第十四話
どよめきが、波のように会場全体を包み込む。先程までそこにいた、か弱そうな銀髪の少女の面影はもうどこにもなかった。背筋をまっすぐに伸ばし、微動だにせず立つその姿は凛としていて、否応なく視線を惹きつける。空気そのものが、彼を中心に張り詰めていくのがわかった。
「……は?」
フェリクス殿下が、完全に固まった。だが何かを探すように視線を彷徨わせ、あたりをきょろきょろと見回す。
無駄なことを。
そんなことをしても、もう“ビビ”はどこにもいないわ。
私は手にしていた扇を、ぱちりと開いた。殿下の動揺は、正直、想像以上だ。込み上げる可笑しさに、どうしても口角が上がってしまうのを抑えきれない。
ビビ――否。
彼は一度だけ深く息を吸い込み、陛下の方へと向き直った。
「改めまして」
低く、よく通る声。先程までの少女らしさは一切ない。
「ヴィクトル・ゼノ・レガリア。陛下の御前に参上致しました」
恭しく頭を垂れた、その瞬間。名を聞いた貴族たちが、一斉に息を呑むのが肌で伝わってきた。
――レガリア。
それは、王家の直系にのみ許された名。もちろん、フェリクス殿下もつい先程までは「フェリクス・ゼノ・レガリア」と名乗っていたけれど。
「……馬鹿な……」
掠れた声が漏れた。それはフェリクス殿下ではなく、側妃殿下の親族のひとりだった。陛下は静かに頷き、重々しく口を開いた。




