審判(5)
ようやく最終回です(^д^;)
王子が去り、完全に元の真っ白い空間が訪れて間もなく、鉤爪が実に楽しげに言葉を投げかける。
「キャキャキャキャ! 裁判官が罪滅ぼしとはよく言うぜ。だいたい罪滅ぼしなんて言ったってただのマッチポンプじゃねぇかよ。予定になかった死神を出動させたのは兄貴自身だろうが」
内容とは裏腹に、。
兄貴と呼ばれた、真っ黒いローブで全身を覆い杖をついている老人は、この場に訪れる人間を裁くことの他にも、一人一人の体内に潜んでいる死神の動静をコントロールしている。彼が命令を送れば、死神は宿主を襲うことになっている。
鉤爪の言うように王子に潜んでいた死神を動かしたのも、当然彼である。
「確か予定では死神に狩らせるのは王女の魂だったはずだが」
直方体が疑問を口にする。
老人がコントロールしているからといって彼の意のままに魂を奪っていてはどうしても不都合が生じてくる。なので、なるべく影響が出ないようにするため、世界を動かす程の力を備えているものや、いずれそういった力を得るであろう人物の魂を奪うには、他の二人と共に慎重に議論を重ねるのが普通である。
その結果、王女が対象に選ばれたのである。
「確かにそうなのじゃが、何せそれを奴が退治してしもうたものでな。彼女に憑いとるのは当分機能せんよ。だったら代わりを用意せねばなるまい?」
「ならば、今回はひとまず置いておいて、今後の相手を審議するのが筋ではないのか?」
直方体は老人の独断に対して疑問を抱いているようである。彼が問題にするのはあくまでも本来の手順を踏まなかったということに関してであり、王子の事に関しては然程気にかけていないように伺える。
「おい、兄貴ぃ。てめぇまだ話してねぇことがあんだろう。言えよ」
老人に疑問を抱いていたのは鉤爪も同じで、しかし、その問いは直方体よりも核心を突くものであった。伊達に同じ血は流れていないということなのだろうか。
「気づいておったか。まぁ、すぐに見抜かれるとは思っておったがな」
「なら初めから言えよ、もったいぶらせんなクソが」
鉤爪の言葉に手荒く促されて老人が答える。罵詈雑言は基本的に無視するのが老人と直方体ののデフォルトなのだろう。
「色々と理由はあるが、まずは他人の死神に勝手に手を出したことの落とし前じゃ」
「他にはねぇのかよ? あんだろ」
「奴が突然気雑ったらしく『俺のそばから離れるな』などと抜かしおってイラっとなってしまってのぉ。若気の至りじゃ、ふぉっふぉっふぉっふぉ」
老人は悪びれる風もなく、それどころか自身の行いに一切の過ちを見出そうとしない。
「お前ももっと自分の立場を自覚しろ」
先刻直方体が言った「見た目と喋り方だけでは兄弟とは到底思えん」というのは、つまり「性格を考慮に入れれば兄弟然である」ということである。もっとも権限が備わっている分兄貴の方が極めて残酷ではあるのだが。
「てめぇとんでもないゲス野郎じゃねぇか! 権限があっても俺にゃそんなこと絶対できねぇよ」
鉤爪は非難しているようでいて、その実嗜虐的な笑みを浮かべて実に楽しそうである。
「こんなゲス野郎に感謝するなんて、あいつがかわいそうに思えてくるぐらいだぜ。しかしてめぇが死んだら間違いなく地獄行きだなキャキャキャキャキャキャキャキャ!」
「ふぉっふぉっふぉ……既に死んでおるがな」
二人のやり取りを傍観する直方体。最初は老人の独断について問い質そうとしていたのだが、あまりにも身勝手な理由で死神を発動させてしまったことにあきれてしまい、追及を諦めた。なんだかんだ言って老人は上司にあたるのだ。
どうしてこんな人物が上司なのだと、無意味で不謹慎な応酬を未だ続けている兄弟のそばで人知れずうなだれた。
その場の感情で魂を奪った老人の罪。これを滅ぼすかどうかを決める権利を、唯一有しているであろう王子の記憶は、既に滅びた。
故に、判決は出ない。永久に。
過去を振り返れば、ただただ出題されたワード及びジャンルを満たすということだけに注意が向いてしまい、ストーリー自体のテーマが全く表現できていない、というか存在していない、と我ながら思いました。
まぁ文章を作る練習の初歩の初歩という都合のいいポジシンでスルーして次に進みたいと思います。
いや、いかんでしょ。