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冷たいけれど、温度はある。  作者: 一宮 仁嘉
3/5

熱源の発生

熱い男子、熱海暄太の主張です。

文章を男子っぽくしてみたものの、慣れない表現で何だか変な仕上がりになってしまった気がします。

多少のむずがゆさは大目に見て下さい!

俺、熱海あたみ暄太けんたは、とある私立に通う男子高校生だ。学年は2年。クラスは、理系で成績普通の生徒が入れられる5組だ。


まぁ成績のことでとやかく言われることもあるにはあるが、学校生活はそれなりに楽しんでいる。

いや、楽しくなるように心がけている、といった方が正確かもしれない。

なにせ、日常生活における俺のモットーは、楽しく、明るく、元気よく、だ。


おっと、小学校のクラス目標みたいだと笑われないように、説明を加えておこう。

このモットーにおいて、「楽しく、明るく、元気よく」なるのは自分だけであってはならない。

もちろん自分が楽しめればそれに越したことはないが、それはあくまで結果としてである。

明るい雰囲気に囲まれてこそ、自分も思い切り楽しめるのだから。

つまり、自分の周りの人間を「楽しく、明るく、元気よく」させ、その結果自分も「楽しく、明るく、元気よく」なろう!ということである。

お分かりいただけたであろうか。


このモットーのもと、(あ、なんか洒落みたいだな笑)俺が日々起こしているアクションは基本的に3つである。

1つは、常にテンションを高く!である。

周りの雰囲気を明るくするのにこれは欠かせない。

誰か1人でもテンションの高いやつがいれば、その集団は何となくでも明るくなれる(と俺は思う)。

だから俺は率先してムードメーカーの役を担っているわけだ。


2つめは、笑顔を絶やさず!である。

暗い顔をしていれば自分の周りの空気も重くなるもんだろう。

そういう悪影響を及ぼさないように、できる限りにこやかに振る舞うのだ。

もちろん無理をすると逆にぎくしゃくしてしまう可能性があるので、できるだけ、という条件付きだが、元来深く悩むこともないので問題はない。


3つめは、周りを気に掛ける!である。

クラス内で集団から外れた行動をとってしまった生徒には、積極的に話しかける。

むしろからかうくらいの勢いがちょうどいい。

そいつを集団の中に戻すきっかけになるからだ。

もちろんやりすぎはよくないし、かまいすぎると相手の気分を害することもあるから慎重さが必要だが、俺は相手の表情でだいたいの機嫌は把握できるというすばらしい才能を持っているので、今のところ失敗はしていない。


他にも細かいことはいろいろしているが、大まかに説明すればこんなものだろう。

こうして俺は、朝からハイテンションで登校し、寝癖を付けて遅刻してきたやつをおちょくって教室に向かえたりしながら、皆の話に笑顔で対応して、学校での1日を終えるのである。


え?勉強はどうしたって?


