12月28日③
へへ。引きましたか?『天使』なんて言ったことに。引いたでしょう。引かなきゃおかしいんです。でもあの子は天使としか言い様がないんです。名前で読んだ方がいいですか?いや!畏れ多い!やはり天使と呼ぶことにします。
天使は本当に可愛らしい方でした。顔も整っていましたし、何よりも清らかでした。彼女は僕と対極の存在と言ってもいいかもしれませんね。でも、ここまで僕の心を打った理由は彼女の顔です。へへ、かわいいのはさっき申し上げた通りですが、そこじゃないんですよ。分かってませんね。…天使の顔は僕の身を心から案じている顔でした。本当に僕の命が『危ない』って思って声を上げてくれたんです。だって、今までなかったんです。僕の存在を気にかけてくれる人は。皆僕を見てくれなかったんです。僕は思わず泣きましたよ。ありがとう。ありがとう。そう何度も呟いて橋をあとにしました。きっと天使は不思議そうな顔をしていたんでしょうね。 へへ、いい話でしょう。へへへ。それからは幸せな日々が続きました。はい。あの時が僕の最も幸せな時でした。バイト先も見つけました。僕は必死に生きましたよ。あんなに真剣だったことは今までなかったんじゃあないかな。考えていたことはただひとつでした。いつか、いつか天使様に会いたい。それだけでしたよ。へへ。そんなある日やっと定職に就けました。奇跡の様ですが、そうではないんです。この時の僕は希望を持っていたからです。新しく入った会社は害虫駆除をする消毒会社でした。給料は良くはありませんでしたがあの頃のような生活は送らずにすめるようになったのが嬉しくて。
そしてとうとう念願の天使様探しをはじめました。へへ。今なら胸を張って会える、そう思ったんです。運命ってやつは気まぐれに働きまして。なんと会えたんですよ。その日に。探し始めたその日に。へへ、へへ、へへへ。でもなかなか勇気がわかなくて…。結局話しかけることはできませんでしたよ。
へへ。暫く調べましてだんだん僕も天使様について分かってきました。彼女は僕の二つ年下で友人も非常に多く社内でのムードメーカーでもあり両親共に健在で実家には犬がいる一人っ子で現在は一人暮らし好きな色は白で毎日必ず朝のランニングをする
え?もういい?そんな!まだ話は終わってませんよ。え?4日前のこと?なんでそんないきなりそんな話をしなきゃならないんですか。嫌だ。嫌だ!話したくない!頭が…ダンゴムシ………分かりました。話します。そうですよね。あなた方は結局その事を知りたいだけ。僕の話を聞く気はない。へへ。馬鹿らし…
4日前、僕は、あの時、あれ?たしか…害虫…害虫駆除をしていました。街がやけにざわついていて、僕は、いつも通りあの場所で天使様を…お迎えしたら……すいません。休憩とりませんか?……頭が痛くて。…分かりました。続きを話します。続きを…。
気づいたら天使様のマンションの前に立っていて、虫籠…何で虫籠が!!ダンゴムシ…!僕は、持っていた虫籠を投げ捨てました。ダンゴムシたちがどうなったかは知らないし見たくもない。ピンポン…。鳴らすと出てきました。男です。「お前…どうして…」男は僕を知っているようでしたが、僕は、知りません。誰だ此のおとこは!?痛い!頭が!!頭が!!…僕は、構わず部屋の中に入り、ました…奥には天使様がいらっしゃいました。天使様はおっしゃった…「あなたなんて知らない!いや!近寄らないで!!!」ひどい。あんなにまで尽くして…どうしてこんな仕打ちを…。何故こんな所に僕はいたのでしょう…そうだ。害虫駆除をしに来たんです。「なんだかよくわからないが…一度外に出よう。な?」男…いや、害虫でした。害虫は駆除しなきゃならないんです。僕は、偶然持っていた鈍器で潰すことにしました。ドン!ドン!叩きつける度に害虫は「ガッ!ガッ!」と不快な音を立てます。そしてやがて音もなくなった…ついに駆除が完成した!『誇り』を取り戻せた!ついについに勝ったんだ…!僕は、天使様の前に立った。安心してください、と言った。僕は。天使様はおっしゃった。「あなたは誰なの!?……助けて……」天使様まで、天使様まで僕を消す。どうして!?
気づいたら公園にいた。一人だった。僕は天使様の一部を取り込んだ。彼女が傍を離れることは…もう、ない。ダンゴムシが……!




