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死んでない依頼人たちとゴーストタウン・下



パイロとレビトと死霊・クレヤは、旅の目的であったネクロマンサーに会う事ができた。

ネクロマンサーのユンは、死者蘇生は出来ないと言ったが、詳しい話があるとも言った。


翌日。

ユンがイスルギと同居するイスルギ探偵事務所を訪ねると、朝一番にする話ではないと追い返された。

クレヤだけは、女子チームでお話でもするばい、とイスルギに連れて行かれた。



生きた人間2人は、手持ち無沙汰となり、冒険者組合の会館に向かった。


観光をしてもいいが、中・長期滞在を考えるならば、まずは冒険者組合に登録を済ませておきたい所だ。


冒険者組合に登録すると、仕事が貰える。


陸の漁師こと冒険者の仕事は、モンスター猟をはじめ、植物の採集、鉱物の採集、またはそれらの手伝い、そして旅の護衛など幅が広い。


仕事が"貰える"といっても、専用スペースに掲示された仕事の中から、自分で選んで受付に申請するのだが。

仕事の流れは、


申請→猟→報奨金を受け取る


である。


モンスターに襲われたので倒した→そのモンスターの仕入れ依頼が出ていた→ラッキー!申請しよう!


という流れもままあるのだが、本当は良くない。

バレたら罰金という土地もある。

リュウモンでは逆に奨励されているが、


モンスターを倒した→組合が買い取り(低価格)


というのが一般的である。


組合に登録していると、様々な手数料が発生するが、狩猟採集した物をしっかり換金できるという大きなメリットがある。


しかも何と、リュウモンの組合会館には4台のピアノがあり、組合員はここで練習もできるのだ!


ちなみにオバケハンターは割と毎日の事なので、店が組合に支払う紹介料を浮かせたくて、店ごとに張り紙で募集していることが多い。

そして、倒すと必ず貴金属を落とすので、無所属のオバケハンターも居る。

しかし、特に上納金を取られる訳でもなく、勤め先を無料で斡旋して貰えたりするので、狩猟・採集業に加え、オバケハンターとしての登録もしている、というパターンもある。


さて。

パイロがゴーストたちをすり抜けながら歩くので、館内が若干ざわついたが、レビトの主導で、2人は難無く組合に登録する事ができた。


パイロは狩猟、レビトは採集での登録となる。

パイロに狩れるものがあるかはわからないが、狩猟・採集は別々に登録料を取られるので、2人で採集をするにしても、


レビトだけが登録→2人で採集→報酬を分ける


の方が実入りが良いのだ。

その後、金銭関係で揉めないのであれば。


「あんた!昨日、ブルー・サブミッションで【龍】と大立ち回りしてただろ!」


掲示スペースを見に行ったところで、パイロが声をかけられた。


「じゃあ【龍】の登録しておいた方がいいよ!」

「【龍】と逢ったら逃亡禁止だけど倒すとお金貰えるから!」

「人間、誰かーっ!こいつ受付に連れてってくれ!!」

「受付行こうね〜新人さ〜〜ん」


何かさらりと怖い事を言われたが、ゴーストから呼び寄せられた人間に、物理的に背中を押されて、追いかけて来たレビトと、ゴーストたちと、先ほど狩猟の登録をしてくれた受付に見守られながらパイロは、


猟師(【龍】)


と、書き足した。

クレヤが蘇った時、もし彼女に神器が戻り、それを求めて【龍】が現れるのならば、どの道【龍】を切り伏せるしか無いのだ。


昔から【龍】の出やすいリュウモンでは、【龍】を倒す武器・能力を持った者を必要としている。

登録料は無料!そして何と、組合に登録していると【龍】を倒した時に礼金が出るのだ!