そんなもの、周りに目を配ってたらそれどころじゃなくなるだろう。


…あ、俺の成績が上がらないのはこのせいだったのか。うん、納得の原因だ。


まぁ別に無理をしているわけではないし、俺はこれで幸せなのだから、親とか教師から猛烈な攻撃が来なければ、このままで満足だ。


そしてこの状態が卒業までずっと続くと思っていたのだが…



**********



7月の半ば、期末試験の終了日のこと。

私立校はその実績に惹かれて遠方からも生徒が集まるもので、うちの学校もご多分に漏れず電車通学の生徒が大半である。

かくいう俺も電車組だが、あまり同じ方面の友人がいないため、行き帰りはたいてい1人だ。

その日も、俺は1人で家に向かう電車に乗っていた。


試験勉強で連日遅くまで勉強していたため、正直座って寝たいところだが、席は全て埋まっている。

誰か次の駅で降りてくれないかなーーそんなことを考えながら開かないドアにもたれていた。


と、同じ車両の一つ向こうのドア付近から、こどもの泣き声が聞こえてくる。

すぐ後に母親の叱るような声が聞こえてきたが、泣き声は止まない。むしろ大きくなっている。


「疲れたの?もうちょっとでお家だから辛抱なさい」

「やぁだぁぁぁ!もういやぁぁぁ!」

「こら!そんなところに座らないの!他の人の迷惑になるでしょう?!」


どうやらこどもは疲れてぐずっているようだ。

しかし母親としても、座席が埋まっているこの状況ではどうしようもない。


「いい加減になさい!」

「うわぁぁぁん!」


ああ、これはまずい状況だ。こどもの大きな泣き声に他の客たちが嫌そうな表情を見せ始めている。

母親もそれに気づいているのだろう、焦りといらつきが見える。

何とかしてやりたいところだが、現状こどもと同じく座れずに立っている身では、如何ともしがたい。

ぴりぴりした車内の空気は俺にとって窒息しそうなほど居心地が悪い。

うう、どうすれば…


「あの、ここの席、どうぞ。」


その時、重苦しい空気を霧散させるような女の人の声がした。

思わず声のした方を見やると、こどもが席に座るところだった。

母親は何度も頭を下げている。


「ありがとうございます!」

「いいえ、とんでもないです。」


母親の礼に謙遜している、席を譲った女性を見ると、そこには見慣れた制服。


(?!あれ、うちの学校の制服じゃねぇか!)


学校の最寄り駅からはすでに結構離れているので、まさか同じ学校の生徒がいるとは思わなかった。


(他学年のやつかな?あ、でも女子なら同学年でもありえるか〜)


それまでの重い空気から解放されて、俺にはその子が救世主のように見えてしまったのだ。

だから俺は、次の瞬間聞こえた親子と女子の会話に身を乗り出した。(もちろん心の中でだが)


「ほら、あかり、席ゆずってくれたお姉ちゃんにありがとうは?」

(どうやらこどもの名前はあかりというらしい)

「ありがとう、おねえちゃん!」

「どういたしまして」

「おねえちゃん、おなまえは?」

(?!)

「私?・・しは・・ろ・・かって言うの。」


あかり、グッジョブ!と思ったのも束の間、ちょうどの彼女が名前を言うタイミングで電車がガタガタと揺れ、肝心なところが聞き取れない。


「ひむろ、すずか?」

「そう」

「すずかおねえちゃん、ありがとう!」


おぉ!でかしたあかり!復唱してくれるとはなんて親切なんだ!

何かお礼したいくらいだが何の関わりもない俺がしゃしゃり出ていっても完全に不審者だろうな。

心の中での感謝に留めておこう。


それにしても、ひむろすずか、か。何か聞いたことある名前だな。やっぱり同じ学年かな…


「こらあかり、あんまり大きな声出さないの!他の人もいるところでは静かにって、今日お出かけする前ママと約束したでしょう?」

「うん、ごめんなさい。でもあかり、さっきはしずかにしてたでしょ?

 あ、そうだ、すずかおねえちゃん!あかり、さっきママといっしょにきれいなえをみてきたんだよ!」

「だからあかり、静かにって…」


何やら興奮したあかりは、母親の注意もむなしく、やはり大声ですずかに話しかける。


「もしかして、これ?」


すずかは近くにあったつり広告を指さした。


「そう!それ!」

「私もこの間見てきたばかりだよ。でも混んでる展覧会だから、人が多くて大変だったんじゃない?」

「でもあかり、がんばってみたよ!」

「そう、えらいね」


そう言って、すずかは微笑んだ。

(!!)


俺はこの時、救世主に恋したのだった。


残念ながら、ちょうどそのタイミングで俺の降りる駅に着いてしまったため、それ以降のすずか達の会話は聞けなかった。

しかし何か覚えのある「ひむろすずか」という名前と、美術館好きな真面目そうな子、という手がかりを得た俺は、早速試験休み明けから救世主捜索に乗り出した。


捜索は初日に速攻終了した。

何しろ休み明けに廊下に貼り出された成績順位表に、「氷室ひむろ涼香すずか」の名前を見つけたからだ。しかも、文系3位の該当欄に。


真面目そうとは思ったけども、本気の真面目だったのか!


涼香視点では阿呆っぽい感じの熱海ですが、実はいろいろ考えてます。

果たしてその心遣いは涼香に届くのか…!!


次回は涼香視点に戻ってお話が進みます。

ここまで読んで下さりありがとうございました!

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