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審判(4)

「本来ならこれより審議に入るのだが、その必要もないように思われる。よって今より判決を下す」


 頃合を見計らって老人が言う。


 急激に訪れた情報の奔流に脳が対応できず、その結果王子は善でも悪でもどうでもよくなってきていた。


「当人の魂は善である。両裁判官、異存はあるかね?」


「なし」


「ねぇよ」


 ある意味悪と言い渡されるよりは驚いた。判決など半ばどうなってもいいという気持ちだったのだが、ひとまず地獄を免れたことに深層では安堵していたのだろう。鉤爪に気づかれるほどには表情に現れていたようだ。


「まぁしかし、あれ以上ダラダラ喋られてたらどうなってたかわかんねぇがな。事情がどうであれそんなもの俺たち次第でどうにでもなる。何せ裁判官だからな。キャキャキャキャキャ!」


「お前ももっと自分の立場を自覚しろ」


 確かに鉤爪の発言は問題である。しかし当の本人は相も変わらず「うっせぇ」と毒を吐く。直方体はふと老人の方を見る。


 更生するのを既に諦めているのだろうか、老人は鉤爪の発言には触れず王子に話しかける。


「先ほどのような内容であれば残りの二回も恐らくは悪にはならぬのではなかろうか。あと二週間したらいい所に行くことになるであろう」


「なぁ、いい所って一体どんな所だよ?」


 どんな結果であろうと、先に何が待ち受けているかを知っていた方が安心の度合いが幾分違ってくる。また鉤爪に毒を吐かれそうだったが、そんなこと既にどうでもよくなっていたので聞いてみた。


「死後の事ではあるのだが、そのことに関しては行けばわかるとしか言えぬよ。どのみち説明したところで、ここでの記憶は7日後到着する場所にすら持っていけぬのじゃ」


 王子の予想に反して鉤爪が口を挟むことはなかった。


「そうかい。だったら聞いても仕方ないよな」


「そなたはこうしてこちらの世界におるが、魔人に勝った今、そなたらの国はきっと繁栄していくことであろう」


 老人の言葉には根拠があるのか、それともただの励ましのようなものなのだろうか。


「なんか悪いな、気ぃ使わせちまったかな?」


 王子は何となく後者なのではないかと考えた。


「気にするでない。ただの罪滅ぼしじゃよ」


「? よくわからんが優しいんだなあんた」


「クソが! いつまで無駄話してんだ。この会話も持ち越せねぇってのがわかってんのかゴルァ!」


 しびれを切らせた鉤爪が荒々しくがなる。


「あぁ、すまん。わかってはいるんだがついつい話しちまうんだよ」


「ふむ、そうじゃな。そろそろ」


 ここで老人は長方形に話しかける。


「準備を」


「その時間なら十分に頂戴している」


 気が付けば見渡す限りに真っ白だった空間、その一部が人が一人通れるぐらいの穴を穿っている。その穴は異なる濃度の黒がまだらに蠢いている。その様が周りとのコントラストで以て不気味さをより一層増している。


 直方体はいつ取り出したのか右手に鍵を握っていた。くすんだ鉄の鍵で、頭部には全く装飾は施されておらず、反対側は防犯には使えなさそうな単純な作りである。それは、この穴を開くための鍵だろう。


 長方形は王子に説明する。


「ここを通れば次へ行くことができる。ここに一歩でも踏み入ると、次の場所までの7日間は意識を持つことはできない。問題はあるまい、意識がないのだからな」


「ははは、もっともだ」


 王子は軽く笑いながら答える。説明の間に次第に踏ん切りがついてきたようだ。


「ここでの記憶を失うというのは痛し痒しといった所か?」


 王子は一言「んー」と漏らした後少しばかり思案した末に言った。


「最後になっちまったけどここでなくなる記憶でも、あんな結果だったとしても、あっちの世界の事知れて、やっぱりよかったんだと思うよ。最後の最後にそう思えた。ありがとな。それじゃ」


 ほんの少しばかり靄の取り除かれた内心を吐露すると、早々に別れの言葉を継げた。


「それでは」


「それではの」


「じゃあな、伝説の脇役さんよ。キャキャキャキャ」


 王子は怪しく蠢く黒に身を預けるようにしてその一歩を踏み出した。

最後のお題を無事回収し終えたですが、まだまだ続きます。

この場合の"まだまだ続く"というのはちょっと前のテレビ番組のようにさほど続かないまだまだ続くですw

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