それを知ったユンとサンとイスルギは、これ幸いと組合に「猟師(【龍】)」で登録しようとしたのだが、【龍】がユンとイスルギの神器をに集まる習性がある事を説明した所、協議の末、利益の独占を避けるため、


「申し訳ないのですが、登録はお控えください」


となった。

ついでにサンも同様に処置された。


その事に思うところがあったのか、【龍】加工職人エキドナとナカヨシがリュウモンに来た時、【龍】の素材採集依頼を出そうとするのを止めさせ、神器使い達と直接取引をするよう、進言してくれた。


加工できず、放っておくとそのうち消える【龍】の死骸はゴミとして扱われていたため、今さら相場の設定が面倒臭かったのかもしれない。


……なので、その後、クレヤの額の第三の目は神器なのでは?という疑惑から一旦、登録の(【龍】)の部分が保留になったりするのだが、それはまた別の話。



レビトは、会館の仕事探しのコーナーで、貼り出された掲示物をじいっと見た。

それから、……どこの会館でも同じだが、薬草は1つの依頼元から複数の依頼が出ている事が多く、一纏めにしたものが置いてあったりする。それにも目を通した。

その中から、薬草採集の募集の紙を1枚選んで受付に持って行った。


「こちらは、午後0時までに当カウンターに収穫の報告に来て頂けない場合、申請が失効します。

0時周辺は混み合う事があるので、5分前までに会館に入って頂けていれば、納品書の発行が可能です。納品書を添えて、集荷場に納品してください。

それを過ぎて持ち込む場合は原則"採集の依頼が出ていない物"として買取となります。

または、未達成ということで午後に依頼を出し直しますので、それを持ってもう一度申請してください。」

「それってズルじゃないんですか!?」

「ははっ!全然ズルくないですよ!」


受付のゴーストは丁寧な口調だ。


「午後に出し直さない依頼もあるので、気をつけてくださいね。依頼書のここを見てください。」


受付は、依頼者を指差して説明した。

パイロは、一年の旅の中で、組合には意外と地域色がある事を知ったので、驚くレビトが逆に新鮮だ。


初回という事で、私有地など、入ってはいけない所がわかるマップを貰った。

これに、どこで何が採れたかや、危険な場所など情報を書き込んでいき、自分だけの秘密の地図をつくるのだ!

ちなみに再発行にはお金がかかるので注意。

これを盗む輩はどこにでも居るのでそれも注意。


それから、薬草を"採って来てから"申請を出しても大丈夫かを確認すると、


「全然構いません。持ち込まれた薬草の引き取り先を探すのは骨が折れますからね。特に今日はバンジョー同好会だから速く帰りたい。バンジョーって音がでかいから中々気兼ねなく弾けなくてェ。月一回の楽しみなんですよォ!」


との事だった。

パイロは、昨晩初登場した謎の格言「旅にはバンジョーが必要」を思い出した。


「でも、依頼の出ている野草はどれも貴重ですから、無闇に採るのは宜しく無いですね。もちろん、採り尽くしは論外です。依頼書にある採集方法の注意をしっかりと読んでください。特に、地上部のみと書かれている物を根付きで収穫するとペナルティが付きます。野山に根を捨てて来たとしても、お天道様は見ていますからね。」


ゴーストは上を指した。


オバケと会うかも知れないので、オバケハンターを雇った方が良いかと相談すると、籠に入って陳列された、紙製のオバケ避けの護符を勧められ、言われるがままに買った。

贈り物にも最適!と籠にはポップが付いていた。



午後2時過ぎ、膨らんだカバンを携えた2人の人間が戻った。

会館内は空いている。


0時に失効した依頼の貼り紙と、掲示スペースから新たに薬草・山菜採集の張り紙と、薬屋の依頼の束の中から何枚か取って、受付に持って行くと、丁寧な口調のゴーストが怪訝そうに申請の受付と納品書の発行をした。


