死んでない依頼人たちとゴーストタウン・上
幼馴染の妻が、何者かに刺されて死んだ。
彼女の葬式の途中、気が付くと、レビトは知らない土地に居て、ゴーストに囲まれていた。
「気が付いたか!?」
と声をかけられ、甘い炭酸を飲ませてもらった。
「あんたの奥さん【龍】だって知ってたのか!?」
「???」
「なに不思議そうにしてんだ!!奥さんあんななってんぞ!」
ゴーストに壊れた壁を指差され、外に異形の死骸が見えた。
「???」
レビトは混乱を落ち着けようと、甘い炭酸を飲み干した。
「ここは、どこなんですか???」
「レビト!大丈夫か?」
さっきまで喪服を着て、喪主の化粧をしていたはずの幼馴染が仕事着を……しかも濡れて破けたものを着ており、見た事のない、半透明の長剣を持っている。
「い……異次元転移!?そういう本、読んだ事ある!!6次元の世界では全ての事象が同軸平行線上に重なり、ここは俺がパイロが里から出ていくのを引き止めてしまう世界線のパラレルワールドなんだ!!」
「いや、一緒に里から出たでしょうが。……お前が薬の専門書読んでるふりして別の本読んでるのは知ってたけど……」
パイロは濡れた髪を借りたタオルで拭きながら、大きくため息を吐いた。
「2人とも座って、何か食べたらどうです?」
小柄なゴーストの店員から心配そうな目で見られながら、レビトは幼馴染と共に席に案内された。
何故かその席に、パイロと同じように湿った髪を拭きながら、砂漠風のケープを着た、小柄な……恐らく北方の人間と、占い師……または南方のシャーマンと思しき人間も着席した。
テーブルの中央には、占い師が持っているような水晶玉が大事そうに置かれる。
店内のゴースト達が皆、あからさまに4人に注目しているが、レビト以外の3人はそ知らぬ顔だ。
「あの、もしかして、皆さんゴーストが見えてない……?」
「いや?見えてるよ。」
「見えてないのは俺だけだよ。」
「注目されて当然やち思ぅとるだけばい。」
幼馴染以外には見えていたし、シャーマン風の女性は訛っていた。
パイロがレビトに語りかける。
「俺たち、クレヤの葬式の後、旅に出たんだけど……」
「クレヤさんの?葬式、後?旅??」
「覚えてないのか!?俺は町に帰る気は無いって、言ったけど、「じゃあ自分もそうしようかな?」って言って、付いて来てくれただろ。……その事も?」
レビトはパイロの目を訝しげに凝視したまま、ゆっくりと首を横に振った。
「俺が覚えてるのは、クレヤさんの葬式で、パイロがお義父さんと今後の話をしていて。
……俺は、"神器を持ったネクロマンサー"の噂を教えようとしたんだ。
一緒に探してみないか、って。
死体の骨が小指一本でも残ってれば、ネクロマンサーは死者を蘇らせる事ができるなんて、嘘みたいな話があるけど、そのネクロマンサーは実際に生ける屍を連れているらしい。って……」
「あーーっ!!!」と声を上げレビトは、ユンの背中からショッキングピンクの杖が覗いており、飲み物を持って来た小柄な店員が、ゴーストではなくユンとほとんど同じ顔立ちの、生ける屍ではないかと気付く。
「神器のネクロマンサー!?」
「そう!私はユン!」
「私はサン!」
「そして私がイスルギばい!いいから、続き、続き!!」
イスルギから急かされたが、レビトは渋い顔をする。
「いや、もう、そこで終わりで。パイロにいつ声を掛けようかと思っていたら突然ゴーストに囲まれてたんです。」
パイロが「そんな!」と、幼馴染の肩を掴む。
「俺と、お前の妻のソルトと、3人で1年近く旅しただろ!?何も覚えてないのか??」
「俺の妻??俺に……妻?いつ結婚したの?」
「それは…………あれ?」
パイロとレビトは2人で見つめあったまま混乱している。
そこまでの話を聞いて、水晶玉が、イスルギに語りかける。
『レビトの妻のふりをしていた【龍】は、クレヤの神器を手に入れた後、レビトがネクロマンサーの杖……つまり、もう一つの神器の所に、パイロを連れて行こうとしている事に気付いたのでしょう。クレヤの神器を使ったのかも知れない。そして2人に近づいた。』
「ここまで来る間、クレヤさんの神器は別の者の所には飛べんかったと?」
