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ダイヤモンドの心  作者: 彩霞


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5/5

第5話 それそれの見方

 すると朝倉は驚いて目を丸くする。


「え⁉ 粉々になるんですか⁉」


「ええ」


 深山はあっさりと頷く。


「硬いのに……ええ? 何で? それよりも、粉々になっちゃうなら、ダイヤモンドの心なんて目指しちゃダメなんじゃないですか……? ブロークンハートになっちゃいますよ」


 心配そうに言うので、深山は首を傾げた。


「何言ってるんですか。ダイヤモンドが粉々に砕けるから、磨けるんですよ」


「どういうことです……?」


 朝倉はきゅっと眉を寄せる。

 深山が自分で話し始めたのが悪いのだが、内心「ちょっと面倒くさいな……」と思いながら、黒板を拭く手を止めて説明をした。


「ダイヤモンドを磨いているのは、ダイヤモンドの粉末なんですよ。ですから、粉々になるからこそ意味があるんです」


「……」


 しかし、朝倉の表情はぱっとしない。多分、きらきらと輝くダイヤモンドにこそ価値があると彼女は思っているのだろう。

 確かに「宝石」として並べたら、粉々になったダイヤモンドには何の価値もない。ただのくずである。

 だが「鉱石」という部類に入れれば、それは別の輝きを放つ。


「ダイヤモンドも、全てが美しい宝石になるわけではありません。あれは選び抜かれた品質の良いものをカットして磨いて、この世に出しているんです。採掘したうちの二割しか宝石にはならないとも聞きます。でも、ダイヤモンドは他にも色んな用途がある。自然界で一番硬いので、先ほども言ったように工業用品にも使われていますし、建築現場では『ダイヤモンドカッター』と言って、石材などを切るのにも使われています。身近なもので言えば、包丁研ぎにもなっているんですよ。ですから、ダイヤモンドが持ついいところを受け取って、自分の心に投影すればいいんです。要は、心の持ちようです」


「言われてみれば、そうですね……」


 納得したのかどうかは分からないが、朝倉は頷く。深山はそれを横目で見ると、自分は黒板消しをクリーナーにかけて、仕上げに全体をきれいにいていく。


「むしろ生活の方で役に立っているのは、粉末状になったダイヤモンドじゃないでしょうかね。今はレーザーの技術でカットも研磨もすることがありますが、それ以外であればダイヤモンドはダイヤモンドでしか磨けないんです。それって、まるで人間の心みたいだと思いません?」


「どうしてですか?」


「他人の影響はあるにしても、自分でしか、自分のことは磨けないじゃないですか」


 すると、朝倉はきょとんとした表情をして深山を見上げていた。


「どうかしました?」


「……深山先生って哲学者ですか?」


 朝倉の言葉の意図が分からなかったので、彼は「はい?」と聞き返した。


「だって、なんかそんないい感じの話してくれる先生、普通いませんよ」


 すると深山は「ああ」と言って頷いた。


「普通の先生じゃないんで」


「え?」


 深山は黒板消しを置いて、軽く手をはたいてチョークを落とす。


「というのは、語弊ごへいがあるかな……。変わった友人がいたせいで、ちょっと変な考え方をしてしまう人間なだけです。私の考え方を他の人が受け入れられるかは、まあ、別ですけど」


 そして深山は壇上から降りると、「そういえば」と言って話題を変えた。


「まだ全部の教室を確認し終わっていないので、これから見てきます」


「あ、それは私がしますよ。終わっていないのはどこですか?」


 深山は教室の電気を消すと、「いいえ」と言った。


「朝倉先生は先に職員室に戻って大丈夫です。私がやると言ったんですから、任せてください。それも大切なことだと私は思います」


 朝倉はちょっと驚いた顔をしたが、言葉の意味が分かるとゆっくりと安堵した表情になった。そして軽く頭を下げる。


「分かりました。では、先に戻っていますので、あとはよろしくお願いします」


 ようやく納得してもらえたので、彼も少し笑った。


「はい」


 深山は残りの三年生のクラスを見た後に、同じ階にある図書室を確認すると、廊下の西端に向かった。誰もいないので、深山の突っ掛けの音だけが妙に大きく響く。


 廊下の西側には窓があるので、深山は目の前に立つとそれを開けた。夜風が冷たい。だが、我慢してそこから空を覗く。


 今日は三日月なので、西の空に見える。あまり光が強くなく、雲もないため、星がちらほらと見えた。


 そして深山は、パンツのポケットにしまっていたスマートフォンを取り出すと、LIME(ライム)のアプリを開き、フェルメールの『牛乳を注ぐ女』という絵画をアイコンにしている相手に、メッセージを送った。


 ——ダイヤモンドの知識が役に立った。サンキュー。


 すると、送っても数時間後に読む相手が、珍しくすぐに見た。「既読」と付き、返事が返ってくる。


 ——それは晶の知識だよ。何があったか知らないけど、今度会ったときに聞く。ついでに鉱物談義覚悟せよ。あと、仕事はほどほどに。


 最後に「グット」という絵文字だけ付いた文面を見て、「あいつらしいな」と思ってくくっと笑った。深山が理科の先生になり、鉱物について無駄に知識が増えたのは「あいつ」のせいである。だが今はそれのお陰で、結構面白い日常を送れているようにも思う。


 深山はふっと笑うと、窓を閉め、もう少しやろうと思っていた仕事は明日にすることにして、今日は帰ろうと思うのだった。


(完)

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