婚約破棄されたので、王子殿下に次の婚約者を探して差し上げましょう
「アデライード・ロシュフォール。お前との婚約を破棄する!」
王宮の夜会で、王太子レオニスはそう宣言した。
理由は、彼が愛する伯爵令嬢ミレイユを、アデライードが虐げたというものだった。
しかし、アデライードは驚かなかった。
「承知いたしました」
あまりにもあっさりした返事に、王太子は拍子抜けした顔をする。
「……それだけか?」
「はい。ところで、殿下」
アデライードは扇を閉じた。
「次の婚約者は、もうお決まりですか?」
「何?」
「王太子妃教育を受けた者が必要でしょう。王宮のしきたり、外交、貴族間の調整。私が担当していた仕事は少なくありません」
「そんなもの、ミレイユが覚えればよい!」
ミレイユは慌てて首を振った。
「わ、私は……そのような難しいことは……」
アデライードは微笑んだ。
「そうですか。では、殿下のご希望に合う方を探して差し上げましょう」
「余計なことをするな!」
「いいえ。婚約者を失った王太子殿下が、次の婚約者を見つけられないのは大変な問題ですもの」
こうして、アデライードは王太子の次の婚約者候補を探すことになった。
彼女が選んだのは、王宮の仕事を熟知した侯爵令嬢。
外交に優れた伯爵令嬢。
財務に明るい公爵令嬢。
どの候補も、王太子妃として申し分ない人物ばかりだった。
しかし、候補者たちは王太子との面談を終えるたびに、次々と辞退していく。
「殿下は、私の話を聞いてくださいませんでした」
「王太子妃の仕事を、すべて私に任せるおつもりのようです」
「……そもそも、あの方は王太子妃に何を求めていらっしゃるのでしょう?」
アデライードは、候補者たちの報告を聞きながら首を傾げた。
「困りましたわね。殿下のお好みを伺っても、ミレイユ様のような方としかお答えにならないのですもの」
一方、王太子は候補者が次々と辞退することに苛立っていた。
「なぜ誰も私の婚約者になろうとしないのだ!」
アデライードは答える。
「皆様、殿下のことをよく理解なさったのでしょう」
「どういう意味だ!」
「殿下の隣に立つことが、どれほど大変なのか、という意味ですわ」
そして、ついに最後の候補者との面談の日がやってきた。
王太子は、これまでの候補者たちのように断られることを恐れ、必死に笑顔を作った。
しかし、面談を終えた令嬢は、アデライードにこう告げた。
「申し訳ございません。私には、あの方を支えることはできません」
アデライードは深く頷いた。
「そうですか。では、これで候補者は全員辞退なさったことになりますわね」
王太子は顔を真っ赤にした。
「アデライード! お前は一体、何をしたのだ!」
彼女は微笑んだ。
「私は、殿下にふさわしい婚約者を探しただけですわ」
「ふざけるな!」
「ですが、殿下」
アデライードは、静かに言った。
「婚約破棄をなさったのは、殿下です」
王太子は言葉を失った。
アデライードは一礼し、王宮を後にする。
彼女の背後では、王太子が次の婚約者を探すために、慌ただしく側近たちへ指示を出していた。
けれど、もう彼女には関係ない。
婚約破棄された令嬢は、ようやく自分の人生を歩き始めたのだった。




