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第37話 あなたに出会えてよかった

「お母さま、待ってよー!」





 ――――数年の月日が流れた。





 王都はユリウスさまが統治する新体制の下、目覚ましい発展を遂げ、民の暮らしは豊かになり、誰もが希望に満ちた顔で暮らしている。





 王都に植えられた色とりどりのバラは今や見事に咲き誇り、この国は『バラの都』として、内外にその美しさを知らしめている。





 わたしは王妃として、ユリウスさまを支え、そして、この国の民の幸せのために日々力を尽くしていた。





 初夏のある日、わたしは成長した娘の手を引き、王宮の庭園を散策していた。



 娘はユリウスさまによく似た金色の髪と碧い瞳を持ち、愛らしい笑顔で庭園を駆け回っている。その姿を見るたびに、わたしの胸は温かい喜びで満たされた。




「お母さま、見て! ちょうちょよ!」




 娘が楽しそうに蝶を追いかける。

 その無邪気な声にわたしは優しく微笑んだ。




「ええ、とても綺麗ですね」




 わたしは娘の小さな手を握り、ゆっくりと歩き続けた。

 庭園に咲き誇るバラの香りが風に乗ってわたしたちを包み込む。





 (まさか、こんな日が来るなんて……)





 わたしは過去の苦しみを思い出しながらも、今の幸せを噛みしめていた。


 婚約者は妹に奪われ、家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたあの日々。



 あのとき、わたしはすべてを失ったと思っていた。



 けれど、あの裏切りがわたしに本当の幸せを見つけるきっかけを与えてくれたのだ。



「セレナ」



 背後から聞き慣れた声がした。


 振り返るとユリウスさまが公務の合間を縫って、わたしたちのもとへと駆け寄ってきてくださった。


 彼の顔には王としての威厳とともにわたしと娘に対する、限りない愛情が満ち溢れている。




「お父さま!」




 娘がユリウスさまに駆け寄っていく。


 ユリウスさまは娘を軽々と抱き上げ、その頬に優しくキスをした。

 その光景はわたしにとって、なによりも尊いものだった。




 ユリウスさまは娘を抱きながら、わたしの隣に寄り添って歩いた。




「今日はずいぶんゆっくりできたようだな」

「はい。娘と庭園を散策できて、心休まるひとときでした」

「そうか。君が楽しそうで、俺も嬉しい」



 彼はそう言って、わたしの手をそっと握ってくれた。



(あのとき、あなたに出会えてよかった)



 わたしは、心の中でユリウスさまに語りかけた。

 雨の中、倒れ伏したわたしを救い出してくれたのは彼だった。



 そして、わたしに新しい人生の道を指し示し、王妃として、この国の民を支える機会を与えてくれた。彼の揺るぎない愛と信頼がわたしを強くし、ここまで導いてくれたのだ。



「セレナ」



 ユリウスさまがわたしの名を呼んだ。



「これからも、ともに歩もう。この国の未来のために。そして、俺たちの家族のために」




 彼の言葉にわたしは静かに頷いた。

 彼の瞳には未来への希望とわたしへの深い愛が宿っている。



 わたしは娘を抱きしめるユリウスさまの腕にそっと自分の腕を絡ませた。

 そして、彼の肩に頭を預け、静かに語り出した。




「ユリウスさま」




 わたしの声にユリウスさまが優しくわたしの頭を撫でる。




「わたし、あの日の舞踏会を今でも鮮明に覚えています」




 ユリウスさまの腕の中でわたしは目を閉じた。

 あの裏切りと屈辱に満ちた夜の記憶がまぶたの裏に蘇る。



「レオナルドさまに婚約破棄を突きつけられ、リリアナに勝ち誇られて……父に『家門の恥』と罵られ、修道院送りを言い渡された、あの絶望的な夜のことです」



 わたしの言葉にユリウスさまの腕が少しだけ強くなった。

 彼もまた、わたしの過去の苦しみを知っている。



「あのとき、わたしはすべてを失ったと思いました。もう、わたしの居場所などどこにもないのだと……」




 わたしは涙声になってしまう、けれど悲しみの涙ではないことはユリウスさまも娘もわかっていた。




「でも……その絶望の淵で、わたしはあなたに出会うことができました」




 わたしはそっと顔を上げ、ユリウスさまの目を見つめた。

 彼の碧い瞳は温かく、わたしを包み込む。




「あなたはわたしに本当の希望を与えてくださった。孤独なわたしに温かい居場所と真の家族を与えてくださった」




 わたしの目から大粒の涙が止めどなく溢れ落ちる。




「あなたがわたしを信じてくださったから。わたしを身分や外面ではなく、1人の人間としてその知性や心を愛してくださったから」




 ユリウスさまはなにも言わず、ただ、わたしの涙をそっと指で拭ってくれた。




「たとえ、過去にどんなに裏切られても、わたしは愛される人生を歩める。だって、わたしはあの日、あなたに出会ったのだから」



 わたしの言葉にユリウスさまが深く、優しく微笑んだ。



「ああ、セレナ。君に出会えてよかった。本当にそう思う」



 彼はわたしと娘をさらに強く抱きしめた。

 彼の腕の中でわたしはこれまでの人生で最も満たされた幸福を感じていた。



 わたしはもう孤独ではない。

 愛する夫と愛しい娘、そして、この国を愛する多くの人々がわたしのそばにいてくれる。



「これからもこの幸せをともに育んでいこう。セレナ」



 ユリウスさまの声は深く、わたしに語りかける。



「はい、ユリウスさま。永遠に」



 この秘密の花園で交わした誓いが確かな現実として、わたしたちの未来を照らしている。



「お母さまとお父さま、イチャイチャ」

「あらあら。イチャイチャなんて言葉どこで覚えたんでしょうね」

「誰だ。俺の娘にそんな言葉を教えたヤツは」



 街に咲くバラのようにわたしの人生もまた、美しく咲き誇っている。

 まるでわたしたちの未来を祝福するかのように。



「ルイスくんだよ、お父さま」

「あいつ……」

「怒っちゃダメだよ――――って言ってほしいってお願いされちゃった」




 わたしたちの物語はこれからも続いていく。




 この国の未来を。

 そして、わたしたちの家族の幸せをこの手で掴み取るために。

お読みいただきありがとうございました!


これにて物語は完結です!


もしよろしければ、


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をしていただけると、次回作への創作意欲が湧いて、うれしいです!


よろしくお願いします!

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