第20話 公開裁判~断罪の時~ 前編
『す、すべてリリアナの指示で王宮に忍び込みました。認めます……』
レオナルドはそう自白したらしい。
彼が王宮で捕らえられ、その背後にリリアナの影があることが明らかになったことをルイスさんとアルベルトさん経由で知った。
『し、侵入経路は……じ、自力ですよ!』
『衛兵を買収したんです! 本当です!』
『信じてください!』
侵入経路については未だに明らかになっていないが、今のところはレオナルドの単独犯ということになっている。
「そんなわけないわよね……」
「俺もそう思う」
「そうですよね」
ユリウスさまもなんらかの支援がなければ王宮への侵入など到底できないと考えている。
だが、決定的な証拠がないので捜査をするわけにはいかず、この件に関してはいったん判断を先延ばしにすることになった。
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その数日後、王都を揺るがす重大な発表があった。
国王の命により、王都の民を前にして、公開裁判が開かれることになったのだ。
今回の事件が王子の婚約者という王家に関わる問題であること、そして、その裏に卑劣な陰謀が渦巻いていたことがすでに民衆の間にも広まり始めていた。
王城前の広場には早朝から多くの民衆が集まっていた。
普段は貴族しか立ち入ることのできない広場にこれほど多くの市民が集まるのは異例のことだ。
彼らの間には怒りとそして真実を知りたいという熱気が渦巻いている。
わたしはユリウスさまの隣に立ち、その光景を静かに見つめていた。
市民のざわめきがまるで遠い波のように聞こえる。
そして、裁判の壇上に囚われた者たちが引き出されてきた。
「は、はぁ……」
まず現れたのは元婚約者のレオナルドだ。
彼は以前の貴族としての矜持など見る影もなく、憔悴しきった顔で衛兵に引きずられてきた。
「な、痛いですわ! やめてくださいまし!」
その隣には強制的に王都へ呼び出されたリリアナが立っていた。
彼女の顔はひどく青ざめているが、その瞳の奥にはまだわずかな抵抗の色が見て取れた。
「ひいいいい! どうしてこうなったんだ⁉」
そして、その背後にはかつての家族であるわたしの父、エドワード・フォン・カーライル侯爵と継母のアナスタシアが立っている。
彼らもまた顔色が悪く、事態の重大さに震えているようだった。
裁判は国王陛下の厳かな言葉で始まった。
「ゴホッゴホッ」
陛下の体調が芳しくないことは常々聞いていた。
だが、今回は事の重大さから、国王自ら裁判を執り行うとおっしゃられたのだから、止めようもない。
(申し訳ないわ……)
「本日、この場において、王家の名誉を傷つけ、未来の王妃……王子妃を貶めようとした者たちの罪を裁く。すべての民に真実を明らかにするため、ここに公開裁判を開廷する」
「セレナ。陛下は先ほど『王妃』って言いかけたな……」
「はい。事前にこちらで用意した原稿を読んでもらう予定でしたが、体調がよろしくないのか内容が頭に入ってこない模様です」
「止めた方がいいが……止めても続けるからな。あの人は……」
一瞬、ユリウスさまに王位を譲りたいという意思が思わず零れ出てしまった陛下。
このまま何事もなく進めばいいのだけれど。
「罪人の名前と罪状に関して、裁判官の私から話させていただきます」
厳かな雰囲気をまとった中年の裁判官はリリアナに鋭い視線を送りつける。
「リリアナ・フォン・カーライル。貴様は第二王子ユリウス・フォン・ローゼンハイム殿下の婚約者であるセレナ・ローゼリア・フォン・カーライル嬢に対し、不正の噂を流布し、虚偽の証言をさせ、その名誉を傷つけようとした罪を問われている。事実を認めよ」
裁判官の厳しい声にリリアナはわずかに身を震わせたが、すぐに顔を上げた。
その顔にはいつもの愛らしい笑顔が浮かんでいる。
「いいえ、存じませんわ。わたくし、そのようなことは一切行っておりません。お姉さまの幸せを心から願っておりますもの」
彼女はしおらしく、しかし堂々と容疑を否定した。
その声は震えることなく、むしろ清らかな響きすら帯びている。
まるで、自分こそが被害者であるかのように振る舞うその姿にわたしは思わずため息を漏らした。
この期に及んでも演技を続けるのかと。
次にレオナルドが尋問される。
「レオナルド・アルバレスト。貴様はリリアナ・フォン・カーライルと共謀し、セレナ嬢への陰謀に加担した罪を問われている。事実を認めよ」
レオナルドはリリアナにちらりと視線を送り、彼女に急かされるように口を開いた。
「わ、私も……なにも知りません。リリアナ嬢に誘われたとはいえ、まさかこのような大事になるとは……」
彼はしどろもどろになりながら、必死に否定しようとする。
しかし、その言葉には責任をリリアナに転嫁しようとする意図が透けて見えた。
「ふざけるな! お前、女に罪を擦りつけるつもりかよ!」
「軟弱者が!」
「卑怯だろ!」
その優柔不断な態度に民衆の間からブーイングが起こる。
そして、わたしの両親が尋問台に立った。
「カーライル侯爵夫妻。貴君らは娘であるリリアナ・フォン・カーライルの暴挙を知りながら、あるいは知り得たにもかかわらず、これを容認、あるいは黙認した罪を問われている。事実を認めよ」
父は顔色をさらに悪くして、震える声で言った。
「わ、我々は……本当になにも知りませんでした。娘がそのようなことをしていたとは、夢にも……」
「アナスタシア侯爵邸夫人はどうですか?」