『無理でしょう。別種同士の【龍】は、一部の例外を除いて、お互いの力を阻害し合うのです。捕まってしまっては、能力を十全に発揮できない。しかし、私たち神器の方も、死骸とは言え、もとは特別製の【龍】ですから、無闇にクレヤの神器を使えば【偽妻】もそれが自分の体に毒だと判ったでしょう。』
「なるほどな。……けど、他の神器の在処をレビトさんが探そうとしとるちわかれば、もう神器を違う必要は無かね。」
うんうん、と頷くイスルギの様子に、水晶玉と喋っていると気付いたユンが、質問した。
「水晶玉は、【龍】の能力はなんだったと思う?記憶改竄?」
「あっ!!私が聞こうち思ったんに!!」
イスルギは水晶玉の言葉に耳を傾け、他の3人はただそこに在る水晶玉をじっと見た。
周りのゴーストは一生懸命聞き耳を立てる。
「水晶玉曰く、何種類か混ざった【龍】には間違いない……が、ただ数種類を合体させた、今までの感じとは違うらしい。ベースの【龍】がまずおって、その補助か強化のために、擬態するタイプのと、周りの精神を操作して自分を仲間やち思い込ませるタイプのが混ざっとるんやないかと。」
「あ〜……!」
ユンの頭にもエキドナの顔が浮かんだ。
水晶玉は、人間に化けたレビトの偽妻・ソルトを【龍】と気付かなかった。今後、エキドナに似た能力のある【龍】が敵として現れる事になるのは、厄介かも知れない。
「で、そのテの……精神操作する【龍】のメスには、自分を守って貰うために、気に入った異種族のオスのケツに毒針を刺して、自分を妻やち思い込まして、メロメロにさす習性が…………」
レビトは真っ青だ。
パイロは絶句している。クレヤの死霊も口元を抑えて青くなっている。
自分の尻をさすっているゴーストもいる。
「いや、あくまでも!そういう種類もいるち言うだけやから!!」
神妙な面持ちのココスキが、スーッと近づいて来て、レビトに尋ねた。
「同軸平行線て何?」
「ラプラスの視る歴史は複雑に枝分かれしながらも、遠くから見れば常に同じ太さの線を描いていて、それらは枝を絡めながら、何本も同じ場所に実質重なっている、という……」
「……つまり?」
「俺もよく分かんないけど、とりあえず、書いてあった事を暗唱している、という……」
「逆にすごいね!!?」
ココスキは楽しそうにレビトの肩をばしんと叩き、感心しながらスーッと去って行った。
マスターの紹介でその日の宿が決まり、部屋に入ったレビトは取る物とりあえず幼馴染に尻を見てもらった。
彼の尻は特に腫れていたり、赤くなったり青くなったりという訳でもなかった。
ただ、よく見ると尾てい骨周辺にいくつも小さな虫の噛み口とも見える物は確かにあった。
しかし、妻の尻すらそんなにまじまじと見た事が無かったパイロにはそれが【龍】に刺されたのか、ただの毛穴なのかよくわからなかった。
「特に……普通の尻に見える。」
幼馴染の言葉にほっとしたレビトだったが、自分の荷物から知らない女の持ち物が出てくると、震え上がった。
その夜、パイロは記憶喪失の幼馴染に旅の事を話した。
神器使いのネクロマンサーを探しに行こうと切り出したのはレビトだった。
パイロたち一行は、「ネクロマンサーを頼り、今回の事件について何かしらの落とし所を見つけたい」と、クレヤの両親に別れを告げ、町を出た。
町を出た後は次に近い町、次に近い町と、数日滞在しながら情報収集をした。
実はレビトが自分を町の外に出したのは、単純に塞いだ自分の気を紛らわす傷心旅行が目的なのではと思ったりもしたのだが、レビトと【偽妻】は
「はやく神器が見つかると良いね」
「絶対に神器を見つけようね」
と言って、励ましてくれ……
「……あれ?神器使いじゃなくて、神器を探すってずっと言ってた……?」
「怖い事言うなよ……!!」
2人はゾッとした。
「長い事、日雇いの仕事で旅銀を稼ぎながら、歩いたり、馬を借りたりしたけど、最後はファルコンに運んで貰って一瞬だったな。」
「ファルコン!?あの、空飛ぶ犬の?」
「そうだよ。」
パイロは思い出す。
街の中で巨大な黄色い犬が、
ネクロマンサーの村で癒しの旅!おいしい海藻料理を食べて大きなお風呂に入りませんか!?
