第18話 密告書のありか。犯人は……
ユリウスさまはすぐに側近たちに新たな指示を出し、リリアナの周辺を徹底的に洗い直すよう命じた。
数日後、ユリウスさまのもとに決定的な証拠が届けられた。
リリアナが侍女たちに金銭を渡して虚偽の証言をさせた記録。
匿名の密告書をばらまかせた指示書。
――――そして、レオナルドまでもがその企みに加担していた証拠も。
「セレナ、君の言う通りだった」
ユリウスさまはわたしにそう告げた。
彼の顔には疲労の色が浮かんでいたが、その瞳はわたしへの信頼と真実を明らかにしたことへの確かな光を湛えていた。
「すまない……」
なぜか謝るユリウスさま。
理由はわからない。
「え?」
「事の重大さからもわかるがリリアナにはそれ相応の罰を下す必要がある」
「承知しております。それと謝罪にはどんな関係が……」
「――――姉妹の関係がこじれるかもしれない」
「ああ……」
彼はこれ以上姉妹の関係がこじれないように配慮してくれている。
「すでに修復不可能な関係です。ユリウスさまはお気になさらないでください」
少し言い方が冷たかっただろうか。
自分は昔からそうだった。
だから、勘違いされて、後ろ指を指されてきた。
でも、わたしは本心からユリウスさまに悩まないでほしいと思っている。
「す、すみません。きつい言い方に――――」
すると、ユリウスさまはわたしの頭をそっと撫でた。
「セレナの優しさは十分理解している。ありがとう――――だが、この件について。せめてリリアナへの警告は俺にやらせてほしい」
彼がそう言うので、わたしは頷いた。
彼なりの配慮なのだろう。
本心からわたしが家族との確執を深めることを望んでいないのだ。
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その日の夜、ユリウスさまはリリアナとレオナルド、そして彼らの後ろ盾となっていたわたしの両親……つまり、侯爵夫妻を王宮の一室に呼び出した。
「お、お久しゅうございます。で、殿下……」
彼らの顔は明らかにこわばっていた。
すでに、ユリウスさまが真実を掴んでいることを察しているのだろう。
「リリアナ・フォン・カーライル、レオナルド・アルバレスト。そして、カーライル侯爵夫妻」
ユリウスさまの声が静かな部屋に響き渡る。
その声は普段の穏やかな口調とは打って変わって、氷のように冷たく、威圧的だった。
「お前たちがセレナを陥れるために、卑劣な陰謀を企てたことはすべて明らかになっている」
リリアナは一瞬怯んだがすぐにいつものように媚びるような笑顔を作った。
「あら、ユリウスさま。なにを仰いますの? わたくし、お姉さまの幸せを心から願っておりますのに……」
彼女はしおらしくそう言いながら、ユリウスさまの腕に触れようとした。
だが、ユリウスさまは冷たい視線を向けたまま、その手を払いのけた。
「無駄な真似はよせ。すべての証拠は揃っている。お前が侍女に虚偽の証言をさせ、匿名の密告書をばらまかせたことも、レオナルドがそれに加担したことも、すべてな」
リリアナの顔から、一瞬にして血の気が引いた。
レオナルドもまた、青ざめた顔で震えている。
「そ、そんな……わたくしは、なにも……!」
リリアナは必死に否定しようとする。
だが、ユリウスさまは容赦なく言葉を続けた。
「嘘をつけば、お前たちが消えるだけだ」
ユリウスさまの声は地を這うような低い響きを持っていた。
その言葉には、一切の感情が込められていない。
それは慈悲のかけらもない、冷酷な宣告だった。
リリアナはその雰囲気に圧倒され、全身を震わせた。
ぶりっこをする暇も涙を流して同情を引くこともできない。
彼女の顔は恐怖と絶望で歪んでいた。
「ひっ……!」
リリアナはとうとう声を上げ、その場に崩れ落ちた。
大粒の涙が止めどなく頬を伝っていく。
それは演技の涙ではない。
真実が暴かれ、全てを失うことへの純粋な恐怖と絶望からくる涙だった。
レオナルドもまた、膝から崩れ落ち、頭を抱えている。
侯爵夫妻は我が身に何が起こるのかと、顔面蒼白になりながら、頭を地面にこすりつけていた。
ユリウスさまは彼らを一瞥すると、わたしに目を向けた。
その瞳にはわたしへの深い愛とすべてを終わらせたことへの安堵が宿っていた。
「これで、大丈夫だ」
彼の言葉にわたしは深く頷いた。
長きにわたる悪夢がようやく終わったのだ。




