藍の章 その二:シーワイバーン
晶「気がつきゃ十回目だな」ネコ「ああ、そうだな………今回は少年と藍のはじめての出会いのときだな」晶「そ、十回目記念ってことでね〜………ああ、二十回目も何か考えておこう……」ネコ「ま、比較的他の話と比べると今回は長いので、この話自体に対して何か感想なんかをいただけるとうれしいですな」
二:シーワイバーン
白猫と共に俺は橋の下にやってきたのだが………
「何もないじゃないか?」
そこにあるものといえば砂利や本、はたまたごみぐらいなものだった。
『いや、人間の視点から見てみると確かにここには何もないように見えるが……このように………』
猫は俺の手から飛び降りて橋に近寄ってコンクリートあたりを見ていた。
『猫の視点で物事を見ると違って見えるものなのだ』
そういって猫は一回鳴き、視線で俺を呼ぶ。
「………成る程ね」
そこにあるのは鍵穴とその鍵穴に入れたらきっとぴったりだろうとおもわれる鍵がそこにあったのだ。
「これをまわせばいいんだな?」
『ああ、その鍵を回せばおのずと扉が私たちの前に姿を現すだろう………』
猫はどこか遠くを見るような視線をしており、俺はその鍵穴に鍵を差し込んでひねる。
かぱっ
「…………」
近くの草むらからそんな音が聞こえてきて…………近寄ると壊れた水洗便所が別世界へとつながるであろう、扉を開けていた………そのままこの土地の地下に降りるための階段がそこにはあったのだ。
「………ここを降りていけと?」
『当然だ………この先には面白いものが待っているからな』
「………そこまでして面白い物をみなくてもいいんだが…………」
そんな、ねぇ………便所に飛び込めって考えられないんだが?先にあるのはゴールデンに輝く不純物か?天国の前には地獄があるって奴なのか?
『とても汚らわしい想像をしているかとおもわれるがそのようなものではないぞ?大体、いいことの前には悪いことがあるのは世の常なのだろう?』
そんな無常な世の中はいやだなぁ…………幸せだけの世の中って来ないものか?
「………わかったよ、いけばいいんだろ?」
『物分りが良くて結構』
猫が先に躊躇なく飛び降り、俺も飛び降りようとしてそこの見えない闇に不安を持ったのでトイレの中につけられいてた鉄の柱を使ってトイレの世界へと向かったのだった。
「うおっ!!」
途中、地上界から差し込まれていた全世界を照らしてくれているお天道様が翳ったどころか…………その存在を確認できなくなってしまった。
「……………扉が閉まったのか?いや、ふたが閉まったのか………」
どうでもいいことなのだが、とりあえず、これからは慎重に降りていかないと危ないようだ。周りがまったく見えない状況で、かれこれ五分ほど降りているというのに未だしっかりとした足場は見えてこない。見えてこないのは暗闇だからだろう?と誰もつっこんではくれないのが心細い。
「俺、閉所恐怖症なんだよなぁ…………あと、暗いところも駄目なの」
『ならば、どうやって眠るんだ?』
「お、猫か…………」
ようやく足場が近づいてきたようで、猫の存在を確認することが出来た。足場にたどり着くと猫は俺に電気をつけるように言った。
『私がこれから言う歩数をきちんと護るようにすればここは明るくなる』
「へぇ、早く言ってくれよ」
『まず右に一歩出てくれ』
「わかった」
ぐにゃ………
「………何か踏んだ気がするんだが?」
『気のせいだ………次はそのまま前に七歩』
一、二、三、ぐにゃ………五、六、七………
「猫、さっき何かまた踏んだ気がするんだが?」
『妄言はやめてもらいたい………そこの壁の部分にスイッチがあるからそれを押すように………ああ、間違っても下を押すな』
「もう命令口調だな…………」
言われたとおりにスイッチを入れるときちんと電気がついて俺はようやく目で猫を確認できるようになった………
「それと、変なのもいるな………」
『そう、これが君に見せたかった“者”だ』
目の前にいるのは鮮やかな藍色をしている………
「龍?」
『いいや、これは翼龍………さしずめ、シーワイバーンってところだ』
そのシーワイバーンが何で川の下にいるんだ?ここ、海じゃないぞ?どういった経緯があったんだ?鮭のように産卵でも………
「と、鎖でつながっているってことはどこかから移送でもされてきたのか?」
首、足、前足の代わりにある翼……に鎖がつけられており、俺より数倍でかいその体は動こうともしなかった。
「死んでるのか?」
『………生きてるさ………たまにここに遊びに来るからな………』
猫は物怖じせずに自分より数十倍はでかい怪物であろう翼龍の鼻の頭に乗った。
『起きるがいい………』
ネコパンチを打ちまくり、必死に起こそうとしている。
『………少年、こいつの足を思い切り踏んでくれ』
「いいのか?」
この物体が暴れ始めたら俺の命は殆どなさそうなんだが?
