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04.邂逅

 右手にレイピア、左手に刀剣を握っている春は息を切らしながら地面に膝を着いた。返り血を気にする余裕が無い程に消耗している。彼の前には2匹の狼の死体が。


「やればできるんだよ、ほら」

「確かにっ、やれましたけど……2匹だけで……こんなに疲れるなんて」


 遭遇した狼にも適切に対処できていたがたった2匹を相手に息切れしていては先が不安になる。フェリーでの襲撃時や、夏実が死んだ時は更に敵の数は多かった。ただの中学生である春には荷が重い話だ。

 そんな彼を上空から狙うカラスが1羽。油断しきっているところを仕留めてやろうと、とんでもない速度で降下する。


「あぶない」


 気がついた島原は自身の羽衣を手に取り、向かってくるカラス目掛けて振り下ろした。これによって発生した風がカラスに当たった瞬間。カラスの体は石と化し地に落ちた。


「空からなんて卑怯だね」

「な、なんですかそれ」

「この羽衣は『石化』の力を持ってる。直接当てなくても風圧だけで石にできる優れものだよ」

「……だったら島原さんだけで戦えないですか?」

「僕にだって死角はあるし、数で押されちゃどうしようもないよ。だから他の子達とも協力したい……ところだったんだけど、あっちから来ちゃったみたいだね」


 木々の間から足音と共に人影が。美しい白髪を揺らしながら歩いてきたのは黒幕であるフィリップだった。制服ではなく白いパーカーと灰色のズボンに着替えていた。


「部外者が入ってきたと思ったら、なにその羽衣」

「託されたものだよ。君の企みを止めるために使わせてもらう」


 想定外の島原および羽衣に対し苛立ちを隠せないフィリップは眉間に皺を寄せる。


「まるでボクを悪者みたいに……ボクは“世界”のためにやってるんだ」

「こんなに大勢の人を犠牲にしておいて、何が世界のためだっていうんだ」

「……理由、教えてほしい? 無駄に争う気はないからそっちにも納得してもらえたら嬉しいんだけど」


 両手を上げて戦意が無い事を表明。首を傾げて上目遣い。可愛げを見せて相手から敵意を喪失させるための行動。


「フィリップくん……君は、どこまで知ってる?」

「どこまで、か。そりゃあもちろん、全部だよ」


 今度は両手を横に広げて強調しながらの発言。全部、がどこからどこまでを示しているのか。自分の知らない事実までをも把握しているのではないか、と島原は疑う。


「じゃあフィリップくん。世界のためにやってる、と言ったね? それは“この世界”のことで合ってる?」


 話についていけない春は島原に頼るしかなかった。しかしその島原も、次のフィリップの発言は想定外だった。


「それも、全部だ」

「ぜん……ぶ?」

「分かってるよね? 宙に浮いた島……その下に何があるのかは誰にも分からない。端から覗き込んだとしても見えるのは色の無い暗闇のみ。それが、この世界。常識。でも元々は違ったんだ」

「まさか」

「うん。元々は島なんかじゃなくて、ひとつの球体だった。とある事件でその球体は崩壊し10個の世界として分かれた。そのうちのひとつがこの世界。同じような世界が他にも9つ存在してるけどボクはその世界全部を……元に戻そうとしてるんだ。均等に分かたれたわけじゃないから、世界によっては土地が足りなくて人口問題に苦労してるところもあるかもね」


 笑顔でハキハキと喋るフィリップに対し、春はやはり呆然とする事しかできなかった。自分達が住んでいる大地は宙に浮く島で、他に同じような居住可能な島は未だに見つかっていない。義務教育以前から知っている当たり前の事実だ。それが、元々は球体だったと。にわかには信じがたい発言だ。


「死んだみんなは世界を元に戻す時、春くん達と同じように生き返るよ。だから安心してボクに協力してほしいな。玲於くんには前もって話してたんだけど、彼もすごく協力的だし。戦える力もあるでしょ?」


 そう言って自身の武器を出現させた。両手に握られたのは肘まで沿う形の鉄の塊。トンファーと同じような形だったが次の瞬間、鉄は変形し鋭利な刃となる。殴る動作で斬撃が可能となる武器。すると島原が1歩前に出て警告した。


「……悪いけど、僕の思想とは対立する形になるね。世界はこのままで良いと僕は思ってる。それに春くん達を戦わせるなんてとんでもない。もちろん君も含めてね。まだ幼い子供達が戦う必要はない、大人である僕達が動くべきだ」


 フィリップを真っ向から否定する発言。対決する意思を明らかにし鋭く睨む。


「あー……そう。じゃあどうしよっかな、玲於くん」


 フィリップの背後の木々から玲於が現れた。制服には返り血が大量に付着しており数々の獲物を狩っていたと見て取れる。殺す事に慣れきってしまったようで呼吸は落ち着いていた。


「ここにいたかフィリップ。フェリーに戻っても誰もいなかったから、相当探したぞ」

「ごめんごめん。彗星くんはどこ?」

「あいつは置いてきた。使い物になりそうになかったぞ」

「そっか。まあこれから成長していくかもしれないよ」

「……で? あの男が何だ?」


 現時点で力を発揮できていない彗星には興味がなく、見慣れない羽衣を纏う島原の方に視線をやった。フィリップにとっても予想だにしていない彼の登場。玲於としては異分子を排除する方向に向かいたかった。それはフィリップも同じようで。


「ボク達の邪魔になる人間だよ。今のうちに排除しておこ?」

「わかった」


 島原を舐めきっている玲於は指を鳴らしながらフィリップの隣に立つ。2人がどんな力を持っているのか分からないにもかかわらず、島原は一人で迎え撃とうとしていた。一触即発の状態が出来上がった瞬間。彼らの間に飛び込んで来た少年が。


「お前の……お前のせいだフィリップ!」


 多比 彗星だった。首には切り傷があり爪で切り裂かれたようで出血が止まっていない。腕や足も服が破れ血を流していた。彼を見たフィリップは心から心配している様子だが彗星本人は恨みが深い。


「彗星くん……今は休んだ方が良いよ。その怪我じゃ動くのも辛いでしょ」

「何を言ってる! 殺してやる……殺してやるあああああ」


 飛びかかった彗星。しかしフィリップは軽々と回避し、武器で首を抉った。あっさりと命を絶った。

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