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風の化石  作者: 野中
2/13

フェリックスの火焔

事実だ。…半分は。

テツは臆すことなく冷たい視線を見返した。

「あなたは」


「副学長ロイ・シェルです」

テツは鼻で笑う。

「話にならないな。責任者、学長はどこにいる」


「ここだよ」


言って、ロイの隣に息を切らしながら初老の男が並んだ。困ったように眉尻を下げる。

「わしが学長、ダン・マリスだ」

ダンが、包容力高めの身体を揺すった。


優しいというより、気弱げな青灰色の丸い瞳が、テツを見下ろす。

テツは真っ直ぐ見返した。


学長の気弱さの裏に、狡猾を見つけた刹那。




「テツくん…!」




悲鳴じみた声が矢のように飛んだ。

テツたちの様子に揉め事の気配を察したか、生徒たちがまばらに垣根を作り始めた向こう側からだ。


予測はしていた。


学園には、テツ・フェリックスの知り合いがいる。

ヤト学園は、良家の子女が集まる場所だ。

警備の厳重さは、それゆえだった。


早速、一人目が現れたらしい。




―――――臆すな、僕。




テツは面倒そうに視線を巡らせた。

周囲の視線がいっせいに集中する先に、見えたのは。


ひとりの少女。


おおきな空色の瞳をこぼれそうなほど見開き、テツを凝視している。

テツと同じ、十歳程度の女子だ。

ふわふわの白金の髪も相まって、日向のような安らかさを周囲に感じさせる少女だ。


本人自身が内側からひかりを放っているようにうつくしい。


だが。

少し憔悴しているが、十分に愛くるしいその顔立ちに、見覚えはなかった。

仁は慎重に、テツの記憶を探る。



―――――よし、分からない。



テツは眼を細めた。率直に尋ねる。






「きみ、誰」






テツの態度には、遠慮も申し訳なさもない。

君など知らないと告げる正直さは、酷薄に感じられた。

誰もが、ひやりとなったろう。

少女が泣いてしまう、と。


案じる視線の中、しかし少女は、淡く微笑んだ。



「私は、シルヴィア・ゴネット」




まるで、何度も練習を積んだような、明瞭な声だった。




ゴネット。その名には、覚えがあった。

五代藩王家の一つ。


晴々とした微笑が、すぐ、弱くなる。


「…ゴネット姓を名乗っているけど、傍系の傍系よ」

「それが?」


そんなことにはテツの興味はない。

シルヴィアは、大きな目を瞬かせる。

何が楽しいのか、嬉しそうに何度も頷いた。

「間違いなく、テツくんだ…」


微かに頬を紅潮させたその姿は、とても愛らしい。


テツの記憶に彼女の姿がないのは、なぜだろう。

「シルヴィア・ゴネット」

副学長のロイが、無機質な声で生徒を呼んだ。

「彼は、間違いなくフェリックス藩王家の嫡男ですか」

仁に向けたのと寸分違わぬ声で尋ねる。少なくとも、平等な男ではあるようだ。


「はい、シェル先生」

テツから目を離さず、シルヴィアは大人しく頷く。どこか誇らしげに告げた。

「他にはない、その目が証です」


「ああ、フェリックスの火焔か!」


学長が、呑気に両手を合わせる。テツの目を覗き込んだ。

「だが彼の目は、黒だぞ? 赤では…」

すぐさま、息を呑む。

どうやら、ようやく気付いたようだ。


彼を見返しているのが、どこまでも黒に近いが、鮮やかな深紅と言うことに。


テツは肩を竦める。

「どう? 歴代の中でも一際不吉な赤、とよく言われるけど」

シルヴィアが胸を押さえた。