『構わない………どうせ動きが愚鈍な輩だからな』
いや、そりゃ猫のほうが動くのさすがにはやいだろうが………あまり隙間のないここで暴れられたら共にぺしゃんこだろうに…………
「知らないからな!!」
俺は思い切り足を踏んづけてやった…………
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
咆哮、そして猫はしりもちをついている俺の隣に華麗に着地した。
『少々強引だったようだが………起こすことが出来た、感謝しよう』
「…………そりゃどうも」
翼龍はこちらの存在に気がついたのか大きなおめめを細めて猫を捉え、次に俺に視線を写して…………首をかしげた。
『はじめてみる生物だから不思議に感じているのだろう………こいつは比較的おとなしい性格だから君が襲い掛からなければ食われることはないだろう』
「いや、誰が好き好んで翼龍に襲い掛かるんだ?」
いたとしてもドラゴンバスターか勇者だろ?ちなみに後者の場合は悪さをする相手に限って………だが。
ぐるる………
「お〜なんか唸ってるぞ?大丈夫なのか?朝起きて『らっき〜………朝食がデザート付で目の前に置かれてるぜ』とかおもってたらどうするの?」
『……大丈夫だ、こいつは私のことをえさだとは思っていない』
私は皮と骨しかないからなと猫は呟く。え?俺は?
『………それはそうと、少年……気味の名前を聞くのを忘れていたんだが?』
「ああ、そうだったな………俺の名前は白瀬晶だ」
『ふむ………こちらの少年の名前は晶だそうだ………』
ぐるる………くんくん……ふんっ!!
「うをっ!!」
鼻でくんくんされた後に物凄い鼻息が俺の顔面を襲った。
『トイレくさいって言ってるぞ』
「………トイレにすんでるくせしてそんなこと言うなって伝えておいてくれ………」
その場に俺は座って目の前にいる翼龍を再びみあげて………改めてこんな生物がこの世に存在していることをはじめて知った。
「まさか、龍が本当にいるとはなぁ………」
『厳密に言うと龍ではないが………バイオ兵器とかが考えられているこのご時勢に掛け合わせるといったことが合っても不思議ではあるまい………』
猫はいきなり俺の肩に登った。
ドン!!