集荷場に持って行き、2人で依頼ごとに植物を仕分けて、納品書と共に提出した。

集荷カウンターに座った担当のユウレイ型のゴーストに、


「そんなわけ無くなぁい!!?」


と不機嫌そうに言われた。

ユウレイは不正を疑っている。

パイロは少し緊張しつつ、声のする方とレビトを見比べた。


「新人がどうやって、初めてのフィールドで、こんな短時間で、こんな大量に、見つけるわけ?」

「えーと、この植物はこういう場所に生えてる、というのを、……木の形とか、本で得た知識で少し予想ができるのと、あとは勘?それから、近づくと気配がするから。」


ユウレイの集荷担当は腕組みをして、「け、は、いぃ?」と首を傾げ、そのまま回転した。

これは怒っているのか、ふざけているのかと、レビトは混乱しながらも、説明する。


「まず、感覚を研ぎ澄ませます。すると草が見つけて欲しいと語りかけて来ます…………。」

「どう言う声で?」

「いや、声じゃなくて、語りかけて来るんだってば。耳だけすまさないで、呼吸を整えて、鼻や肌でも感じるようにして………………。」


言われながら、受付も深呼吸する。

パイロも一応深呼吸しておく。


「ちょっと、入らせて貰っても良いですか?」


一応、丁寧な口調でレビトは尋ねる。

集荷担当は、奥で腕を浮かせながら仕分け作業をするデュラハンに大丈夫か?と目配せして、


「2人とも入りな。」


と言った。

突然出入り用のカウンターがガタリと倒され、パイロはビクッ!と床から浮いた。

レビトは浮いた頭と腕にびびっている。


カウンターの内に入ると、レビトはもう一度感覚を解放していく。おもむろに、納品された草に近づいて行き


「別の草が混ざってた。これは、こっち。」


と、仕分けを始めた。


「何なの?私の粗探し?監査?会館の奴と組んでるわけ!?それとも他の冒険者ぁ!?」

「うーん、俺たちの地元では、薬草が語りかけてくるのは、人の役に立ちたいからで、だから薬になるし、その善意を搾取しようと過剰に使えば毒にもなると言われてる。」


ユウレイは少し考えて、


「お前は私に答えてないし、"語りかけてくる"は胡散臭いけど、その考え方は好きだな!」


と頷いた。レビトはちょっと照れた。


「その山、雑草が多くない?」

「あぁそれは、買った人がハネるからね。良いのよ。」


デュラハンが応えた。ユウレイの方も同調し、


「この組合員、私らが来る前からこうなの。だからもう報酬満額でやんないの。買う奴も決まってんだ。」


「ねーっ」と言い合うゴースト2人を前に、パイロがさすがに「地域色がつよい」と驚きの声を漏らすが、そのユルさにもっと驚きそうなレビトは、聞こえていない様子で、別の木の葉の山に釘付けになっている。


