オネーサン
-私が好きなのは、今目の前にいる人だよ。-
そんなこと言ったのなんて、忘れたい。忘れてしまいたい。そう思うくらいに私の中の「彼」という存在は落ちぶれていた。けれど、あの時は、電車の中であの言葉を告げた時は、好きだったんだ。「彼」のことが。
「オネーサン!寒いねー!うち寄ってかない?あったかい物飲んでいってよ!」
お前が言うあったかい物は一体何十万するんだと思いながらも努めて冷静に
「急いでるんで。」
とだけ言って立ち去る。まったく、なんで未成年に声かけてくるんだか。いや、こんな道歩いた私が悪いのか?
ここは新宿、歌舞伎町。都会人からしたら何ともないんだろうけど、私みたいな時々しか都内に来ない人間には住みにくくて窮屈な場所としか思えない。
それでもフラッと来るくらいならいいかな、なんて思ってしまうから怖いもんだ。あれ、まだ付いてくる。しつこい奴は嫌われますよって言ってやろうか。まぁこういう人達はそのくらいじゃへこたれないコミュ力ありそうだけど。
きっとどこかの少女漫画なら「嫌がってるじゃないですか。」なんて言いながら恰好いいヒーロー登場なんだろうけど、私の元にそんなイケメンはいない。知ってるから期待もしない。そもそも突然現れたイケメンにホイホイついていこうとも思わない。
ひたすら横を歩いて付き纏うホストを一瞥し、私は足早に通りを抜けた。
あーあ。20歳過ぎてたらまんざらでもない顔でさっきのホストに付いて行ってたのかな。あんまりいい顔じゃなかったっけ。彼氏はできないのにあんなのは声かけてくるんだから嫌んなっちゃう。とは言ってもちょっと嬉しかったりして。
馬鹿である。ああいったキャッチはホイホイ付いてきそうな人を狙って声をかけるのだそう。つまり私は軽く見られているのだ。それを喜んでしまうほど私は男の人と特別な関わりになれそうな気配がなかった。
高校2年生。公立校であれば楽しくて仕方のない時期だろう。しかし、私が通うのは私立校。1年生のうちから受験受験、そればかりを言ってくる。
ここだけ切り取って話せば、華の10代はつまらないもので終わる。実際そこまで面白みはなかったかもしれない。ただ……
「私が好きなのは、今目の前にいる人だよ。」
こんなことを言ってみた。文化祭の打ち上げが終わり、遅延する電車に乗ったその時に。
私は「彼」が好きだった、のだろう。事実、「彼」がそばにいればドキドキしたし顔はすぐに赤くなった。1年生のうちから、選択授業の終わりに話をするようになって、気づけばいつも一緒にいる友達のひとりになっていた。
はじめまして。蒼鷺と申します。人生で初めて小説というものを書くので、至らない点や読みにくい部分があるかと思います。ぜひ温かい目で読み進めていただけると幸いです。