにお前がそういう性格で本当に良かったっておもうぞ」
ティッシュをつっこんで応急処置をする。
「とりあえず、最近寝不足が続いてるんだ…………そのせいで鼻血が出てるんだっておもう」
「………じゃ、今日は一緒にお昼寝でもする?どうせ二人とも帰ってくるの夕方だろうから………」
「いや…………遠慮しとく………それよか散歩してくる」
今度は何がおきるかわからないからな…………っと、携帯に着信が…………しかし、着信相手の電話番号は見知らぬ第三者の電話番号だった。
「もしもし?」
『久しぶりだな、少年』
この声は…………
「白猫か?」
『覚えていてくれて感謝する………今日は暇かね?』
「まぁ、暇っちゃ暇だが………それよか、お前………よかったな、生きてたんだな」
あの時は正直言って自分のことで精一杯で、俺はてっきり猫が死んでしまったのだとおもっていた。
「晶、友達?」
「ああ、俺の友人からだ」
耒に説明しようかとおもったのだが………しても信じてくれないだろうとおもって説明するのはやめておいた。
『今日、少年の町の山のほうにある廃工場に来て欲しい………そこに私がいるわけではないが、そこにも面白い者がいるから』
おもしろい………者………ねぇ………
「………わかった、一人で行ったほうがいいのか?」
『一人で行ったほうが危険が少ないだろう』
「………そうか」
俺は立ち上がって耒に告げる。
「ちょっと遊んでくる………もしかしたら遅くなるかもしれないから洋子さんと藍に伝えておいてくれ」
「ん〜わかった………けど、明日の数学の予習とかしなくていいの?問題、当てられてたでしょ?」
「あ〜………確かにそうだったな」
あれからあの先生、俺に毎日問題を出すようになってしまった。周りの生徒は
「白瀬に対して先生が恨みを持っている」とおもわれているようで………まぁ、確かにそうおもわれたってしょうがないのだが………きちんと謝ったのだから大丈夫のはずだ。
「………ある程度は解いてるからなんとかなると思う………駄目だったときは耒に見せてもらうから」
「………つまりそれはあたしにその問題を解いておけっていってるのね」
げんなりした表情の耒に手を合わせておいて俺は家を出ることにした。
「じゃ、行ってくる」
「帰りに何かおやつを買ってきてね♪」
「……………ああ、買ってきてやるよ………その代わりに救急箱用意しといてくれ」
「………え?」
不思議そうな顔をした耒に背を向けて俺は自転車に飛び乗る。時間なんて決めていなかったのだがあの変に気難しい猫のことだ。きっと電話を終えた後からその面白い者を待たせているに違いない。その相手がどんな相手だろうと待たせるのはさすがに礼儀を知らないといわれてしまうだろう。
「…………風が強いな」
風が吹き、俺の隣を葉が駆け抜けていく…………その風が伝えてくれるものはなんだろうか?
自転車を逆風に向かって走らせて………俺の体力がそろそろレッドゾーンに入ろうとしたときになってようやく廃工場はその姿を俺の目の前に現してくれた。
「さぁて、何が出るだろうか?」
よりいっそう風が吹き荒れ始めたのだが………もう廃工場の中に入ることになるので関係ないだろう。
もっとも、その廃工場内の窓が割れていたりしたら意味が無いが………
「さ、行くか」
一陣の突風が俺の脇を駆け抜けていった。