「まさか……そんな……!」

「ア?何だぁ?毒草でも混じってるってかぁ?」


ユウレイがこの上無く不機嫌に腕を組み、空気が振動する。そのピリついた空気にパイロとデュラハンが冷や汗をかく。


「とんでもない!これは、ヤブノゴカじゃ無くてオタネサンの地上部だ!採集の依頼が出てたのに……!」


ヤブノゴカの芽は季節の山菜、オタネサンの根は高級薬草である。

2つは地上部分ではほとんど見分けがつかず、新芽は同様に食用できるが、掘って太い根が出たらオタネサンである。

ちなみにオタネサンの芽はヤブノゴカに比べて気持ち苦みと香りが強く、旨いと言う者もいる。


勿体無い、としょんぼりするレビトに、ユウレイはむにゅっと口を結んで、考える。


「……いや、信じないね!!!」

「オタネサンですよ、それ。」


パイロが口を挟んだ。


「何を根拠に……!?」

「「だって、うっすら光ってるから。」」



ユウレイはぶるぶると怒りに震えながら深呼吸をした。

相棒のデュラハンにカウンターを頼み、パイロとレビトを連れて集荷場を出た。

本館の受付に、調べたい事があるから出かける、と告げて、会館を後にすると、3人連れでヤブノゴカを納品した組合員の家に押し掛けた。


「あっ……イザヨイさん……。」


半透明な体の中に骨が透けて見てる、所謂スケルトンの組合員は、突然の事に驚きながらも、少し嬉しそうな様子だった。

ついでに、ユウレイがイザヨイという名前だったことが、今更わかった。


「タチマチさん、お忙しいところ、すみません。納品頂いたヤブノゴカの事でちょっとお話が。」

「え、何か問題でも?」


タチマチと呼ばれたスケルトンは、自分は何をしでかしたのかと震えている。


「いえ、あなたはいつも完璧。問題なのはこの人間達の方で。採集した場所にご案内頂けませんか?」


タチマチが、訳が分からないといった表情で人間たちを見やると、人間2人はぺこりと頭を下げている。


自分のテリトリーを明かす事を普通、採集家はとても嫌うが、イザヨイが頼むのだから余程の事情があるのだろうと、タチマチは承諾した。



4人は現場に向かう。

スケルトンのタチマチを先頭に歩きながら、レビトが何かに気付く。


「寄り道してキノコ取って行きませんか?」

「キノコ?この時期に?」

「だめ!!です!」


レビトとタチマチの会話をイザヨイが終わらせた。

その後、レビトが採れない高さの蔓の芽を見つけてタチマチに教え、


「うわ〜あんな採れない位置に〜」

「やらし〜」


などと、採集家どうし和気あいあいとしかけたが、


「私は取らないからね!職員はそういう決まりなんだから。他のユウレイに頼むなり、デュラハンに頼むなり、ちゃんと組合員同士で協力して取ってください。」


と、イザヨイにピシャリと言われた。


その時点でイザヨイは、レビトの能力について信憑性を感じ始めていた。


「なあ、"見えない方"。お前もちょっとは"気配"ってやつが分かる…………とするじゃん?人間はみんなそうで、うちの組合員は隠してんの?」

「珍しい能力みたいですよ。子供の頃はそうだったって人は、偶ぁに聞くかな。」

「じゃあ、2人は特別?」


タチマチも話に入る。レビトは首を横に振り、パイロは縦に振るので、ゴーストたちは困惑した。


「俺たちの地元では、子供は全員"気配"に敏感だから、山菜とか、薬草とか、キノコも。採ってくるのは子供の仕事なんだよ。」


「成長と共に、気配に疎くなる代わりに、耳が良くなったり、目が良くなったり、鼻が良くなったりするんだけど、レビトは何かの感覚だけが鋭くなるって事が無かったんです。」


「そう!だから地元では、俺はいつまでも子供だと揶揄われて。……こいつが一緒に都会に出ようって、連れ出してくれた、という。」


レビトが「ありがとうな」と言い、パイロは「都会で苦労しなかった訳でも無いし、感謝される程の事じゃない」と返す。


「……私ァ、そういう、幼馴染の友情エピソードに弱いんだァ…………。」


イザヨイに刺さっていた。

感動を噛み締めているイザヨイに配慮してか、タチマチは、控えめに「あの」と声をかける。


「この辺りから奥にヤブノゴカが生えてる感じです。」


フィールドに残されたヤブノゴカはどれも、収穫時期が過ぎているか、あと1日から数日という成長具合のもので、他の野草にしてもそうだ。

イザヨイ、レビト、パイロの3人とも関心している。


「欲が出て取ってしまいそうなところを、しっかり残してある。」

「イザヨイさんが信用するのも納得だ。」

「な。ほら。そうでしょおーっ。」


イザヨイは腕組みして頷いた。


「良い、レビト?私はお前がズルしてないか確認したいだけで、ヤブノゴカを掘る事を許可した訳じゃないんだからね。オタネサンの根っこが出て来なかったら、ちゃんと偉い人に言い付けるからね!」


