ちょろい
「審判!!」
高く透き通った声が会場に響く。
(声がいつもと違う気がする…だがそれは今重要なことではない。)
私は続けて言った。
「ルールアウトの理由は!なんだったんですか!!」
審判は呆れた顔でこちらを見て話す。
「あなた、そんなことがわからないほどに頭がどうかしているのですか?横を見たらすぐ分ったでしょう?あなたが召喚?分身?まぁわかりませんが、人数差を覆すというルール違反をしましたよね?
まったく…自分で発動した魔法すらわからないとは。」
「いえ!!私はそんな魔法!!発動していません!!再審査を申し込みます!!魔力の残滓を見れば!!すぐわかるでしょう!!」
だが審判や観客にも苦し紛れの言い訳にしか聞こえなかった。審判はすぐに言葉を返した。
「魔力の残滓を見たからこその結果です。残滓はあなた以外の誰にも見られなかった。当然鬣犬側もです。これ以上何か言うことは?」
あぁチェックメイトとは、まさにこの状況のことなのだろう。これ以上反論しても、得られるのは私への不信感と時間の浪費による後悔くらいだ。
そう思い、私は反論することをあきらめた。
その後、鬣犬側からの要求で、パーティがこれまで貯めていたビル、総額1兆ビルを奪われた。
残ったのは試合後にいた女の子だけだった。
「これはトリノさんにも見放されただろうな。たぶんすぐ別のパーティへ移籍するはずだ。」
全てを諦め女の子に名前を問うた。
だが望んでいた答えはなく、小さな声で
「シラノ・トロヴォロス」
と答えた。
信じられない。と思いながら一応もう一度名前を聞き返そうとしたその時、私の名前が呼ばれた。
そう。確かに呼ばれた。
「シラノちゃん!!シラノちゃん!!…シラノさん!」
声の方を見ると黒い服に身を包まれた男が走っている。見た目ではわからなかったが、声でわかった。
トリノだ。トリノが来た。さて、ここから辞表提出がテンプレだな。と思い、耳をふさぐ。
だが私の手はすぐに外されてしまった。
そんな私を見てトリノが言った。
「さっきの試合、負けたと聞いたのだが、どうしたんだ?ルール違反で、しかも背まで縮んで。」
ああ、この人も信じてくれないんだ。まぁそうか一緒にいたのは数日間だけだもんな。
とにかく暗くなる。何も考えたくない。
感情が抑えられなくなり、ついには泣いてしまった。どうせ信じてはくれないだろうと、やっつけで試合での自分の体験を話した。
「信じるよ。だってその系統の魔法を君は一切使えないだろ?それに隣にいるもう一人の能力を見るに、彼女は君の分身だ。つまり強制的に分裂させられたんじゃないかな。その証拠にステータスは低くなってるし、身体も幼い感じがする。たぶんこれは呪いだろうね。それも発動者しか解けないタイプの。」
トリノは長く話した。ただ、シラノの頭に入ったのは「信じる」の一言だけだった。