……という謎のPRをしていた。
ネクロマンサーと聞き、ネクロマンサーのユンという人を探していると彼に話すと、
「ぐるぅん……がぅがぅがぅがっふ(ユンかぁ……良いけど、ちゃんとココにきなこが連れて来た客だって言ってね。)」
「知り合い?……なのに、会って行かないのか……?」
「スン。がうがぅ……(そりゃ、友達の家族と、友達抜きで会わないでしょ。)」
と、そこまで思い出して、温泉ファルコン・きなこの言伝をすっかり忘れていた事に気付いたパイロだった。
ファルコンを見逃した事に涙目になるレビトを「大丈夫だよ、多分だけど、絶対また会えるよ」とパイロがなだめ、2人は今後どうするか、という話題に入っていった。
「まあ、俺は採集家だし。採集家は知識があればどこでも働けるからな。まずは冒険者組合で日雇の仕事からかな。ゆくゆくは薬屋のお抱えなんかになれたら良いけど。」
「うん……それは、旅に出ようって誘われた時、最初に聞いた。」
パイロはなお、幼馴染の記憶喪失の片鱗に悲しい顔をし、レビトは神妙な顔をして「そっか」と呟いた。
「パイロは?お前もとりあえず冒険者?」
「できれば。俺は、オバケは狩れないし、ゴーストの姿も見えないけど、ここには居たいし。……ゴーストが見えなくてもゴーストタウンの組合って登録できるのかな?」
「まあ、できなくても俺が面倒見るからやるから大丈夫だよ。」
レビトは冗談めかして言った。
「ごめんな。」
「謝る事なんて何も無いだろ。」
この一年のことだけで無く、子供の頃の事や、里から出ようと誘った時の事、今までの記憶が蘇り、感謝極まるパイロは、レビトが自分に向ける深い感謝に気づかない。
尻を確認してくれて、一緒の部屋に泊まって夜更けまで話に付き合ってくれる幼馴染の存在が今、レビトにとって、どれだけ心強いか。
突然知らない者達に囲まれ、知らない土地に居り、これは現実では無いかも知れないし、ここは別のパラレルワールドかも知れないが、パイロが居れば大丈夫と思える。
里から出て都会で暮らし始めた時と、それ程変わらないじゃないか、とレビトは自分に言い聞かせた。
「明日、どうする?一旦組合の登録だけしに行く?」
「俺は、ユンさんに話を聞きに行かないと。」
「死者蘇生、って、ちゃんとして貰えるんだよな?」
そこも聞いていない事になっていたのか、とパイロは、ネクロマンサーと生ける屍に言われた事を思い出す。
「できないんだって。死者蘇生はネクロマンサー1人につき1人まで、……みたいな事言ってた。」
「じゃあ、何の話を聞くんだ?」
「さあ?何か裏技の条件があるのかも知れない。」
レビトは「そうか、そうだと良いな」と目を閉じて、裏技の条件を想像し始めると同時に眠りに落ちた。
幼馴染のベッドからスピーーーという寝息が聞こえて来て、あいつ寝たな?と気付いたパイロも目を閉じた。
「おやすみ、クレヤ。」
[あとがき]
後半へつづく。
「エキドナ」は魔王軍に名付けられた種族名で、この世界でエキドナを名乗るモンスターと出会ったら全員、擬態したこの魔物だと思って良い。
また、「変化・擬態+仲間だと思わせる系」という処方をまとめてエキドナ系としており、ソルトは魔王軍の物をベースにエキドナ系を組み合わせた最新式だが、ベースの魔物の、魔王軍に忠実な人格を損なわないよう、エキドナ系の魂を抜いているので耐久値の上昇が無い。
"【龍】剣"には作り手の魂と使い手の魂が宿るので、丁寧に作られた物ほど強いし、長く使うほど強くなる、とエキドナ(ナカヨシの父)は考えている。