少し奥に進むと、すぐに人間2人は、オタネサンの気配に気付いた。

2人ともそれが一つでない事に気付いているが、そこは口にしない。

そのうちの一つの元にしゃがみ込んで、レビトはカサカサと根元の枯葉をよけた。


「ね〜え〜!本当にオタネサンなの?それぇ??やめといた方が良くなぁい??」


元はといえば、彼女がレビトを疑って始めた事だが、幼馴染エピから情が湧いたのかイザヨイは心配そうだ。

タチマチは3人が高級薬草を探しに来ていた事を今知って驚いている。

レビトは持っていたシャベルで、サクッと地面を掘った。


何が出て来たかは言うまでも無いだろう。



「これはもう5人で独立するしか無くなぁい!?」


興奮したイザヨイが、頭を抱えて後ろ向きに回転した。


「5人て、この4人?……と、あと1人誰!?」

「一緒に集荷場にいたカトレア。私の仕事できる&性格も良い&頼りになる幼馴染。」

「独立してどうするんですか〜」


レビトの問いに、イザヨイが答え、パイロが笑った。


「採集した商品を、うちのは全部一級品って、組合通さず売り込むに決まってんじゃん。」


パイロは笑いながら「そんな怖い事できないですよ」と、声の方に返した。

目が本気っぽいと感じつつ、レビトも笑った。

タチマチだけが、真面目な顔で口を開いた。


「あの!その前に!イザヨイさん!!このあと2人でお酒でも飲みに行きませんか!?」

「いや、業務中なので。」


イザヨイはピシャリと断った。それから、


「6時半以降のご予定はどうですか?……もし、空いていれば、迎えに上がりますが。」

「は、え?……お願いします?」

「服装、これでも良いですか?」

「……良い、です。けど、僕は、着替えても良いですか?野良着なので。」

「あっ、全然、構わないです。でも、あんまりおしゃれだと困ります。私はこの服、なので……。」

「あ、はい。じゃあ。……はい。」


イザヨイがヤブノゴカの品質について突然むきになった理由を、人間たちは何と無く察したのだが、野暮なので口にしなかった。


「レビトとパイロは今日は採集終わりだよなぁ?このあと暇だよなぁ?私の仕事、手伝うよなぁ?」


「「もちろん!」」


イザヨイは「にやつきやがって」と口の中で言った。


「配達とかも手伝って貰うからな!?」

「はい!」

「お手柔らかに。」


タチマチが、空気を変えようと、「そういえばっ」、と声を上げる。


「2人の地元では成長すると植物の気配に疎くなる代わりに〜、てやつ、パイロは何の感覚が鋭くなったの?」

「オタネサンがうっすら光ってるって言ってたから……目でしょ?」

「それは俺の目じゃなくて、オタネサンの気配があまりに強いってだけで……。」


「耳だよ!」


と、レビトは言って、にやりと笑った。


「耳の良さで、ピアノの先生と結婚したようなもんだから。」


頷くパイロを、ゴースト2人が「え〜」と囃した。

話は特に広がらず、先程の採れない位置の蔓の芽との再会に、レビトとタチマチの興味が移り、イザヨイが「これは独立待った無し」と冗談を言う。


パイロは、ユンが話すと言ってくれた「死者蘇生の詳しい話」を早く聞きたいと思った。

無理だと言っておいて、そう言う、という事は恐らく、条件や方法についての話だろう。


そして、初めてクレヤを"見た"時の事を思い出した。




……いつものように、鍛冶屋の所に素材の配達に行く時に、いつもと違って、ピアノ教室の前を通っても音がしなかった。


鍛冶屋の手伝いに来ていた女性に、


「今日はピアノが聞こえなくて寂しいですね。……先生の音色が綺麗で、私、いつもちょっと止まってタダ聴きして帰るんです。」


と、世間話をした。

女性は、「ありがとう」と愛想笑いして、自分はその教室のピアノの教師だと言った。


メガネを…かけていたんだな、と、よくわからない感動をした。


他の奏者は入れ替わりがあるのだが、彼女の音だけは毎回聞こえるので、先生なのだろうと思っていた。


彼女のピアノの音がずっと好きだった。





「クレヤさんのピアノは聴いたら判ります。きれいな音がするので。」


……と、父の所に素材を納めに来た男が、わざとらしいお世辞を言ったのだとクレヤは思った。


初対面の人間に神器を使うのは初めてだった。

パイロという男は、自分にはピアノの音の違いがわかると思い込んでいた。


その後、ピアノ教室の前を通る彼の心をこっそりと覗いた。

彼はその時に聞こえる音を、「新しい人だな」「この前の人だな」「クレヤさんだ!」などと、しっかり聴き分けていたことが、神器を通して発覚した。


パイロのどこが好きかと聞かれたら、そこだ。

