第07話 裂け目
朝の畑。
リルが大根を見て、眉をひそめる。
「……なにか、おかしい」
土が不自然に盛り上がっていた。
まるで何かが地面の下を這い、掘り返したように。
その周囲だけ、作物が枯れていた。
「昨日までは、ちゃんと育ってたのに……」
リルの声が揺れている。
子どもながらに、不穏な空気を感じ取っているのだ。
「もしかして、また“それ”……?」
「……かもしれないね」
僕はしゃがみ込み、指で土をすくった。
黒く変色した泥には、どこか見覚えのある“におい”がある。
あの夜、魔物と対峙したときと同じ、
胸の奥に不快な冷たさを残すにおいだった。
◇ ◇ ◇
その夜。
僕はひとり、村の外れを歩いていた。
人目を避けるように、音を立てずに。
ただ、静かに。
風は止まっていない。
でも、何かが“潜んでいる”のがわかる。
空が重い。
星の光さえ、どこか遠く感じられる。
「……来るな」
呟いた直後だった。
茂みが動いた。
ガサッ……!
小さな影が飛び出す。
子どもだ。まだ幼い、村の子だ。
「リッカ!?」
僕の声に、振り返った瞬間――
その背後、森の奥から“それ”が現れた。
牙をむき、四足で這い、腐ったような皮膚。
前とは違う。これは、群れている。
リッカが声にならない悲鳴をあげる。
僕の中で、何かが弾けた。
「……やめろ」
声が届くより先に、手が動いた。
空気が揺れ、光が走る。
僕の足元から、淡い光の円が広がる。
まるで結界のように、魔物たちの進行を遮る。
「っ……下がって!」
僕はリッカをかばい、左手を広げた。
そこから走る光が、魔物たちの動きを封じていく。
動けない。
動かない。
まるで時間が止まったようだった。
一瞬の静寂。
そして――魔物たちは、崩れるように倒れた。
◇ ◇ ◇
「……ユイ……今の、なに……?」
後ろから、リルの声が聞こえた。
彼女の後ろには、数人の村人たちが立っていた。
皆、口を開けたまま、僕を見つめている。
誰も言葉を発しない。
けれど、誰の目にも同じ感情が浮かんでいた。
――恐れ。
そして、ほんの少しの、希望。
その時、ひとりの男が呟いた。
「……あの人、ほんとに……人間……なのか……?」
◇ ◇ ◇
翌朝、僕は焚き火の前でぼんやりと空を見ていた。
村は騒がしくなり、けれど誰も僕には話しかけてこなかった。
リルだけが、いつも通り隣にいてくれた。
「ユイのこと……誰かが“神の使いかもしれない”って言ってた」
「僕は、そんな大したもんじゃないよ」
「でも、昨日のは……すごかった。怖かったけど……わたしは、守られてるって思った」
その言葉に、僕は何も返せなかった。
ただ、焚き火の火を見つめていた。
そして、その日の夕方。
村の入り口に、一人の旅人が現れた。
「失礼。ここに……“神の使い”がいる、という噂を聞いてきたのですが」
風が吹いた。
それは、ただの風ではなかった。
物語が、外の世界と繋がる音だった。