告白(3)
死神ってのは、どんな人間にでも一人に一体だけ潜んでいると言われてる。見た目については今更説明する必要もないだろう?
普段は一切それを認識することはないんだが、何かのきっかけで突然現れて、今みたいなやり方で魂を奪っていくんだ。
魂を奪われた人間は、それまでどんなに健康でも、体に一切の損傷がなくても死んだのと全く同じ状態になるんだ。
また、ある人から出た死神が別の人を襲うことはない。
我を取り戻した彼女は俺の腕の中だ。唐突に告白された次の瞬間これだ。本当に最高の気分、最悪のタイミングだよ。
でも、そんなこと悠長に言っていられる余裕などない。
彼女を急いで起き上がらせた俺は、、死神と距離を取って対峙した。彼女は俺の後ろにいる。
「王女様、お怪我はありませんか?」
俺は彼女に背を向けたまま確認した。
「ええ……。何とか」
とりあえずは一安心だ。本当ならすぐにでもちゃんと無事を確認したかったけど、奴から目を離すわけにもいかない。
俺は腰に下げた鞘から護身用の短剣を取り出し片手で構え、奴を睨めつけた。
死神は何やら様子をうかがっているようで、じっと俺たちの方を見たまま何もしようとしてこない。それがかえって一層不気味なものに映ったよ。
だからってこいつから逃げることはできない。魔人と違って、こいつはやり過ごせる相手じゃない。排除するまではいつまでも獲物にまとわりついて、その隙を今か今かと狙ってるんだ。そもそも排除自体できるかどうかもよくわからないんだ。
でも何もやらなきゃ確実に彼女の魂はあいつに連れて行かれる。だったら戦うしかないだろう?
実際何度か死神に襲われてる人を見たことがあったのだが、彼らは決まって、無抵抗のままに魂を奪われていくんだ。周りの人間も別段何をするでもなく彼らの最期を看取るんだ。
でもそれは決して薄情だとかそういうものじゃない。
俺たちの国で生まれて生活してれば「影が遊離したら最期、死は不可避」っていう、諦めにも似たような覚悟は自然と培われていくんだ。
だけど、今の自分にはそういう風に振る舞うことがどうしてもできなかった。
彼女はまだまだ若い。決して人並ではないが幸せな家庭、両国の繁栄、魔人討伐、残されていることはまだまだたくさんある。
もちろんそれも大事だが……。
まだ返事が聞けていない。
そう思った途端、今更ながらそれを聞く覚悟ができた。
なんというか、色々なことが起こりすぎて、ほんの少しだけ頭が変になってたんだろう。
「ハハハ、なんて野暮な死神だ。王女様。先ほどの返事は邪魔者がいなくなった後にもう一度お聞かせください。ですから……。」
きっと、だからなのだろう。
「俺のそばから離れるな」
そんな恥ずかしいことをさらっと言ってしまったのは。
こちらも感情のままに言ってしまったことだが、先ほどの告白と違って後悔なんてものは微塵も感じちゃいない。
彼女が「はい」って言ったのが聞こえたよ。背を向けたままだったから表情まではわからなかったがな。
しばらく膠着状態が続いたが、死神の方から動き出した。