第24話 レオナルドの大転落
次にレオナルドに対する判決が下された。
「レオナルド・アルバレスト。貴様はその優柔不断な態度が今回の事件を助長し、王子の婚約者への侮辱にも加担した。アルバレスト公爵家の嫡男としての責任を放棄し、王家の権威を損ねた罪は重い」
「い、いやだ……! お許しください……!」
彼はその場で膝をつき、必死に命乞いをする。
「よって、レオナルド・アルバレストは騎士団を解雇し、その他の職も解任。もう二度と王宮に踏み込むでない」
レオナルドの絶望した叫びが広間に響き渡る。
彼もまた、すべてを失ったのだ。
そして、わたしの両親、カーライル侯爵夫妻の番になった。
「カーライル侯爵夫妻。貴君らは娘であるリリアナの暴挙を知りながら、あるいは知り得たにもかかわらず、これを容認、あるいは黙認し、王家の名誉を傷つけた。その罪は一族の長として、深く反省すべきものである」
父は顔面蒼白になり、継母は完全に精神を病んでしまったようで、その場にぐったりと座り込んでいる。
彼女はもう、言葉を発することもできないらしい。
(なんて無責任な人……)
「よって、カーライル侯爵夫妻は爵位を剥奪。領地は没収し、無期限の蟄居を命じる」
事実上の幽閉だ。
彼らはすべてを失い、世間から隔絶された場所で残りの人生を過ごすことになる。
その判決を聞いたとき、わたしの心は驚くほど冷静だった。
喜びも、憎しみも、沸き上がらなかった。
ただ、彼らが犯した罪の重さ、そして、それがもたらした当然の報いだと感じただけだ。
彼らはなにもを顧みることなく、リリアナを溺愛した結果、すべてを失った。
自業自得。
その一言に尽きる。
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あれから1週間。
王都の街角で、わたしはリリアナの姿を見かけた。
彼女はかつての華やかなドレスではなく、粗末な布地の服を身につけ、街の人々に施しを乞うていた。
その顔はやつれ、目には生気がなく、まるで別人のようだった。
かつて『天使のような外見』と称された面影は、見る影もない。
「……リリアナ」
わたしは思わず声を漏らしそうになったが、寸前で思いとどまった。
彼女はわたしに気づいていない。
「ねえ、そこのお嬢さん! なにか、恵んでいただけませんか……? わたくし、なにも食べていなくて……」
彼女は通りすがりの若い娘に声をかけていた。
その声はかつての愛らしい響きとは違い、か細く、そして、どこか傲慢さが滲んでいた。
「あなた、どこかで見たことあるわね……あ、もしかして、あのリリアナさま?」
若い娘が訝しげな表情でリリアナを見た。
「ええ、そうですわ! わたくし、カーライル侯爵家のリリアナですわ! どうか、わたくしに、施しを……」
リリアナは必死にそう言った。
だが、娘はすぐに顔を背けた。
「あの、王子妃さまを貶めようとした、ひどいリリアナさまですって⁉ あなたのような悪い人にあげるものなんてありませんわ!」
娘はそう言って、足早に立ち去っていった。
「な、なんですって⁉ この庶民がわたくしに向かって……!」
リリアナは娘の背中に向かって、怒鳴りつけた。
その声には反省の色など微塵もない。
庶民を見下していた自分が施しを乞う立場になったことを未だに受け入れられないでいるのだ。
彼女は自分がなぜこんな目に遭っているのかをまったく理解していないようだった。
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その日の夕方、街を歩いていると、再びリリアナの姿を見かけた。
今度は泥だらけになり、道の隅でうずくまっていた。
彼女の周りには、野次馬たちが集まり、ひそひそと噂話をしていた。
「あれが、あの悪名高いリリアナさまか……」
「自業自得だ。王子妃さまにあんな真似をしたんだから、当然の報いだ」
「結局、ああいうやつは、どこに行っても変わらないんだな」
民衆の言葉は冷たく、そして容赦なかった。
(民は味方でいてくれるときは気持ちのいいことを言ってくれるけど、敵になった途端に容赦のない言葉をぶつけてくるのよね)
リリアナはその言葉を耳にしながらも、ただ俯いているだけだ。
もはや、反論する気力もないのだろう。
そこにレオナルドが駆け寄ってくるのが見えた。
彼もまた、以前の面影はなく、やつれ果てた姿だった。
「リリアナ! 大丈夫か⁉ こんなところで……」
レオナルドはリリアナの肩を抱き起こそうとした。
「レオナルドさま……! なぜ、わたくしがこんな目に……! お姉さまのせいですわ! お姉さまがわたくしをこんな目に合わせたのですわ!」
リリアナはレオナルドの腕の中で、わたしのことを恨めしそうに叫んだ。
その言葉はまるで子どもの駄々っ子のようだ。
彼らの口から、未だにわたしへの憎しみが吐き出される。
(離れた距離から眺めているのがバレてしまったらさらに面倒なことになりそうね)
わたしはさらにもっと離れた場所から聞き耳を立てることにした。
「そうだよ、リリアナ! すべて、セレナのせいだ! あいつが、僕らをこんな状況に追い込んだんだ!」
レオナルドもまた、リリアナに同調するようにわたしへの恨み言を口にする。
彼は最後まで自分自身で責任を取ろうとしない。
他人に依存し、他人のせいにする。
それが彼の本質だった。
(本当に、どうしようもない人たちだわ)
わたしはそう思った。
彼らへの怒りも、憎しみも、もうほとんど残っていない。
ただ、ひたすらに哀れだと感じた。
彼らはどれほど惨めな状況になっても、自分たちの罪を認めず、誰かのせいにして、責任転嫁を繰り返す。
そのとき、ユリウスさまがわたしの隣に立ち、静かに囁いた。
「君に見せる必要はない」
彼の言葉にわたしはハッと顔を上げた。
わたしの表情にレオナルドとリリアナへの嫌悪感が滲み出ていたのだろうか。
「彼らは君の人生にはもう関係のない人間だ」
ユリウスさまはわたしの肩をそっと抱き寄せ、優しく背を向けさせた。
彼の温かい腕の中で、わたしは彼らの情けない姿から目を背けた。
「……もう関わらない」
わたしは静かに呟いた。
その言葉は彼らへの最後の決別だった。
自業自得の姿にわたしはもうなにも言うことはない。
彼らは自分たちの選んだ道の結果を受け入れるしかないのだ。
「さようなら……」
王都の夕闇がリリアナとレオナルドの情けない姿を包み込んでいく。
彼らの叫び声はやがて夜の闇に溶けていった。