自分を見つけてくれたところ。


…………それと、顔。


「「顔かーーーーーっ!!!」」


しっかりオチがついて、イスルギとユンは大笑いした。


『だって、すっごいかっこいい人が突然ピアノ褒めて来て、本っ当にびっくりして!!』


死霊・クレヤは力説した。


『水晶玉からピアノの音が聞こえた時、パイロ君が「誰??」って顔してて……。パイロ君にわからないならもう。……ああ、わからないまま終わるんだなって思ったんです。』

「本当にわかって良かったね。人間でも無かったし。」


心底その通りだと頷く彼女は、自分を殺した相手に強い復讐心を抱いていた。


だから、仇が打たれ、それを理解すれば天に昇るのではないかと、ユンは考えていた。

でも、まだ居るので、クレヤはパイロがすごく好きで一緒に暮らしたいんだなあと思った。


今日は朝からブルー・サブミッションの店先で"ポーション"こと瓶詰めの【龍】の血を売るココスキを見たり、せっせと瓶詰めするマスターを手伝ったり、店の裏で昨日の【龍】を水拭きしているナカヨシを見て、その自宅に目ぼしい部位を持ち帰るのを手伝い、エキドナと話した後、町を散策するなど、ユンとイスルギはクレヤを連れ回した。

元々、死霊としてはかなり意識のしっかりしていたクレヤだったが、この一日でより人間味を増した。


イスルギ探偵事務所で楽しくお喋りをしていると、パイロがクレヤを迎えに来た。


「遅かったね。ゴーストが見えないと買い物とか、大変だった?」

「迷子にでもなりよったんかち思ったばい。」

「何と言って良いのか……色々ありまして……。」


「冒険者組合に行って、登録して、レビトを手伝って採集をして納品に行って、集荷場で山菜に高価な薬草が混じってるのをレビトが見つけて、現場を見に行って、薬草を無事回収したその流れで、集荷場の人がデートに行く事になったので、集荷と配達を手伝う事になって、配達に行ったレビトが中々帰って来ないと思ったら、染め物職人の女性と素材の採集を手伝う約束を取り付けたとかで、組合を通して派遣して貰うための手続きをして、5時締めの提出物の検品の手伝いをして、夕刻配達の準備を手伝って、その時オバケが入って来たんですけど、オバケハンターの組合員が対処してくれました。」


「色んな事が起こりすぎとって聞き取れてはおるんやけど、ちょっと何言ぅちおるかわからんばい。」

「初日から飛ばしすぎでしょ……。」


本人よりも、聞いているイスルギとユンの方がぐったりする。


「パイロさん、このあと、死者蘇生がいかに難しいかという話しても大丈夫そう?死体が頭しか無くて妻がバッタ人間になっちゃう話とか出てくるんだけど……。」


イスルギが「ぐろ……」と顔をしわしわに顰めて青くなっている。


「聞きます。」

「そん話の続き、私の前でしよったらぶちくらす。」


イントロからクライマックスのやばさに青くなって震えているクレヤと、「ごめんてぇ」と謝るユンを置いて、イスルギが出かける準備をする。


「そういえば、サンさんて……」

「朝から見らんな。」

「彼女の家じゃない?」

「いや、職場やろ。ハナチャンの。」

「バンジョー同好会ではないんですか?」


「「あーっ!それかぁ!!!」」


イスルギが、夕食を買ってくるからと、事務所を出る。

そして、ユンは語り出す。


「私もサンも、死者蘇生で全てが取り戻せると思い込んで、不幸になる人をたくさん見たり聞いたりして来たから、いっそ出来ないって言い張る事にしてる。

でも、【龍】は、この世界のものじゃないから。

【龍】に命を奪われる事だけは、この世界の道理からあまりにも外れた悲劇だから。

私は、その時だけは、どんなに(おぞ)ましい事が起きるかくらいは話す事にしてる………………」


誰がどこで弾いているのか、陽気なバンジョーが聞こえて来て、今日も夜が始まる。






[あとがき]


イスルギは死者蘇生グロエピソード全集を聞いたことがあり、若干トラウマっている。

バッタ人間は失敗例の中でも割とグロさが低い方。


将来グロい憑代や生ける屍を作らないようにと脅かされて、子供たちは一生懸命訓練する。

カサスの年寄りは死後、憑代作りの練習に付き合ってくれたりするのだが、ユンもサンもピチョンも子供の頃にグロい憑代を作ってしまった事がある。



これでザ・シリーズは終わりになります。


お付き合いいただき、ありがとうございました。

皆様におかれましても、毎日を悔いなく過ごせますよう、心からお祈り申し上げます。




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