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第三話

顔を上げ、私はチラリとフェリクス殿下の横に立つ人物に視線を向けた。

フッと口角を僅かに上げた少女は、そっとフェリクス殿下の袖を引いた。




「ビビ、大丈夫だよ」




普段、私に向けられる声とは違う。

甘さを含んだ声音だった。

少女の手に自らの手を重ねた殿下は、そのまま鋭く私を睨みつける。




「エリザベス!貴様は公爵令嬢という身分を笠に着て、ここにいるビビ…ビビアン嬢を、いじめたそうだな!」




自分の正義を振り翳す殿下は、それが間違いだとは思っていない。




「ビビアン嬢は、貴様の様な冷酷な態度とは違い、陽だまりの様な明るさで、私を癒してくれた!」




正々堂々と浮気発言をする殿下に、周囲の見る目が冷たい。




「そんな彼女を傷付けるとはーー、一体どういうつもりだ!」




フェリクス殿下の言葉が、パーティホールに重く落ちた。

空気は張り詰め、騒めきすら息を潜める。

貴族たちは、誰一人として声を上げない。

視線だけが、私と殿下、そしてーー、殿下の腕に縋る少女へと行き交っていた。


私は答えず、ただ静かにその場に立つ。


その沈黙を、好機と捉えたのだろう。

扇の向こうで、側妃殿下はゆっくりと目を細めていた。


陛下の隣に座る側妃殿下。

正妃殿下は、出産の折に生まれた御子と共に亡くなられた。

それ以来、王宮における女性たちの頂点に立つお方。



ーー憐れむ様に

ーー見下す様に



やはり、愛されなかったのね。




そんな声が、扇の奥から聞こえてくる気がした。

私はその視線を、正面から受け止め、小さく息を吸った。

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