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冷たいけれど、温度はある。  作者: 一宮 仁嘉
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溶けかけるドライアイス ヒートアップする熱源

箒の一件の翌日。

熱海が暴走気味です、要注意。

待ちに待った昼休み。今日も今日とて、俺は目下攻略に奮闘中の涼香ちゃんのもとへ行くーー


「涼香ちゃーん!今日こそ「熱海くん。」


いつものようにバンッと1組の教室のドアを開けながらお誘いを言いかけた俺は面食らった。

この段階で遮られるのは新しい展開だ!


「私も話があります。場所を変えてもいいですか?」


「!もちろん!」


涼香ちゃんの方から俺に話があるなんて!嬉しすぎる!お付き合いお断りの話じゃないかとかいう外野の声は聞こえない!何しろ俺は告白した日に振られているのだから!もはや怖いものなしなのだ!


とか何とか脳内で浮かれまくっているうちに、前を行く涼香ちゃんの足が止まった。

気づけばそこは、以前俺が告白したときに使った校舎最上階の屋上入口だ。


「わざわざご足労いただきまして、ありがとうございます。」

ご丁寧にお辞儀しながらお礼を言ってくる涼香ちゃん。律儀すぎるぞ!


「全然構わないよ〜。で、話って何?」

「はい。昨日の箒の件なのですが、まずは謝罪をさせていただきたいと思いまして。」

「は?!謝罪??」

「えぇ。昨日は例の男子達に注意して謝罪までさせて下さったのに、お礼も言わずに帰ってしまってすみませんでした。」

そう言って今度は深々と頭を下げる涼香ちゃん。あ!うなじが見えた!これは貴重な光景だ!


「その上で、改めてお礼を言わせて下さい。昨日はありがとうございました。」

「そんな、謝罪もお礼も必要ないのに〜大したことしてないもん〜」

律儀な対応がこそばゆくて笑って茶化すと、何故か涼香ちゃんがじっとこちらを見つめている。


「…本当に、大したことないと思っているんですか?」

「え?うん。そうだけど…何?何か変?」

「いえ、変というか…熱海くんはすごい人ですね。」

「!!」

何今の?!いきなり爆弾落とされたんだけど!!飛び出そうな心臓を何とか制御して、俺は尋ねた。


「す、すごいって、何が?」

「私、あの時先生を呼んで何とかしてもらおうと思ったんです。でもちょうどそこに熱海くんが来て、私に対して反抗心むき出しの彼らを諭して、私に謝らせてくれました。しかもその後、普通に何事もなかったかのように彼らと話をしてて…あんな風に他人を叱ることができて、なおかつ叱った相手に反感を抱かせないっていうのは、なかなか出来ることじゃありませんよね。」


何だコレ?夢か?夢なのか?目一杯頬をつねってみる。うん、めちゃくちゃ痛い。夢じゃない。


「笹田さんも、熱海くんのことをムードメーカーでかつ頼れる存在だって言ってました。私、熱海くんはものすごくポジティブな思考の人なんだとしか思っていなかったんですけど、何というか、ちゃんと周りを考えてるんですね。この間うっとうしいなんて言ってしまって、ごめんなさい。撤回します。」


もうだめだ!嬉しすぎて恥ずかしすぎて顔から火が出そう!しかし、涼香ちゃんが真剣に話をしてくれているんだ、俺も誠心誠意答えなければ!


「確かに、周りの雰囲気が悪くならないようにっていうのはいつも考えているけど、それは、そんな雰囲気だと自分も楽しくないからっていうすごく自己中が理由で…だから、涼香ちゃんに褒めてもらえるようなことじゃないよ。それにすごいっていうならむしろ涼香ちゃんの方が…」

「え?私??」


もともと大きな目をさらに見開いて驚く涼香ちゃん。あぁ、そういえば、好きになった理由を言ってなかった。ダメじゃん、俺。


「あのさ、俺が涼香ちゃんを好きになったのって、1学期の期末試験の最終日なんだ。涼香ちゃんは気づいてなかったと思うけど、俺達、帰りの電車一緒だったんだよ。それで、疲れて座りたいって愚図ってるこどもに涼香ちゃんが声かけたとき、俺、救世主が現れたと思ったんだ。」

「救世主って…」

「本当だよ。あの時、あの場にいた他の乗客も、こどもの母親も、みんなイライラしてて、俺、息が詰まりそうだったんだ。あぁいう空気苦手でさ。そこに涼香ちゃんが現れて、重い空気を消してくれたんだ。それにその後こどもと話してる時にあんな笑顔見せるしさ。救世主じゃなかったら天使と言うべきかな。」

「天使って…」

苦笑交じりにつぶやいた涼香ちゃんは、ばつが悪そうに言った。


「でもそれなら、私だってすごい人間とは言えません。だってあの時、純粋にこどもが可哀想だから席を譲ったわけじゃないんですから。こどもが大声でうるさくて本に集中できないから、泣きやませるために座らせたんです。ものすごく利己的でしょう。」

「そんなことないよ!」

俺はすかさず否定した。


「いいことに理由も何も無いよ!涼香ちゃんのおかげで、少なくとも俺は救われたんだ!それにあのこどもと母親だって、譲ってもらって感謝してたじゃないか。きっと、他にあの場にいた人の中にも、よかったと思った人はいるはずだよ!」


またまた目を大きくする涼香ちゃん。そして恥ずかしそうに笑って言った。


「やっぱり熱海くんはすごいと思います。私、そんな風に考えたことありませんでした。」


うおぉ!殺人的な破壊力!連続で繰り出される攻撃に虫の息状態の俺のハートに、涼香ちゃんはとどめを刺した。


「熱海くんといると、物事を違う視点で見られる気がします。だから、一緒にいる時間を増やしてみてもいいですか?その、付き合うっていうのはまだ少し考えさせていただきたいのですが…」


ビシャァァァァァン!!!


あぁ、雷に打たれたような衝撃、っていうのはこういうことを言うんだな。

涼香ちゃんはまだ俺を好きになってくれたわけではないけれど、俺に一緒にいるだけの価値を認めてくれたんだ。それって、単に好きって言われるよりも何倍も嬉しいことじゃないだろうか。

俺、涼香ちゃんを好きになって良かった。


「あの、熱海くん?もしかして、あの告白ってもう無効でした?」

「!いや!そんなことないです!絶賛受付中です!喜んでお受けします!」

「安心しました。じゃあ今までの関係から変わるということで、敬語を止めてもいいですか?」

昨日笹田さんに、友達になったら敬語はなしって言われたんです、と涼香ちゃん。


「は、はい!よろしくお願いします!」

「熱海くんが敬語になってどうするの。」

テンパる俺に、涼香ちゃんはふふっと笑った。


「よろしくね、熱海くん。生産的な関係、期待してるよ。」


どきん。


あわわ、タメ口OKしちゃったけど、しない方が良かったかな。俺の心臓が保ちそうにないや…


晴れやかな顔で教室に戻る涼香ちゃんとは対照的に、赤くなったり青くなったりの顔で教室に戻った俺は、案の定クラスメートに心配され冷やかされ、おまけに午後の授業は全く身に入らなかった。

熱海視点で見ると涼香が小悪魔に見えてしまうのは何のマジックでしょう。

書いてる本人も分かりません。


次回は涼香視点の予定です。

ここまで読んで下さりありがとうございました!

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