藍の章 プロローグ/その一
?「あれ?名前が入ってないぞ?」??『それはそうだろうな、ここで私たちの名前を出してしまっては俗に言うネタバレという奴になってしまう』?「ああ、なるほどな………」
プロローグ
俺が目覚めたのは十六年前………いやいや、目覚めたんじゃなくて産声を上げたのが十六年前だ。
何不自由の無い暮らしを送っているがもうちょっと贅沢な暮らしをしていたいと思っていたりもするし、毎日家に帰ったらおやつがあってもいいのではないかと思っていたりする。
小学校にはじめて入ったときは見知らぬ連中の顔をぼーっと眺めているだけだったし、宿題なんかも多量に出て遊びに行くのが五時ぐらいからだった。
小学生のときになんやかんやがあって中学に入り、転校するような形で異国の地…………といっても、別の県に入っただけなのだが当時の俺はそうはおもっていなかった………に行ってそこでもまた、見知らぬ顔をまじまじと眺めて三年を過ごした。
高校ぐらいはどうにかしたいとおもっていた俺なのだが、爺さんが外国に出立して俺の世話をしてくれる人は皆無となったのだが、もとより、一人暮らしも同然だったので一人になっても構わなかったのだが爺さんの知り合いの家族のもとで暮らすこととなった。
そこでの生活は楽しかったし、何よりそこの家族の人たちは俺のことを本当の息子みたいに扱ってくれたのが嬉しかった。まぁ、いまもそこに住んでいるのだが………
そして、高校二年生となった俺は本日始業式というものをあくびをしながら眺め、今日の晩御飯はなんだろうかとおもいながら帰路につくことにしたのだが………
その日、俺の世界が変わった……
一、
『そこの少年』
今日は始業式だったために午前中だけで学校から開放された俺。本当だったら部活などがあるのだが、色々と忙しい俺は部活に入らずに帰宅部として生活していた。
そして、今日……いきなり後ろから話しかけられたので後ろを振り返ってみたのだがそこには誰もいない。
「…………気のせいか?」
『気のせいではないぞ』
声のようなものがした方向を見ると、そこにいたのは一匹の白猫だった。まさかなぁ、猫がしゃべるはず無いな。
「猫がしゃべるわけ無いよな」
『そうだとおもう。猫がしゃべるなど声帯の部分でまず不可能だ。もしかしたら突然変異の猫がしゃべるかもしれないが私はしゃべれない』
「………それはしゃべってないのか?」
どうにも、この猫が俺に話しかけてきているようだ。
『私の口を見てみろ、どこも動いてはいないだろう?』
「ああ………でも、腹話術って方法もある」
『少年は私を何だとおもっているのだ?』
猫だろ?いや、白い野良猫か?どっちでも構わないが…………
「あ〜わからん…………連日の徹夜のせいで脳内が腐食してきているのか?」
『腐る脳みそがあるほど聡明そうな顔をしていないような気がするのは私だけか?』
「…………お前、一体全体何もんだよ……見知らぬ俺に何のようだ?異世界を助けて欲しいとかそういう勇者ものは無しだぞ」
いい加減、猫と話していて疲れてきた。ここは住宅街だからいつ人が来てもおかしくない状況なのだから………他人から本当に疲れているとおもわれかねんからな。
『私は話の早い人間は好きだ』
「そりゃどうも」
猫にもてても何の自慢にもならん。その気持ちだけいただいておこう。
『実はな、おなかが空いて昏倒寸前なのだ』
「………そういやぁ、確かにやせてるな………」
猫は骨と皮しかないといっていいような状況で、立っているだけでもつらそうだった。
「う〜ん……じゃあ、何か食べ物でもあげたほうがいいのか?」
『出来ればさば缶とかが好まれるのだが』
「……わかったよ」
近くのコンビニにその猫を抱えて連れて行き、駐車場で待つように指示、そしてさば缶を四つほど買って………俺の小遣いが昇天してしまった………猫に分け与える。
『恩にきろう』
「そりゃどうも………」
白猫がさば缶を食べているのをみていると、一人のおばさんが近寄ってきた。
「………あんた、その猫は野良猫かい?」
俺はそのおばさんことを知っていて、野良猫などにえさを与える人間を見ると叱り飛ばすというおばさんだった。野良猫にえさをやるといけないと宣言しているところを新聞で見たのがきっかけである。
「いいえ、迷子になっていた俺の猫です………ちなみに名前はタンポポです」
「そうかい、それならいいんだけどね」
そういっておばさんは俺を睨みつけてから去っていった。白猫はしたから俺を見上げてきており、呟いた。
『他人に嘘をつくのは良くないとおもうぞ』
「そうしねぇと俺の全財産をかけてまで助けてやったお前の命が消えちまうからな………さて、そんじゃまぁ………一緒に散歩でもしますかねぇ」
『私は散歩など………ああ、なるほどな』
影のほうからこちらを見ている先ほどのおばさんの存在に白猫も気がついたのだろう。猫は俺の隣に立って同じ歩調で歩き出すこととなった。
――――
おばさんの執拗な捜査は未だ続いており、結構な道のりを走破した。
「まだついてきてるぜ………」
『ううむ、なかなかしつこいな………ところで、少年………さば缶のお礼に面白いものをみせてやろうか?』
「面白い物?」
さて、面白いものとはなんだろうかとちょっと考えてみることにした。ううむ、猫が作った鼠の剥製か?それとも鼠体模型か?
『ちょっと私についてきてくれ』
猫は考え込んでいる俺をよそに段々だと河川敷に向かって歩き始める。
「あ、ちょっと待ってくれよ!!」
猫が走り出し、俺も走り始める。後ろのおばさんもどうやら走り出したようで、ちょっとしたかけっこが始まった。
河川敷をある程度まで降りると、そこは自転車用のサイクリングロードがあり、猫はそこを橋の下まで一直線に走っていった。
「おい、どこまで走るんだよ?」
『いずれわかる』
気がつけば猫は時折俺の後ろのほうを見ており、もうおばさんがきていないことを確認すると走るのをやめて歩きに変えた。
『どうやら巻いたようだな』
「そのようだ………で、面白い物ってここにあるのか?」
俺がそう尋ねると猫は黙って橋の下を眺める。俺もそれに習ってちょっと遠くにある橋の下を眺めるが、ここからではみることが出来ない。
「橋の下にあるんだな?」
『正確に言うなら端の下の下にあるんだがね』
耳や尻尾が垂れているところを見ると疲れてきたのだろう。俺は白猫を抱えあげて橋の下へと向かっていくことにした。
『しかし、君は妙な少年だな。自分のお金を出して助けるほどそんなに白猫が珍しいのか?』
「いや、別に白猫は珍しくないぞ………それに俺は妙な少年ではない」
『ふむ、君がオス猫だったら喜んで夫婦になっていたんだがな』
どうやらこの猫はメス猫だったようだと気づいて……それがどうでも良いことにさらに気がついて俺は白猫と一緒に橋の下へと向かって着実に歩を進めることにしたのだった。そこに何があるのかは未だわからない。