俯く。

白金の髪が、表情を隠した。




「…よかった。よかった。生きてる…」




声が震える。


いかにも儚げな姿は、そのまま崩れ落ちてしまいそうな心配を周囲に抱かせた。

だが、それでもしっかりと立っている彼女は、意外と芯が強いのかもしれない。


シルヴィアの言葉に、テツは肩を竦めた。




「副学長にも言われたけど、僕は死んだと思われてたのかな? つまり皆知ってるわけだ」




テツは挑戦的に周囲を見渡す。











「二日前に起きた、フェリックス藩王家の消滅を」











「全滅と聞いている」

学長の声は、困惑に満ちていた。

困ることを仕事にされても、こちらも困る。


「聞いているのは、それだけだ。誰も詳細を知らない」

これでは、話が前へ進まない。

子供が先を促さなければならないとは、嘆かわしい。それとも。


(面倒事は考えるより、追い出そうっていう魂胆か?)


テツは長く息を吐きだした。

面倒くささを隠さず尋ねる。


「知っていることは?」

「ただフェリックス藩王家が屋敷ごと、一夜にして消え去ったということだけだ」


「何が起きたのですか」

副学長が続いた。

知りたくはない、と言うわけでもないらしい。

けど、こんな言葉を知っているかな。


―――――好奇心は、猫をも殺す。


「結果を先に言うなら」

テツはさらりと答えた。さらりと、



「僕がやった」



テツは、毒を撒く。


こうなれば、しめたものだ。

誰も逃げられない。


「冗談ならば、悪質ですが?」

口調の軽さに即応したのは、副学長の苛立ちの棘だ。

喰いついた。

まぁ、当然か。


「真実なら、最悪だよね?」

テツはあっけらかんと続けた。

「残念だけど、最悪の方なんだよ。物分かりの悪いあなたたちに簡単に説明するとさ」

学長たちを見上げ、テツはにこりと微笑む。


大人たちの詰問にも、臆さない。

堂々とした態度に、いつの間にか、皆が無自覚に巻き込まれている。

その事実に、幾人が気付いていることか。


間髪入れず、彼等の耳に、軽やかな声でテツは爆弾を投げ込んだ。




「僕は屋敷の中に<教>の連中を招き入れたんだ」




学長が口をぽかんと開く。青ざめた。

彼の隣で副学長が顎を撫でる。少年の言葉を吟味するような遠い目になった。

「藩王家の方なら、ご存知でしょう」

副学長が、婉曲に前置きする。

その間にも、彼の眉間の皺が、神経質に深くなっていった。


「彼等は主に行者と混沌学の派閥に分かれ、長年争いを繰り返してきた。

無関係の周囲を巻き込みながら処構わず―――――彼等は数多の不条理な死を生みだす、無法者どもです」


つまり、…テロリストだ。

鋭い視線がテツに突き立った。

「その、<教>を招き入れたのですか。どちらを。何のために。いえそもそも、<教>はいったいフェリックス家になにを求めていたのです」

「へえ?」

テツはにやりと笑う。混ぜ返した。


「僕の正体を真っ先に疑ったくせに、そこは信じるんだ?」


副学長は沈黙する。満ちたのは、凪いだ沈黙―――――そのくせ暗い深淵を感じさせた。

テツはわざとらしく怯えてみせる。

「大の大人が十歳の子供を脅すの?」

相手が動揺する寸前、からりと笑った。


「ああ、対等に扱ってくれてるのかな。ならいいよ、答えてあげる」


怖いもの知らずのテツの言動に、周囲の方が青ざめる。

本人は一向に堪えた様子もない。楽しそうに微笑んだ。





「僕、好きな子がいたんだ」





一瞬、誰もが唖然となった。

何の話だ?