「………へ?」
猫がいたところからなにやら煙が出ている。
『完璧に巻いたとおもっていたんだが………少々爪が甘かったみたいだ』
そういって自分の爪を壁でがりがりと削る。
「………どういう意味だ?」
「こういうことよ」
上のほうから誰かの声がして………猫を保健所に連行しようと考えていたおばさんが姿を現した。
「………!」
「その猫が翼龍と会っていたのは知ってたからね………つけさせてもらってたのよ」
地面に華麗に着地したおばさんの手には拳銃が握られている。
「………すげぇおばさんだ………」
「む………私はおばさんじゃないわよ………」
おばさんは自分の顔に手をかけ、顔を一気にはがした。
「だ、脱皮した………」
と、冗談はこのくらいにしてその下からは綺麗なお姉さんが姿を現し………俺のほうに拳銃を向ける。
「………一般市民には手を出したくなかったけどこれを知っちゃったからには少々痛い目……場合によってはひいおじいちゃんが待ってる地獄に言ってもらわなきゃいけなくなるわ」
「残念ながらうちのひい爺ちゃんはまだ生きてるぞ?」
「………こほん、さ、そこをどきなさい」
自分の間違えを………てか、さすがにうちのひい爺ちゃんがまだ生きてるとは思っていなかったのだろうな………認めずにおばさんもとい、お姉さんは俺に銃を突きつけたまま近寄ってくる。
「へぇ、何でどかないの?これ、言っとくけど本物よ?」
「………わかってるさ………足が震えて動けねぇだけだ」
「そう、それならよかったわ」
俺の隣を素通りして………俺は何もしなかった。
「ところで、白猫はどこに行ったのかしら?」
銃を突きつけられてそう聞かれるが………俺は答えなかった。
『時間稼ぎはお手の物だな、少年』
なぜなら、猫が既に電気を消すスイッチに手をかけていたのだから。
「そりゃどうも………」
猫はこの部屋の電気を消し、あっという間に暗闇が俺たちを襲った。
「くそっ!!」
猫がいた場所に向かってお姉さんは拳銃をぶっ放すが、猫は既にそこにはいなかった。
『少年、今から私が言うとおりに動いてくれ!』
声を出したら危なそうなので頷き、俺は猫の後ろについた。この猫は相当修羅場をくぐってきたようで……………なんと、先ほどのお姉さんの衣服に蛍光塗料をつけていたらしかった。光って相手がどこにいるのかすぐにわかる。
『………重いだろうがこの物体を持ってあっちの扉をくぐるんだ』
「わかった」
なにやら重たいものを渡され………やわらかくて変なものだったが………それを担いで言われたとおりに扉に逃げ込む。
「そこね!」
拳銃を発砲したのだが扉にあたり………俺たちにあたることはなかった。もうちょっと左に俺がいれば見事に当たっていただろうが。
『この扉はどんなことをしても壊れないものでな、あんな豆鉄砲では通用しないものなのだ』
「……詳しいな、猫」
『まぁ、私としても伊達に猫をずっとやっているわけではないからな………』
猫の後に続いて俺はそのまま歩いていく。
『この台座に乗るといい………ここから上の川までつながっているから、健闘を祈る』
「………お前はどうするんだ?」
『残念ながらこのスイッチを押さない限り君たちはここから脱出できない………それに、私は水が駄目なのだ』
そりゃそうだ、猫だから…………
「けど、どうやってここからお前は脱出するんだよ!」
『………この研究所を作った人物は伝説を実現させたかった………ただ自分の欲望のために様々な生物を掛け合わせて龍を作ろうとした………だが、その過程の途中でその人物は猫とひっついちゃった……この話を信じるのは人の勝手さ………だから、私は必ずこの話の続きをするために君の目の前に現れるということだけは約束しよう………そのときはその子の笑顔をもう一度見てみたいものだ』
「そこにいたのね!」
どうやってはいってきたかは知らんがお姉さんがここまでやってきたようだ。
『すまん………鍵をかけ忘れていたようだ………それでは、これで失礼するとしよう』
「お、おいっ!!」
猫はそのままスイッチを押し、俺は外に出ようとしたのだがカプセルケースに入れられたように動けなくなって水の流動のみを感じたのだった…………
――――
「………はぁ、ったく………」
川原にへたり込んでいる俺の手の中には藍色のワンピースを着ている女の子の姿があった。服はべちゃべちゃに引っ付いて体のラインを綺麗にあらわしている。
「………やれやれ、このこをどうしろって言うんだよ………」
足かせに千切れた鎖………あの翼龍=この娘って図式になっちまう。あの猫の話を信じるとすれば………だが。
「………よくわからんが………うちのあしゅらさんに土下座でもすれば居候仲間が増えるかも知れねぇな………」
うちのあしゅらさん=洋子さんだが………
「ん………」
そろそろお目覚めのようで、見知らぬ男が………いや、さっきあったか?とりあえず、抱いてちゃ変な誤解をされかねんからな。
「………ああ、晶様ですか………ここはどこです?ネコさんは?」
「え?」
普通の態度に少々驚きながらも俺はこれからのことについて目の前の少女に伝えることにした………そして、俺は彼女の名前を聞くことにした。
「名前………ですか?ネコさんは私のことを藍って呼んでました」
藍………ね………見たまんまだな、猫。こうして、俺は藍と共に家に帰ることとなった。