相手をからかい、翻弄したかと思えば、突如子供っぽい言い草に変わる。かと思えば、


「その子は屋敷の使用人でね、行者の一派に属してた」

ブーメランのように派手に回転し、話が元に戻った。

―――――一切が相手の虚を突くための言動としか思えない。


副学長のこめかみに青筋が立った。生徒たちは震えあがる。

「無関係な話は必要ありません。物事は簡潔に伝えなさい」

「無関係じゃないよ? さっき聞いたでしょ。僕の目的。なんのために招いたんだって」

「…まさか」

「たぶん、お察しの通りだと思うけどね、一応説明するとさ」

大人たちが苦い顔になるのにも、少年はひとつも怯まない。


「あの日、その子が親戚に会うために外出したんだよね。で、帰りが遅くなりそうだから裏の扉を開けておいてほしいって言われたんだ」


彼は、二つ返事で頷いた。

理由なんて、簡単だ。


好きな子に格好つけたかった。

嫌われたくなかった。

たったそれだけの話。


「結果を考えなかったのですか」

「予測はついたよ。彼女が行者だってことは知ってたし。けど」

テツは、つまらなさそうに続けた。



「<教>の力程度でフェリックス家が滅ぶと思う?」



少年の言葉に、不意に彼等は面食らった。

その通りだ。

突如伝えられたフェリックス家消滅の報。


そもそもの疑問が、そこから生まれる。


藩王家の血筋は仙の血統だ。

彼等は強力な神通力を使う。

それは、一般的な方術士が使う方術とは異なる世界の根源そのものの力だ。


太刀打ちできるものが、いるはずは。


「そう、だから予想外だったんだ」

一瞬、テツの顔から表情が消える。




「…父さんと母さんが死ぬなんて」




冷たい風を顔面に浴びたように、幾人かが身を竦めた。

「あの日、屋敷に侵入したのは、行者だけじゃなかった。混沌学の連中もいた。あいつら、中で争いをはじめて…」

テツが遠い目になる。


「僕は、弟と妹が助けを求める声を聞いた。同時に両親の気配が消えたことに気付いた」


紡がれる言葉に、声に、…悔恨はなかった。

彼は、淡々と事実だけを延べている。

「でも僕も捕えられようとしていたから、動きようがなくて」

ゆるゆるとテツの視線がこの場に定まる。


「そのとき、僕は」

突如、唇が笑んだ。浮かんだのは、狂気に似た微笑。

だが、声に潜むのは静かな響き。








「力を『暴走させた』」








声は、ひどく凪いでいた。


満ちているのは、諦念。あるいは覚悟。

「結果は、おそらくあなたたちの方が詳しい」

だが、おいそれと信じられる話ではなかった。


なにせテツは、まだ十歳だ。



こんな子供が、―――――果たして。



「では、あなたがここにいる理由は」

突如、第三者の声が割って入った。穏やかに指摘する。






「<教>からの庇護を求めてのことですか? フェリックス太子」






子供たちの人垣の間から、やさしげな容貌の白衣の青年がのんびり現れた。

学長がホッとした態度で声を上げる。

「キルヒス先生」


これで面倒事から解放される、と言わんばかりの笑顔に、青年はにこにこと頭を下げた。


「失礼、学長。先ほど、環状都市の警邏隊から連絡がありました。先に、御報告を」

温和な声は、意外と周囲によく響いた。





「銀虎の眷属を連れた者が街へ侵入し、転移の門を潜った、と。その者は、高度な人造生物に追われていたそうです」





「銀虎」


ひとりごちたのは、副学長だ。

テツを横目にする。

「金目種なら、霊獣ですが」


「連れてきてないよ。ヤト学園は結界に守られているからね」

いくら眷属だろうと、転移の門をくぐるのは危険だ。

だが逆も言える。


だからこそ、安全だ。

テツの追手も、簡単には侵入できない。


「なんにせよ、ここにいれば、追われるわずらわしさが減るでしょ」

「追ってきた人造生物とは、<教>の?」

尋ねたのは、白衣の教師だ。キルヒス、だったか。

いい質問だ。なにせ、

「誰のかは知らない。ただ、僕を捕まえようとしたから、逃げてきた。でも、それ以外にないんじゃない?」


学長が、しぶい顔になる。

ぼそり、と何かを投げ出すように告げた。




「…藩王家子息の入学式は、昨日だ」




遠回しの物言いに、テツは表情を消す。


テツが学園に顔を見せたのは、今日がはじめてだ。

つまり、入学式に間に合わなかった。


よって、テツに入学は認められない、と学長は言いたいのだろう。

そうか。


それならそれで、仕方ない。


テツは踵を返した。




「わかった。ならいい」




学長は言外に伝えている―――――面倒事は御免だ。

だったら、もうここに留まる理由はない。

他にも道は、いくらでもあった。


これっぽっちの未練もないテツの態度に、戸惑ったのは、学長の方だ。


彼は思った。

いくら生意気でも、子供は子供。

大人の庇護が必要だ。

放りだされると聞けば、謝って縋りついてくる。

そのはずだ。なのに。


彼はようやく気付いた。






テツ・フェリックスは手に余る。






「テツくん」

沈黙に満ちた場に響いたのは、弱い声。

シルヴィアだ。

テツの足は止まらない。

その強さに怯えたように、少女は呟く。

「行っちゃうの…?」


「僕は行く」

彼は振り向かず、答えた。

シルヴィアは俯く。何かをぐっとこらえた。


我慢に慣れた態度に、一瞬テツは苛立つ。


だからだろう。

言うつもりもない言葉を口にしたのは。

「追うなら、勝手にしろ」

ぱっと少女の顔がはね上がった。

縋るように、テツの背を見つめる。


気弱そうに見えて、どういうわけか、迷いのひとつもない瞳で。


副学長は、清々した、という態度だ。

シルヴィアに次いで、ため息交じりに、テツの退場に異を唱えたのは、


「学長。彼が去れば」


どこまでも穏やかな眼差しで、アルバート・キルヒスは学長を見遣った。






「ヤト学園は、子供一人守る気概を持たない臆病者と謗られることになりますよ」


「こ、困るよ、キルヒス先生」






やっとその可能性に思い至った態度で、学長は恰幅のいい身体を悶えさせる。

苦悶に満ちた声で続けた。

「だが、だからといって」

声を呑んだ学長の言葉を、副学長が厳しく継いだ。


「一人をまもることで、大勢を危険にはさらせません。第一、彼自身が危険です」


その危機感も、無理はない。

テツは、自ら告げた。力を暴走させた、と。



結果、周囲一帯ごと巨大な屋敷を消滅させたのなら、彼はもう立派な兵器だ。



「ならば」

アルバートは転移の門に一歩を踏み入れるちいさな背に目を向けた。

「入学を一旦保留にすればいい」

確かに、テツ・フェリックスの扱いは難しいだろう。

色々な意味で。


かと言って、そんな兵器をこのまま野放しにするのも、危険だ。


彼の証言ばかりでなく、まずは、できるだけ正確な真実を知らねばならない。

そのためには、




「彼が危険かどうか、言っていることが本当か嘘か、…まず審問官に問いましょう」


「審問官!」




学長の声が裏返る。

テツの足が止まった。

刹那。

…気のせいだろうか?


少年の口元を、一瞬笑みが掠める。


「待ちなさい、審問官など呼べば、子供たちが怯えてしまう」

泡を食った学長の声に、テツが振り向いた。

すぐさま、皮肉の棘を刺す。

「金が惜しいんだ?」


「まさか」

軽やかに即答したのは、学長ではない。アルバートだ。

「審問官を動かす資金程度、ヤト学園はなんとかできますよ。ねえ、学長」

学長の口元がわずかに戦慄く。刹那、何かを呑み込んだ。

次いで、彼はゆったり頷く。


その姿には、威厳があった。

一瞬で、幾人もの生徒に安心を与えられるのは、最早才能だろう。その彼を、

「そう」

テツは冷めた目で一瞥した。


転移の門から離れ、無造作に歩き出す。

シルヴィアが目を輝かせた。

胸の前で指を組む。

祈るように。


「それで?」

テツはどこまでも挑戦的に告げた。

「審問官が来るまでの間、僕はどこにいればいいのかな。反省室でも地下牢でも、お望みの場所に監禁されてあげるけど?」


このとき、場に居合わせた、聡明な幾人かが敗北に満ちた気持ちで理解する。



主導権は、最初からテツ・フェリックスのものだ。



アルバートが、副学長を見た。彼はため息交じりに頷く。

「…仕方ありません」

黙礼したアルバートは、テツを手招いた。


「ではこちらへ。フェリックス太子」


目の端で、彼の白衣の裾が翻る。

導かれるまま、後ろに続き、テツは薄く笑う。


「自信があるのかな? あなたには」

アルバートが振り向いた。

やさしげな茶色の目を細める。



「僕がまた暴走した時、始末できる自信がさ」



教師は、人がよさそうな顔で微笑んだ。

「ぼくはただの教師ですよ」


「…戦士階級の、ね」

テツの目は、アルバートの掌に向いていた。

この男、無害に見えて、端から立ち居振る舞いが一般人ではない。

机仕事のみで人生を歩んできた者とは思えないゴツゴツした掌を白衣の影にさり気なく隠し、教師はのんびりと言う。






「公衆の面前、人造生物の体液で汚れながら、大人にすべての問題の犯人のように扱われ、なのに惨めさに泣き出しもしない。

…あなたが並みの子供でないのはわかります」






テツの視線の強さをはぐらかす態度で、アルバートは冗談のように軽く告げた。

「どちらかと言えば、ぼくはあなたに味方をしたい気分がある」

「それがよくない」

面倒くさげに応じつつ、頭の片隅で考える。


この男は用心棒だろうか。

ヤト学園の。


だとすれば、…厄介だ。




「それは戦士の考えだ」




薄く笑い、まずは湯殿へ、と言ったアルバートの声を最後に、テツは黙した。

実のところ、この場で一番の脅威は、アルバートでも他の誰でもない。


シルヴィア・ゴネットだ。


少女を一瞥する。

目が合った。驚いた彼女が目を伏せる。

すぐ顔を戻したテツは、自身に言い聞かせた。

大丈夫だ。


今、誰も気付いた様子はない。





テツ・フェリックスの中身がまるごと入れ替わっていることに。





テツには、他の藩王家にも顔見知りがいるはずだ。

用心しなければならない。

テツが、もうこの世にいないと知られてはならなかった。


傍観者となっていた仁の意識が戻ってくる。


不意に、彼の脳裏に、男の声が響いた。






―――――テツ・フェリックスが死ねば、この世界は十年後、確実に滅亡します。






その言葉がどこまで真実かは、仁にも分からない。

ただ、仁はテツが好きだった。単純に。


テツがやり残したことを継ぐのは、苦痛でも何でもない。


なにより、彼が残した問題は大き過ぎた。

見て見ぬふりは難しいほど。


正直、テツ・フェリックスの肉体と記憶をもっているとはいえ、仁にも『それ』をやり遂げられるかどうかの自信はない。


…もうひとつ、本音を言えば。

テツ・フェリックスは世間に出ない方が平和なのではないか、と思うのも事実だ。


いっそ死んでいた方が、多くの者が平穏な人生を歩めるはずだ。


この場で彼を演じて、骨身に染みた。






テツ・フェリックスは猛毒だ。


十歳にして。






思う端から、記憶の中で、妖気を孕む男の声が、それでも紳士的に言葉を紡いだ。

―――――ですが、彼は死んだ。死は覆せない。ならば死んだ彼の肉体に、劇薬を宿せばどうだろう? 貴方の魂という甘い毒を。


仁は小さく頭を振った。



いずれにせよ。





テツ・フェリックスは、まだ死ねない。











―――――どうか、終焉に向かうこの世界を黄金に変えてほしい。













唆すような言葉を最後に、男の声はふつりと途絶えた。









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